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「B.LEAGUEプロダクション」を設置した理由。Jリーグの映像ビジネスは日本中のスポーツと共に

2021.08.26

2020年8月、株式会社Jリーグは「B.LEAGUEプロダクション」を社内に設置し、2020-21シーズンよりB.LEAGUEの全公式試合の映像を制作することを発表した。この業務提携は2017年、Jリーグ公式映像の制作を行う「Jリーグプロダクション」の立ち上げが契機となっており、そこで蓄積されたノウハウを活かす形で 「B.LEAGUEプロダクション」は運営されている。一連の映像に関する取り組みにはどのような狙いがあるのか。そして「B.LEAGUEプロダクション」の活動を1シーズン終えて、得られた成果とは。

株式会社Jリーグ所属の岩貞和明氏(マルチメディアカンパニー部門 マルチメディア事業統括部長)、茂木剛史氏(マルチメディアカンパニー部門 B.LEAGUEプロダクション プロジェクトマネジメント)、内田大三氏(マルチメディアカンパニー部門B.LEAGUEプロダクションプロデューサー)の3名に「Jリーグプロダクション」立ち上げの経緯から「B.LEAGUEプロダクション」設置、活動に至るまで、時系列で話を聞いた。

自分たちで映像を作って発信する必要性

――「B.LEAGUEプロダクション」が設置される3年前、2017年にJリーグの中継制作や映像管理を自社で行うことを活動目的とした「Jリーグプロダクション」が立ち上げられました。まずはこの経緯から教えてもらえますか?

岩貞「Jリーグの放映権がスカパー!からDAZNに移った2017年を機に、中継映像を自社で制作することになりました。DAZNとの契約が決まった直後に社内で『Jリーグプロダクションエグゼグティブチーム(JPET)』という名称の4、5人程度のチームが作られて、中継制作における理念やコンセプトなどの議論を始めています。全試合が同じフォーマットで制作されることを重視して、インタビューのタイミング、海外や日本のローカルテレビ局への映像分岐方法、CGのデザインなど、100ページくらいのマニュアルに落とし込む形で整えました」

――2017年の立ち上げ当初は「Jリーグプロダクション」という名称ではなかったのですね。

岩貞「その通りです。『Jリーグプロダクション』は正確には活動2年目となる2018年からの名称で、以降は10数名体制で毎節の中継映像をチェックしつつ、DAZNや制作会社と意見交換しながら制作のクオリティ向上に日々取り組んでいます」

――放映権交渉の中で、DAZN(放映権獲得会社)が中継制作を行う選択肢は検討しましたか?

岩貞「しなかったですね。『Jリーグが中継映像を制作し、著作権を持つ』ことを大前提に、関連して『各クラブやJリーグがオウンドメディア上で試合映像を一定の制限のもとで使えること』も(放映権を販売する上での)条件として提示しました」

2017年、DAZNとの契約がJリーグの映像戦略において大きな転換点となった

――そうした意向を持った理由は何でしょうか?

岩貞「当たり前ですが、他社の著作物を利用する上では様々な許諾が必要になります。そこが一番の理由ですね。村井(満/Jリーグチェアマン)がよく話題にするキャプテン翼とのコラボ企画『反動蹴速迅砲』動画(2014年公開)が800万以上の再生回数を記録したことで、時代的にも自分たちで映像を作って発信する必要性を感じました。自社で権利を持てば、動画を画作りにおいてもいろいろ工夫ができるので」

――2019年には映像の有効活用を目的とした「Jリーグ FUROSHIKI(Jリーグふろしき)※」構想も発表されます。

※「Jリーグ FUROSHIKI」:Jリーグが著作権を有する試合映像をはじめとした映像コンテンツや静止画、スタッツデータなど、すべてのデジタルアセットを集約し、一元的に制作・編集・供給・配信等をマネジメントするデジタルアセットのハブ機能。

「Jリーグ FUROSHIKI」コンセプト図 (Jリーグ提供)

岩貞「もともとは、株式会社Jリーグメディアプロモーション(2020年1月よりJリーグ関連企業と合併し、株式会社Jリーグに商号変更)が、1993年のJリーグ開幕時からNHKやスカパー!など、他社が著作権を持つ映像を管理していていました。加工した映像の販売や、ニュース映像の提供を含め、近い取り組みは以前から行っていたんです。2017年以降は著作権を我われが持つことになったので、集め方、加工の仕方、デリバリーまで、これまで以上に映像の活用を推進しようということで『Jリーグ FUROSHIKI』と名付けたという経緯ですね」

――コロナ禍の影響や周年を迎えるクラブが多いこともあり、過去の試合映像へのニーズはここ数年高まっています。Jリーグクラブは「Jリーグ FUROSHIKI」へのアクセスは自由にできるのでしょうか?

岩貞「基本はオーダーに応じて弊社が提供する形ですが『Jリーグ FUROSHIKI』はクラウド上に作っているので、コロナ禍の在宅勤務でもスムーズに対応が可能です。一部サービスは直接アクセスし、クリップ動画など生成することもできます。ちなみに、古い試合もデジタイズしてアップロードしているので、(Jリーグ FUROSHIKIには)1万5000試合以上のデータがあります」

他のスポーツに還元することが大切

――そうした経緯を経て、2020年に「B.LEAGUEプロダクション」が設置されます。前提として、B.LEAGUEの映像の権利はどのような状態なのでしょうか?

岩貞「B.LEAGUEは立上げ当初から、B.LEAGUEが著作権を持つという形が取られていました。Jリーグとしては映像のアーカイブ管理や販売の部分でずっとお手伝いさせていただいていました。2020年からは『制作も含めて一気通貫で映像を扱いませんか』とB.LEAGUEに提案させていただき、『Jリーグプロダクション』や『Jリーグ FUROSHIKI』のノウハウを活かす形で『B.LEAGUEプロダクション』を立ち上げました」

――サッカーを主商品として扱うJリーグが、バスケットボールの中継制作や映像管理を担うという座組みに驚かれた方も多いと思います。

岩貞「Jリーグの理念として、サッカーだけではなく、日本のあらゆるスポーツの発展を考えているので、『B.LEAGUEプロダクション』も経済的なメリット以上に『日本のスポーツを盛り上げる』というコンセプトで活動している側面が強いですね」

――「B.LEAGUEプロダクション」の中継制作や映像管理はJリーグと同じ制作会社やプラットフォームを使っているのですか?

岩貞「そうですね。Jリーグの中継制作を発注している会社にB.LEAGUEもお願いすれば、両競技の制作経験からクオリティの向上が期待できますし、効率化によって制作費も抑えられる可能性があります。映像管理も同様に、新しいプラットフォームを作るよりも『Jリーグ FUROSHIKI』を共有する方が運用的にもスムーズですし、コストも抑えられます」

――ソフト面において「B.LEAGUEプロダクション」設置以降、B.LEAGUE中継の具体的な変化はありますか? また、9月の新シーズン開幕に向けて準備されている取り組みがあれば教えてください。

茂木「まず、昨シーズンの変化としてB2の試合中継に実況が加わりました。J3でも実況のみの中継制作を行っているので、そのノウハウを活用しています。今シーズンはその実況や解説といったコメンタリー部分のクオリティアップに取り組む予定です。B.LEAGUEとともにコメンタリーに関する評価基準を設定ができたので、昨年以上に視聴者に喜んでもらえる表現を増やせていければと思っています」

内田「B.LEAGUEプロダクションとして求めている中継クリオリティを評価基準という形で明確に発信しつつ、制作会社の声も大切にして、より良い中継を目指したいと考えています。昨シーズンは毎節フィードバックを積み重ねていくことの重要性を痛感した1年でもあったので、そのコミュニケーションは続けたいですね」

――Jリーグ中継制作のノウハウが活きている一方で、B.LEAGUE中継特有の部分もあると思います。

茂木「バスケットボールはアリーナスポーツなので、音や光の演出が華やかで特徴的です。ファンもそこを楽しみにしているところがあるので、試合以外の部分の見せ方を重視していく必要性は感じています。一定の中継フォーマットはあるにせよ、画一的であることを求めているわけではありません」

内田「『B.LEAGUEプロダクション』内だけでなく、制作会社のみなさんからも『場内演出の部分をもっと見せたい』という声はいただいているので、各所との調整や既存の中継内容のどの部分と差し替えるのかも含めて検討しています」

B.LEAGUEの魅力である華やかな場内演出を2021-2022シーズンは更に見せていく予定

――内田さんは前職がスポーツチャンネル「GAORA SPORTS」で、スポーツ中継の制作にも携わられていました。現職に活かされているご経験もあるのではないでしょうか?

内田「放送局(GAORA SPORTS)の社員だった時、良い関係を築けていた競技団体の試合中継は気持ち良く制作ができていて、クオリティにも繋がっていたと思います。今は(中継制作をする会社に対して)『こうしてください。これは間違っています』など細かく伝えなければならない立場ではありますが、現場に近い相手の考えも尊重しないと良い中継はできないと考えています。そうしたB.LEAGUEや制作会社との向き合い方のバランスは、前職の経験が活きていると思います」

――先ほどJリーグの理念の話がありましたが、今後の展開としてB.LEAGUE以外のスポーツの中継制作や映像管理を行われる予定はありますか?

岩貞「すでに卓球の『Tリーグ』に関わっていて、アーカイブや試合映像デリバリーなどをお手伝いさせていただいています。9月に開幕する新シーズンからは、中継制作も行うことが決まっています。あと、女子サッカーの『WEリーグ』も我われで中継制作や映像管理を行います。各スポーツの映像ノウハウが溜まっていくので、それを共有する形で日本中のスポーツ中継のクオリティを高めていけると思います」

茂木「全日本柔道連盟と日本相撲協会にも『Jリーグ FUROSHIKI』についてご理解いただき、映像の管理の部分で一部お手伝いさせてもらっています。様々なスポーツの映像素材が蓄積されると出来ることが広がっていくので、今後も様々な競技団体様と何か取り組めればと思います」

――想像以上に活動領域が広がっていることに驚きました。最後に、今後の活動について皆様から一言いただけますか?

内田「私の所属はJリーグですが、サッカーだけではなく、『日本のスポーツ界のため』という広い視野で仕事をしていることを知っていただければうれしいです。(自身が受講した)FIFAマスターの卒業生も全員がサッカー界で働いているわけではありません。Jリーグの理念にも通じますが、サッカーだけではなく、スポーツを通じて日本を豊かにできることに貢献できればと思っています」

茂木「皆さんが想像していたような形で、東京オリンピック・パラリンピックが開催できなかったと思います。そういう状況だからこそ、サッカーやバスケットなど競技の垣根を越えて、皆で協力しながら日本のスポーツを盛り上げることが大切だと思いますし、我われも『Jリーグ百年構想』のもとで、お手伝いできることがあればと思います」

岩貞「Jリーグがこれまで積み重ねてきたノウハウを他のスポーツに還元することが大切です。それは我われだけではなく、メディアやファンも同じ。Jリーグの良いところも、悪いところも他のスポーツ関係者からは見られていると思うので、お互いに切磋琢磨して、成長できる関係や循環が生まれればいいと思います。今後もファンが喜んでもらえるものを追求していきます」

Yasuaki IWASADA
岩貞和明

2007年に社団法人日本プロサッカーリーグ入社。事業部、イレブンミリオンプロジェクトなどファンディベロップメント・プロモーション業務を担当。2010年から株式会社Jリーグメディアプロモーション(現(株)Jリーグ)に所属し、放映権、デジタルアセットマネジメント、中継映像制作など映像ビジネス全般を統括。

Takeshi MOGI
茂木剛史

2008年に社団法人日本プロサッカーリーグ入社。以後、競技運営、イベント企画、アカデミー業務等に従事。2019年より(株)Jリーグメディアプロモーションにて、スカウティング映像やスタッツデータを含む、Jリーグデジタルアセットハブ、通称“JリーグFUROSHIKI”の構築に関わり、サッカー以外の様々な競技も担当する。

Taizo Uchida
内田大三

株式会社GAORAで番組制作や編成、海外渉外などを10年間担当した後、FIFAマスターに入学。2020年8月に株式会社Jリーグ入社、B.LEAGUEプロダクション担当。

Photos: J League , Getty Images

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Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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