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ビエルサ到来に“揺れる”ウルグアイ。根強い外国人監督への抵抗と、今こそ必要な「賭けに出る姿勢」

2023.05.19

5月15日、AUF(ウルグアイサッカー協会)はマルセロ・ビエルサ(67歳)がウルグアイ代表の新指揮官に就任したことを発表した。次期代表監督候補としてビエルサの名前が浮上し、信頼できる情報筋から「AUFとの合意も間近」と言われ始めてから実に5週間。待ち焦がれたメディアは一足早い11日、AUFの発表を待つまでもなく一斉に「就任決定」と報道。121年の歴史を誇る同チームが外国人監督を迎えるのは、同じくアルゼンチン人のダニエル・パサレラ(1999年4月〜2001年2月)に続いてこれが2度目である。

 4月初旬、AUFの関係者から「ビエルサがウルグアイ代表と契約することになりそうだ」と知らされた時、私は一瞬自分の耳を疑った。ウルグアイ代表が日本代表と親善試合を行う直前の3月中旬の時点で、AUFのイグナシオ・アロンソ会長は前任のディエゴ・アロンソ監督との再契約しか考えておらず、アロンソ監督自身も新たにチームの指揮を執る明確な意志があると権威筋から聞いていたからだ。

 カタールW杯後に飛び交った「ビエルサ次期監督就任説」については当時、代表番記者やAUF役員もはっきり否定しており、単なる噂で終わったことに間違いはない。

 これについては私も、3月に寄稿したコラムの中で次のように書いた。

 “AUF会長がアロンソ監督支持を公言していたにもかかわらず、一部メディアが「ウルグアイ代表監督候補にマルセロ・ビエルサの名前が浮上」と報じ、一時はそれが世界中に拡散された。AUF関係者がビエルサとコンタクトを取った事実はなく、明らかなフェイクニュースだったが、そんな虚偽情報が出回った背景にはアロンソ監督の続投に疑問を抱く人が少なくない現実がある――”

 だがのちに、その疑問から生じる不満が引き金となって状況が急変した。

 W杯での彼の不可解な采配についての説明を待ち望む声が高まる中、アロンソ監督は沈黙を貫き通し、メディア関係者の間でも不信感が募り始めていた。いわゆる「日にち薬」でやがて治ると思われた不満は日が経つにつれてどんどん膨れ上がり、ネット上ではアロンソ監督が、彼の愛称である“Tornado”(トルナード=竜巻)をもじって“Trastornado”(トラストルナード=気の触れた者)と呼ばれるようにまでなっていた。

 W杯で結果を残すことができなかったにもかかわらず2月中旬に再選を果たしたアロンソ会長としては、そんな世論に逆らう姿勢を示すわけにはいかない。そこで代表チームが日本と韓国との親善試合を終えた3月末、AUFの新理事会メンバーに就任した一部の役員から、アロンソ監督継続に対する懸念とともにビエルサを強く推奨する声が上がるや、アロンソ会長も考えを改めざるを得なくなったのである。

 (ちなみにアロンソ前監督は5月12日に自身のSNSアカウントを通じて退任の挨拶となるメッセージを公表。これに対して多くの人が「いくらなんでもコミュニケーションが遅過ぎる」と厳しい反応を見せ、ベテランアナウンサーのアルベルト・ケスマンもTwitterで「もっと早く表明していたら異なる結末になっていたかもしれない。より良い結果という意味ではなく、より明解で期待された通りの形になっていたのでは」と見解を述べている)

「賛成」は半数以下。ウルグアイ人指導者たちの主張

 ではウルグアイの人々は名将ビエルサの到来を手放しで喜んでいるのかというと、決してそうではない。

 同国の全人口の約半数が居住する首都モンテビデオの公共放送局『TV Ciudad』が市民を対象に行ったアンケート調査によると、「大いに賛成する」と答えた人は14%、「賛成する」は22%。肯定的な見方をしている人は36%に留まっており、「反対する」が9%、「強く反対する」が6%と、計15%がビエルサの代表監督就任に同意していないとの結果が出ている。……

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Profile

Chizuru de Garcia

1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。

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