2年連続となる「JAPAN TOUR 2023」で、7月25日(火)にクリスティアーノ・ロナウド擁するアル・ナスル(ヤンマースタジアム長居)、28日(金)にセレッソ大阪(同)、8月1日(火)にインテル(国立競技場)と対戦するパリ・サンジェルマン(以下PSG)。ルイス・エンリケを監督に招へいした新チームの現状レポートをフランス在住の小川由紀子さんに依頼したところ、そのさなかに我われ日本のファンにとっては残念な「背番号7がいない」29人の来日メンバーが発表された。
なんとなく嫌な予感はしていたが、現実となってしまった。
7月22日(土)、フランスから日本へと飛び立ったPSGの遠征メンバーに、キリアン・ムバッペの名前はなかった。38番ムバッペ……とあるのは、16歳の弟エタンだ。
17日(月)から代表組も復帰し、チーム全体で正式に始動したPSGは、21日(金)にトレーニングコンプレックスにルアーブル(今季リーグ1に昇格)を招いて、プレシーズン最初の対外試合を行った。兄のキリアンは、ウーゴ・エキティケが先制点を決めた後の65分から出場。アディショナルタイムに弟から受けたパスを起点に追加点を挙げ、2-0での勝利に貢献した。
そしてこの試合後、ムバッペはクラブから、日本ツアーには帯同させない旨を通達されたという。
日本ツアーに帯同しない=新シーズンの構想外、を意味する。ムバッペの他には、期限付き移籍から戻ったユリアン・ドラクスラー、レアンドロ・パレデス、コラン・ダグバ、ジョルジニオ・ワイナルドゥムらもその「帯同しない組」に含まれている。
「PSGでプレーすることは、あまり助けにならないと思う」
いよいよ実力行使に出たか、という感じだ。
6月中旬、ムバッペ側はクラブに「2024-25シーズンの延長オプションは行使しない」旨を書面で通達した。これに対しナセル・アル・ケライフィPSG会長は、7月5日のルイス・エンリケ監督就任発表会見の席で「タダで出て行くことはあり得ない。このクラブのカラーを守る気がない者にはドアは開かれている」と異例の意思表明。大エースのムバッペであっても「放出も辞さない」というクラブの姿勢を宣言したのだった。
オプション行使の期限は7月31日。ムバッペは「延長はしない。しかし最後の1年、PSGで全力でプレーする」という決断を翻(ひるがえ)すつもりはないようだが、仮にムバッペが契約延長に応じなければ、クラブ側はこの夏のメルカート中に売却、あるいは、かつてアドリアン・ラビオ(現ユベントス)にしたように、練習や試合に参加させない「飼い殺し」状態にすることもあり得る。
記者たちの間でこの話題が出た時には、「いくらなんでもムバッペを飼い殺しにできるはずはない」というのが満場一致の意見だった。ムバッペ陣営もひょっとしたら同じように考えていたかもしれない。しかし今回、ツアーに帯同させないという実力行使に出たことで、クラブ側は「どのような選手であっても、個がチームを上回ることはない。ムバッペであっても、それは例外ではない」という姿勢をアピールした。
当初、クラブ側が放出を考えていたのはネイマールで、毎年肝心なCL決勝トーナメントの時期にケガで欠場を繰り返し、ファンからも愛想を尽かされているブラジル人FWについては、カタール陣営も放出を望んでいたと言われる。情報通の記者は、昨シーズン終盤にネイマールの自宅前でウルトラスが決起した一件は、カタール勢の画策だった可能性がある、なんていう仰天話もしていたが、一転、PSGの公式サイトを見ても、プレシーズン始動後のトレーニング風景のギャラリーや動画では、ムバッペはちらっと映る程度で、主役アングルはマルキーニョスやネイマールに向けられている。初日に撮影した全体写真にいたっては、ムバッペは左の端っこに立っている。うまくトリミングすれば、2023-24シーズンには「いなかったこと」にもできそうな絵面だ。
『レキップ』紙は、PSG側は「ムバッペがすでにレアル・マドリーと、移籍金ゼロでの移籍に合意していると考えている」と報じているが、実際のところ、ムバッペの決断は驚きだった。彼は前々から「移籍金を残してPSGを去る」という意思を強く表明していたからだ。……
Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。