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ペップ・シティの[3-2-5]が模倣困難な理由。偽CBの「空洞」を生かすシステムの柔構造化

2023.07.23

悲願のCL初制覇を含む3冠で2022-23シーズンを彩ったペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティ。その原動力となったジョン・ストーンズが偽SBあるいは偽CBとして中盤へ入り、DFラインに「空洞」を生み出す[3-2-5]システムの機能性と革新性を、エリース東京の監督を務める山口遼氏に解説してもらおう。

ラストピースのストーンズがもたらした戦術的優位性

 ついに念願のビッグイアーを獲得し、新たなシーズンへ向けての準備の一環として来日も発表されているマンチェスター・シティ。2022-23シーズンを振り返ってみると、ア―リング・ハーランドという怪物を迎えたことで、チームが彼に「適応」するような形で戦術面、編成面での影響は避けられなかった。ここ2シーズンのメインだったジョアン・カンセロをフリーロールの偽SBとして起用する[2-3-5]のゲームプランにペップ・グアルディオラは比較的早々に見切りをつけ、急激に出場機会を減らした彼はなんとシーズン途中にレンタルでバイエルンに放出されることになった。

 その代わりに戦術的な軸となったのが確かな守備力を武器にするナタン・アケ、ゲームを落ち着かせる「ボールを失わないウイング」としてのジャック・グリーリッシュだった。チームに変化を加えられるカンセロではなく、チームに落ち着きを与えられる選手が中心になっていった一方で、それでもチームの得点の多くを生み出すケビン・デ・ブルイネとハーランドのホットラインの個性に引っ張られた結果、やや全体のバランスがカウンター寄りに針が振り切れてしまい、ペップらしいボール保持やゲームテンポが失われた時期もあった。

 そんな中でシーズン中盤から終盤にかけてペップが見出した新たな最適解が、「左右非対称な3バック」を軸にした[3-2-5]システムであった。このシステムの特徴としては、なんと言っても4バックでいうところの「右CB」のエリアを空洞化して形成される幅広の3バックであり、空洞化された4バックの一角をGKとダブルボランチのどちらかで補い合うようなイメージで埋めることで非常に流動的な構造を作り出していた。このメカニズムについてはあらためて詳しく解説するが、この独特な戦術構造を完成させるラストピースとしてハマったのが偽SBや偽CBとして“完全に”中盤化したジョン・ストーンズであった。

グアルディオラ監督と抱擁を交わすストーンズ

 実はこの[3-2-5]システムの構造自体は、ペップは比較的早期に試し始めていたのだが、もっとも苦慮したのがロドリの相方役となるもう1人のセントラルハーフ役の選手だった。ペップはこのポジションにもともと中盤が本職であるベルナルド・シルバやイルカイ・ギュンドアンを試したり、中盤からコンバートされてSBとなった期待の若手であるリコ・ルイスに白羽の矢を立てたりと様々な選手を実験的に起用したが、いずれも守備強度やビルドアップの安定感などの面から“本採用”には至らず。そんな中、ストーンズが偽SBとしてロドリの相方としての役割で起用され始めると、そのパフォーマンスはほどなく絶対的なものになっていった。純粋な中盤の選手として育成されてきたと言われても信じてしまうほどの「中盤適正」を見せる一方で、本職のCBとしてこのレベルのコンペティションでも穴にならないレベルの守備力を兼ね備えた彼がもたらした戦術的優位性は計り知れない。

「空洞」を埋める柔軟なポジション移動で一石三鳥

 前置きが長くなったが、ストーンズを最後のピースとして完成したと言えるこのシステムは、なぜこれほどまでに高い機能性を見せたのか、さらに副次的に生まれた「アンカーの解放」とでも言うべき効果はどのようなものなのか、それぞれ順を追って簡単に分析してみよう。

 まず、このシステムの土台となる配置としては、通常の3バック(大体ペナルティエリア+αくらいの幅)とは異なり、左のアケ、右のマヌエル・アカンジ(あるいはカイル・ウォーカー)がサイドレーンまで開きワイドな位置取りをする。攻撃時には3バックの中央として通常振る舞いそうな左のCB(多くの場合ルベン・ディアスが起用された)は、そのまま左のCBの位置を取る。すなわち、偽のCBやSBとして中盤に入っていくためにストーンズがDFラインから離脱することによってできる「穴」、つまり右のCBのポジションは空洞化したまま放置されることになるのだ。

 このシステムは一見すると非常にバランスが悪く、あえて表現するなら左右非対称の1バックとでもいうような配置に見えた。これまでのペップが採用してきたロジカルで均整の取れた全体配置からするとあまりに歪で、機能性も高まっていなかった前半戦を見た限りでは、なぜこのような配置/システムを採用するのか正直理解できなかった。

 しかし、先にも述べたようにストーンズが高いユーティリティ性を遺憾無く発揮するようになると、このシステムは凶悪と言っても良いほどの機能性を見せていくことになった。ペップ・シティが最終的にたどり着いたこの[3-2-5]システムの特徴は、空洞化したポジションを埋める選手が都度変わることによる流動性やシステム自体の柔構造化にある。……

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Profile

山口 遼

1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd

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