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【tkq的書評】あなたの人生の解像度を上げてくれる、“もえバト組”の独自世界観

2023.06.30

もえるバトレニ』発売記念企画 #1

5月31日刊行の『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』は、W杯2大会連続でメダルを獲得した“バトレニ”(「炎の男たち」を意味するクロアチア代表の愛称)の強さの秘密、そして彼らを長年取材してきた長束恭行さんのクロアチア愛が詰まった渾身の一冊だ。発売を記念した書評連載の1人目は、長束さんのファンでもあるというtkqさん。“解像度が上がる”エピソードだらけの本書を読み進めるうちに、中学の同級生を思い出したらしい。

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 こんにちは、FBSM(footballista書評マシーン)のtkqです。footballistaで書くものは、最近はもっぱら書評ばかりになっているような気がしますね。たまには最先端戦術分析の依頼も受けてみたいものですが、初手で「リヨンは分析官に忍者を採用している」という解像度ゼロの嘘をついてしまうので依頼しない方がいいです。

 さて、ここで「解像度」という言葉を使いましたが、最近流行ってますね。解像度とは本来はデジタル画像の密度を指す言葉で、この値が高ければ高いほど、一般的には画像が精細で美しく見えます。最近では、画像以外の事柄にも「解像度が高い」という誉め言葉を使うようになりました。元はオタク系発祥の言葉なんでしょうけど、そうでない人も使っていますよね。私もたまに言っちゃいます。

 ところで、我われのクロアチアサッカーへの解像度というのはどれくらいでしょうか? カタールW杯のベスト16で日本と対戦し、PK戦でクロアチアが勝ちましたが、クロアチアのイメージってなんとなくぼやっとしてましたよね。ドイツみたいな圧倒的強敵という感じでもなく、スペインのような華麗なボール保持があるわけでもない。W杯で合計3回対戦したけど、2006年の対戦とかどんな感じでしたっけ、という。この前の試合でも、日本にボールを持たせてのらりくらりとかわして、先制したもののそこでギアが急激に上がるわけでもなくいつの間にか同点に追いつかれて、そのまま延長が終わってPKで負けていた感じでした。

 つかみどころがない。確かにモドリッチやグバルディオルなどの強烈な個はいましたが、どういうチームか?と聞かれると、戦術的なことはなんとなく言えるけど、それ以外の具体的な印象としてはなんとなく口ごもっちゃいますね。ペリシッチに城の留守を預けたらすぐに裏切られそう、くらいでしょうか。要するに、我われのクロアチアサッカーに対する解像度はめっちゃ低いわけです。

GKリバコビッチに3人が止められ、PK戦1-3で日本は敗れた

こんなクラスメートいましたよね。「ライフワークが仮想通貨」の?

 そこで、長束恭行さんの『もえるバトレニ』です。冒頭で長束さんも我われ日本人のクロアチアサッカーへの理解度が低いことを嘆いていますが、確かに低いことは認めざるを得ません。しかし、安心してください。本書はクロアチアサッカーについての解像度を劇的に高めてくれる内容となっています! ただ、「解像度が高い」って、画像じゃなくて人の場合にはどういうことなの?って感じですよね。いろんな解釈があると思いますけど、自分なりに定義するとしたら、同じ生活空間に存在することを思い浮かべることができるか、ってことじゃないでしょうか。極端なことを言えば、学校の同じクラスにいてもおかしくない存在なのかな、と。

 存在の解像度を高くしてくれるのに一番いいのは、具体的なエピソードです。例えば、大河ドラマにもなった直江兼続っていう戦国武将がいるじゃないですか。愛の人とか言われてますけど、兼続の人となりを豊かに想起させるのはその逸話なんですよね。兼続の逸話で有名なのは、閻魔大王への嘆願書でしょうか。上杉家の家臣に誤って殺された下人の遺族が「冥土から呼び戻してほしい」と兼続に訴え出ます。そんなことできるわけないので、金を払うとか兼続は提案するのですが、遺族は呼び戻してくれの一点張り。しつこいのでブチ切れた兼続が、「そんなに呼び戻したいならお前らがこの書状を持って行ってこい」と、閻魔に嘆願書を書いて、遺族の首を切るという家族愛にあふれた心温まるエピソード(史実かどうかは知りません)があるんですよ。これで一気に直江兼続の解像度が上がるわけです。さすが、愛の人です。こんなクラスメートは嫌すぎますが。……

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クロアチアクロアチア代表デヤン・ロブレンマルセロ・ブロゾビッチもえるバトレニルカ・モドリッチ

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tkq

世界ロングボール学会(WLBS)日本支部正会員。Jリーグの始まりとともに自我が芽生え、カントナキックとファウラーの薬物吸引パフォーマンスに魅了されて海外サッカーも見るように。たぶん前世でものすごく悪いことをしたので(魔女を10人くらい教会に引き渡したとか)、応援しているチームがJ2に約10年間幽閉されています。一晩パブで飲み明かした酔っ払いが明け方にレシートの裏に書いた詩のような文章を生み出そうと日々努力中です。【note】https://note.mu/tkq

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