【オランダ戦分析】2-2は計算か、誤算か。久保の負傷交代で分かれた采配の明暗
北中米W杯日本戦徹底解剖#1
北中米W杯へ向けて進化を続ける森保ジャパン。その戦いを『森保JAPAN戦術レポート』(小社刊)の著者・らいかーると氏と、ボローニャやミラン、イタリア代表などで分析官兼コーチを歴任し、FIGC(イタリアサッカー連盟)ではアナリスト講座の講師も務めるレナート・バルディが徹底解剖。配置、狙い、駆け引き――日本代表戦に潜む戦術の深層を、それぞれの視点から読み解く。
第2回は、オランダ相手に2度追いついたドロー決着は計算か、誤算か。久保建英の負傷交代で分かれた采配の明暗を、らいかーると氏が読み解く。
デ・ヨングの5バック化を見越した左サイド集中攻撃
日本代表の北中米W杯グループステージ初戦は、オランダのキックオフ。そのままボールを下げられたGKバルト・フェルブルッヘンのロングキックで試合の幕が開けたが、喧騒はすぐに終わりを告げることになる。その理由は、ミドルプレッシングを選択した日本の計画にあった。オランダはボールを持つことが許され、今度は彼らがプランを披露する流れとなっていった。
[3-4-2-1]の日本のプレッシングは、[4-4-2]の雰囲気を強く感じさせる。右ウイングバックの堂安律がSBになって形成した4バックの前で、左ウイングバックの中村敬斗と右シャドーの久保建英がサイドハーフの位置を取り、左シャドーの前田大然とCFの上田の2トップでオランダを牽制する形となった。
中村を下げて5バック気味になる撤退守備では、前田の役割が興味深い。アンカーのフレンキー・デ・ヨングを背中で消しながら、左CBのフィルジル・ファン・ダイクを牽制する上田に対して、前田は右CBヤン・ポール・ファン・ヘッケに圧力をかけながら、低い位置にいる右SBデンゼル・ドゥムフリースにボールが渡れば、そのままプレッシングをかけることになっている。まるで分身の術を使っているような役回りだが、世界を驚かせる瞬発力と加速力を持つ前田にしかできないタスクと言えるはずだ。
日本の狙いとしては、中盤を司るデ・ヨングへの監視を強めること、そしてファン・ダイクとファン・ヘッケの運ぶドリブルによるゲームメイクを防ぎたかったのだろう。実際に両CBがオープンな状況でゆうゆうと前進する場面がほとんどなかったことは、2トップの献身性によって成し遂げられていたといっても過言ではない。
日本が中央を固めていることもあって、オランダのボール保持は大外レーンを主流に循環するようになっていた。左ウイングのコーディ・ガクポは得意のカットインで堂安に迫り、開始早々にCFドニエル・マーレンの決定機を演出。あらためて堂安と久保のダブルチームでの対抗を完遂させなければいけない決意をするピンチとなったが、GK鈴木彩艶のファインセーブに救われている。
今大会から5秒のカウントダウンも行われるゴールキックでは、両チームともに無理にはつながず、お互いに蹴っ飛ばさせたい意思を立ち位置で示していた。オランダは空中戦の的に193cmのガクポを用意しているが、空中戦に備える時間がある時の日本は右CBの渡辺剛がガクポと競り合って、互角の勝負を繰り広げていく。
オランダのボール保持の配置は[4-1-2-3]。両SBが低い位置を保つリスクマネージメントには少し驚いたが、最大のサプライズは両インサイドハーフ、ティジャニ・ラインダースとライアン・フラーフェンベルフの役割だろうか。親善試合ではデ・ヨングの横に顔を出すなど、中盤3枚が動的な構造を持つことで、相手に解決しなければならない数や形を押しつけていたが、今回は日本のダブルボランチ、鎌田大地と佐野海舟に捕まっていてもよしとしているようだった。
この作戦によって、幅広く活躍できる佐野のプレーエリアが狭くなってしまったことは何の因果だろうか。おそらくは偶然の産物なのだろうけども、そのダイナミズムが失われた格好となった。正確には、それを発揮する必要がなかったとも言える。
開始10分が経過すると、日本がボールを持つ場面も出てくるようになる。強豪国を相手にしてもボール保持率を40%くらいに保とうという、カタールW杯の宿題を愚直にこなせたのは、もちろんオランダのデ・ヨングを1列下ろす[5-4-1]のミドルプレッシングに助けられていた部分もある。この親善試合でも披露されてきた5バック化の真意は、本職でない左SBのミッキー・ファン・デ・フェンとファン・ダイクの間を埋めることで守備の穴を事前に埋めてしまおうというものであった。
一方で、日本の攻撃の狙いは明白であった。左サイドに人を集めて優位性を生み出すこと、そのために同サイドのCBである伊藤洋輝の攻撃参加、久保の出張、中村のドリブルと芸がそろっていた。伊藤のカバーは鎌田が行い、右シャドーの自由化は堂安が一時的にそこに入っても行っていたので、チームとしての決まりごとなのだろう。ファン・デ・フェンは主戦場のCBではないとはいえ対人能力が高いので、ドゥムフリース側から攻略を狙うのはスカウティングによる裏づけもあったはずだ。
机上の空論になるが、オランダからすればファン・ヘッケを経由して、ドゥムフリースまでボールを届けることは難しくなかったはずだ。日本の仕掛けたトラップディフェンスの匂いもするが、どこまでが狙い通りなのかは不明。前田に懸けたか、決められた誘導なのかは、森保一監督に聞いてみないとわからない。早めに久保と堂安のダブルチームを形成させたいガクポに何度もボールが渡るよりは、逆サイドに回させたい狙いがあったとしてもおかしくはないだろう。ドゥムフリースと同じサイドのウイングであるクリセンシオ・サマーフィルには、ある程度は時間を与えてしまっても、全力で前田が戻ってくればよしとしていたのではないだろうか。このあたりの割り切った設計は4年前のドイツ戦、スペイン戦の感覚と似ている。
ドゥムフリースの位置を下げていても仕方がない中、降りてパスを受けようとしたり、サイドを突破してクロスを上げたりと、存在感を見せ始めたのがサマーフィル。それよりも優先して守るべきは、ファン・ヘッケのボール運び、そしてラインダースたちの間受けと日本は考えたのだろう。オランダも20分過ぎからはライン間に強引にボールを入れたり、ラインダースが相手のブロックの外でパスを引き出したりと、変化が出てきた。
日本のボール保持では、鎌田が列を下りることで懐かしのミシャ式のような可変式を準備していた。アイスランド戦で瀬古歩夢の移動をきっかけに行っていた作戦である。オランダが[5-4-1]で構えるなら、配置をずらしながらボール保持を安定させるという狙いは機能していたのではないだろうか。
影を潜める鉄板芸。オランダの攻撃枚数に表れた慎重さ
Jリーグでは飲水タイムとしてお馴染みのハイドレーションブレイク後、日本は左サイドに偏っていた攻撃を右サイドでも試みていく。ガクポとの対決を楽しんでいたであろう堂安が本来の良さを出せそうな場面が増えていった。これだけ堂安に守備をさせられる森保監督が半端ないことは言うまでもない。一方で本職の右SBはどこへ消えたのかという気がしないでもないけれども。
オランダはガクポにボールを届けることをさらに優先。堂安が縦、久保が中へのプレー方向を制限することで、ガクポから周囲に時間とスペースを届けられそうなシーンはあまりなかった。強引なクロスをファーサイドのドゥムフリースに合わせるオランダの鉄板芸は、SBがおとなしめだったこともあって影を潜め、セットプレーを当てにしているかのよう。効果的だったファン・デ・フェンの攻撃参加も含めて、攻撃の枚数をどこまで増やすかには慎重な姿勢が見え隠れしていた。
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Profile
らいかーると
昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』 (小学館)。
