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鹿島の新CB、チャルシッチの知られざる半生。幾度もケガを越え、クロアチア国外で再生した“ボールプレーイングDF”の野心

2024.01.16

鹿島アントラーズは1月8日、クロアチア人DFヨシップ・チャルシッチ(Josip Ćalušić)の獲得を発表した。同クラブ初の欧州出身選手としてセルビアの中堅クラブから加入した30歳(1993年10月11日生まれ)で身長187cmの左利きCBは、どのようなキャリア、キャラクター、プレースタイルの持ち主なのか。おなじみの長束恭行氏が、U-19代表時代のチームメイトへの取材を交え、そのJ参戦に至るまでの「あらゆることが起きたサッカーの旅」(チャルシッチ)を伝えてくれた。

「本物のキャプテン」で「モダンなストッパー」

 彼の名前を聞いた瞬間、私の記憶は2012年にタイムスリップした。

 エストニアの首都タリンで開催されたU-19欧州選手権、グループBの開幕戦となる「クロアチア対イングランド」(2012年7月3日)。キャプテンマークを腕に巻いたモヒカン刈りの左CBは、ハリー・ケイン、ロス・バークリー、ベニク・アフォベの3トップに堂々と対峙していた。U-17欧州選手権の優勝世代を抱えるイングランドに対し、クロアチアは欧州カップ予選を直前に控えたクラブがこぞって主要選手を出し渋った。それでも前半はフィジカルで劣るはずのクロアチアがコンパクトな布陣を敷き、ボールを繋ぎながらゲームをコントロール。相手GKのサム・ジョンストンに大当たりがなければ、クロアチアが前半で3点、4点を奪ってもおかしくない展開だった。前半終了間際にイングランドがケインの頭上を目がけてクロスの波状攻撃をかけるも、すべてクロアチアの守備陣が弾き返した。

 後半にシステム変更したイングランドが中盤を制圧し、何度も相手ゴールを脅かす中、クロアチアは57分にMFドマゴイ・パビチッチがグラウンダーのミドルシュートを叩き込んで先制。しかしながら、わずか4分後にMFナサニエル・チャロバーが25mのミドルシュートを決めてゲームは振り出しに戻る。その後もイングランドが主導権を握る中、クロアチアも幾度となくカウンターでゴールを狙ったものの、試合は痛み分けのドロー。クロアチアメディアの特派員として撮影取材をした私は、『Sportnet』の寄稿記事でこのように記している。

 「(U-19クロアチア代表の)ディンコ・イェリチッチ監督のチームは高い団結力、チームスピリット、激しい闘争心をピッチ上で目に見える形で示してくれた。勝ち点1に終わったとはいえ、まだまだクロアチアはグループ突破の可能性がある。U-19クロアチア代表の選手たちに大きく明るい未来があることが確認できた」

イングランドの選手たちと握手を終えたチャルシッチ。イングランドの7番が当時エバートン(現ルートン)のバークリー、17番が当時アーセナル(現アル・ダフラ)のアフォベ(Photo: Yasuyuki Nagatsuka)

 そう、あのモヒカン刈りのキャプテンこそ、このほど鹿島アントラーズに新加入したヨシップ・チャルシッチだ。当時のU-19世代はいずれもアラサーになり、A代表まで上り詰めたメンバーもわずか(GKシモン・スルガ、CBマテイ・ミトロビッチ、CFアントニオ・ミルコ・チョラクなど)。ケガを理由に引退したメンバーもいれば、辺境リーグや国内下部で現役を続けるメンバーもいる。現在は4部リーグの国内クラブでプレーするMFミハエル・ポングラチッチに連絡を取ることに私は成功した。元チームメイトであるチャルシッチの人柄に触れながらイングランドとの一戦を振り返る。

 「ヨシップ(・チャルシッチ)はいつも品行方正で、愛すべき友人だ。今でも連絡を取り合う仲だし、SNSを通して動向を追っているよ。試合となれば彼は常に真剣で、キャプテンマークを腕に巻いた時も本気モードだった。ちょっとした運さえあれば……あのイングランド戦は僕たちが勝つべき試合だったよね。とはいえ、イングランドは強敵だった。今の彼らがどこでプレーしているかを知ればなおさらそう思う。A代表でキャプテンを務めるケインとも僕たちは戦ったわけだから」

チームの得点を喜ぶチャルシッチ。実はキャプテンマークを巻いたのはイングランド戦のみで、初戦は警告処分だった本来のキャプテンが第2節以降に戻ってきている(Photo: Yasuyuki Nagatsuka)

 続く第2節の相手はフランス。MFポール・ポグバが主将を務める大会優勝候補のチームで、クロアチアは79分まで無失点で耐えたものの、右SBディミトリ・フルキエのゴールで0-1の惜敗。しかし、第3節のセルビア戦でクロアチアは3-0の完勝を収める。その試合で2ゴールを挙げたポングラチッチは、12年前の出来事を昨日のことのように思い出す。

 「チームの雰囲気は素晴らしかったよ! セルビアに勝利し、U-20W杯の出場権を勝ち取ったことで天にも昇る気分だった。僕たちは最高の仲間だっただけに、少しでもこちらに運が傾いてグループ突破を果たしていれば(※グループ3位で決勝トーナメントには進めず)、最終結果はどのようになったのだろうね……。ヨシップはいつだって冷静沈着だったし、本物のキャプテンだった。とても若くして結婚し、子供を授かったことは(※どちらも21歳の頃)、彼がどれだけ真面目な性格なのかを物語るよね。そして彼は左利きということもあり、いつだって右利きの僕たちよりも一歩前に足を進めてくれたんだ(笑)」

 鹿島のサポーターはチャルシッチがどんなプレースタイルの持ち主かが気になることだろう。ポングラチッチは端的に説明してくれた。

 「ヨシップは“肉屋”(やたらと荒いストッパーを指す隠語)ではない。サッカーを知り尽くしたモダンなストッパーだ。いわゆる“ボールプレーイング・ディフェンダー”だね」

セルビアに勝利して喜ぶクロアチアのチーム一同。右下隅の選手が今回の記事で質問に応じてくれたポングラチッチ(Photo: Yasuyuki Nagatsuka)

「人生の最期まで僕はディナモに感謝するつもりだよ」

……

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J1リーグクロアチアディナモ・ザグレブヨシップ・チャルシッチランコ・ポポヴィッチ鹿島アントラーズ

Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。

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