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“もっと”と、貪欲に。覚醒した森海渡は、徳島ヴォルティスの救世主となれるか?

2023.06.22

5月度の2023明治安田生命Jリーグ KONAMI月間MVPを受賞したのは、徳島ヴォルティスのFW、森海渡だった。同月だけで6試合6ゴールの覚醒ぶりでチームを牽引する23歳の新星を、クラブを追い続ける柏原敏氏が掘り下げる。

 開幕から11試合未勝利で最下位に低迷した徳島だが、息を吹き返すきっかけになった今季初勝利の第12節・磐田戦(〇3-2)で先制弾を挙げたのが森海渡だった。森としても待望の今季初得点。その1点が誘い水のように一気に9得点を挙げて個人成績も徳島の順位も浮上した。

最初の出会いは、ポヤトス監督が称賛した敵として

 森に初めて驚かされたのは、さかのぼること約1年前の2022年6月22日。

 天皇杯3回戦・柏戦(●1-2)で徳島が対戦した際、相手チームのベンチに森の名前があった。徳島は前半4分に西野太陽が先制し、そのまま前半終了。下位カテゴリーが金星を挙げる展開が鳴門・大塚スポーツパーク ポカリスエットスタジアムで起きそうだった。

 しかし、それを覆したのが森。

 後半のシュート数を2本に抑えることには成功した。ただ、その1本がCKからの失点、もう1本が「森選手の質にやられてしまった印象です」(ダニエル・ポヤトス監督/現G大阪監督)と合計2失点を許して敗戦を喫した

2022年度天皇杯3回戦、柏レイソル対徳島ヴォルティスのハイライト動画。柏レイソルの選手として挙げた森海渡のゴールは1:43から

 「(升掛)友護が前を向いた瞬間に背後が空いているのはわかっていました。そこにランニングできたことと、そこにいいパスがきました。角度のない状態でしたけど、GKの上かニア上かわからないですけど思いっきりシュートを打った結果がゴールにつながって良かったです。感覚で打ったので、あまりゴールは見ていませんでした」(森)

 GK頭上を抜く豪快な右足一閃。言葉通り、ゴールネットに突き刺した。ポヤトス監督もその「質」にはお手上げの表情で、スタジアムがどよめく圧巻のゴラッソだった。記事を書くために当時の音声データを引っ張り出してみると、余談ながら自分が質疑応答でたまたま挙手していた。

 この日、記者は森と初めて言葉を交わした。しかし、クラブは早くから森と近い関係性にあった。

 森は柏でプロ入りするまでの間に筑波大学に所属しているが、徳島には同大学に所縁のある関係者が多い。例えば谷池洋平強化部長は筑波大学OB。鍵野洋希強化担当も筑波大学OBで、森とはコーチと選手という間柄の時期もあった。森の加入時には「クラブの人間としてはもちろん冷静に。でも、個人的な感情を出すと、また一緒にやりたい。という思いは伝えさせてもらいました。それに応えてくれた海渡には感謝」(鍵野強化担当)とSNSで綴っていた。

 脚色しすぎかもしれないが、徳島における森覚醒のストーリーは今年始まったものではなかったのかもしれない。

シュートレンジの広さ、そして決定力

 全9得点を振り返ってみると、驚かされるのはシュートレンジの広さと決定力。

 前出の磐田戦で決めた今季初得点はCKからのヘディング弾だったが、それ以降のほとんどは右足一閃。そして、昨季の天皇杯3回戦で徳島を敗退に追いやった得点と同等のスーペルゴラッソをいとも簡単にいくつも決めている。

 まずは、シュートレンジ。……

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徳島ヴォルティス

Profile

柏原 敏

徳島県松茂町出身。徳島ヴォルティスの記者。表現関係全般が好きなおじさん。発想のバックグラウンドは映画とお笑い。座右の銘は「正しいことをしたければ偉くなれ」(和久平八郎/踊る大捜査線)。プライベートでは『白飯をタレでよごす会』の会長を務め、タレ的なものを纏った料理を白飯にバウンドさせて完成する美と美味を語り合う有意義な暇を楽しんでいる。

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