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遂げつつある変貌は常勝を知る指揮官が仕掛けた『鹿島モデルの再現』か。逆転優勝を狙う鹿島アントラーズの現在地

2023.06.23

5節からは悪夢の4連敗。とりわけ8節のホーム・ヴィッセル神戸戦では1-5で大敗するなど、下位に沈んでいた鹿島アントラーズが、確実に変わりつつある。9節からは怒涛の5連勝を達成し、現在はリーグ戦でも9戦負けなし。順位も7位まで浮上し、後半戦に向けて力強くファイティングポーズを取っている。では、常勝時代を知る岩政大樹監督に率いられた彼らは、なぜ驚異的なV字回復を遂げることができたのか。今回は日本サッカーの生き字引、北條聡がアントラーズの伝統と歴史を踏まえながら、その理由を解き明かす。

首位と8ポイントの勝ち点差は逆転優勝への吉兆か

 少しずつ――だが、確実に変貌を遂げつつある。岩政大樹監督率いる鹿島アントラーズだ。J1リーグの前半戦(第17節)終了時点での戦績は勝ち点28の7位。暫定で首位に立つ横浜F・マリノスとの勝ち点差は8ポイントある。ただ、指揮官は「なんとか後半戦につながったかな」と前向きだ。その根拠として引き合いに出したのが2007年。若き日の岩政(当時センターバック)を擁する鹿島が逆転優勝を果たしたシーズンである。

 前半戦を終えて、3位に食い込んだ鹿島の勝ち点は30。首位に立つガンバ大阪との勝ち点差は今季と同じ8ポイントだった。この差を《ギリ射程圏内》とする感覚は当時の成功体験から来るものだろうか。いや、それだけではあるまい。自ら手掛けるチームの現在地に相応の手ごたえを得たことの証でもあるはずだ。つまりは、後半戦に向けて“視界良好”といった感触である。

2022年シーズンの途中から古巣である鹿島アントラーズの指揮官を務める岩政大樹(Photo : Takahiro Fujii)

 もっとも、順風満帆だったわけではない。開幕から8試合を終えて、2勝1分け5敗と大きくつまずく。しかも、5節の横浜FM戦から4連敗を喫したうえに、ヴィッセル神戸とのホーム戦(8節)で1-5の記録的な大敗。15位に転落することになった。だが、どっぷり首まで浸かったドロ沼から鮮やかに這い上がっていく。果たして、指揮官はいかなる手立てをもって事態を好転させたか。

好転の引き金は《人選》と《組み合わせ》

 引き金は至ってシンプル。スタメンの《人選》と、それに紐づく《組み合わせ》の見直しにあった。分岐点は9節のアルビレックス新潟戦である。神戸戦のイレブンにメスを入れ、一気に3人を入れ替えた。トップ下の荒木遼太郎、左サイドMFの知念慶、右サイドMFの松村優太が外れ、新たにFW垣田裕暉、仲間隼斗と名古新太郎の両MFが先発リストに名を連ねる。垣田と仲間は今季初スタメンで、名古に至っては今季初出場だった。これに伴い、初期配置を[4-2-3-1]から[4-4-2]へシフトする。その結果、新潟を2-0で破り、9戦無敗(6勝3分け)の進撃が始まることになった。……

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岩政大樹鹿島アントラーズ

Profile

北條 聡

1968年生まれ。栃木県出身。早大政経学部卒。サッカー専門誌編集長を経て、2013年からフリーランスに。YouTubeチャンネル『蹴球メガネーズ』の一員として活動中。

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