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なぜクバラツヘリアをマークするのは不可能なのか

2023.06.18

時間とスペースを操るのは常に彼。何の変哲もない静的で平凡な状況でパスを受けては、そこから予想もつかない危険を生み出す。クビチャ・クバラツヘリアのドリブルはピッチ上にどんな効果をもたらしているのか。イタリアのWEB マガジン『ウルティモ・ウオモ』の分析記事(2023年2月21日公開)を特別掲載する。

『フットボリスタ第96号』より掲載。

 セリエAはドリブラーのリーグではない。イタリアではリスクを冒す傾向が強いテクニカルな選手は嫌われるという記事がここ『l’Ultimo Uomo』に掲載されたのは3年あまり前のことだ。そこでは、セリエA は欧州主要リーグの中で最もドリブル試行回数が少ないリーグだと指摘されていたが、その現実は今も変わっていない。

 この3年で唯一最大の変化は、ドリブラー界のスーパーエリートと言うべき1人の選手が加わったことだ。クビチャ・クバラツヘリアである。偉大なドリブラーという触れ込みでやってきた彼は、この難しい環境下でもその名声に恥じないパフォーマンスを披露している。クバラツヘリアは、ドリブルに取り憑かれたプレーヤーとして語られてきた。彼を最初に指導したコーチはこう述懐している。

 「ドリブルのことばかり考えている子供だった。それを止めたり、1つのポジションに縛りつけたりするようなことはしていない。13歳の時には左SBとしてもプレーさせた。DF がどう振る舞うのかを実際に理解させるためにね」

 多くの場合、ドリブラーについて語る時、ドリブルは彼のあり方を決定づける強いこだわり、1 つの執着として語られるものだ。例えば、先のW杯で脚光を浴びたモロッコ代表のソフィアン・ブファルは“ アンファン・ドリブル”(フランス語で「恐るべき子供」を示す“アンファン・テリブル”のもじり)という象徴的なニックネームを持っている。実際ドリブルはサッカーにおける1つの「謎」、最も真似することが難しいテクニックの1つだ。ペップ・グアルディオラはドリブルを「ぺてん」と呼んだほどだ。

 クバラツヘリアは様々なやり方で相手を抜き去ることができる。狭いスペースでは細かいテクニックで、スペースがある時には鋭い足運びで、常に相手の虚を突くようにして抜け出して行く。しかし彼のドリブルには他に見られない独特のスタイルがある。典型的なパワードリブラーたち(アラン・サン・マクシマン、アダマ・トラオレ、ジェレミー・ボガ)のように爆発的な加速を持っているわけではないし、トリッキーなフェイントを駆使するバロック的なドリブラーたち(ネイマール、アントニー、ジェイドン・サンチョ、ビニシウス・ジュニオール)とも明らかに異なっている。ストッキングを下げた長い足を操り、体を左右に揺らしながら突っかけて行く彼のスタイルにはむしろ、50年前の古き良きウイングを思わせるものがある。例えば、細かいタッチで内に入り込む素振りを見せてから右足のインサイドを使って方向転換し縦に抜け出すプレーがそうだ。何週間か前には「どんなに研究したところで僕を止める役には立たない」とカウボーイのような口調で語ったものだ。

 この何カ月か、彼のプレーを描写し説明するためにしばしば引き合いに出されてきた偉大な過去のドリブラーが、ジョージ・ベストだ。ボールを持つことで時間とスペースをコントロールするという、ドリブルのエッセンスを体現したようなウイング。守備者は常に彼よりも少ない時間とスペースしか与えられず、したがって振り回される以外にない。彼の意志を読み取ることは不可能であり、それゆえ彼が時間とスペースを操るやり方に介入することも不可能だ。その国籍から“ ジョージアン・ベスト”と呼ばれることもあるクバラツヘリアは、ベストと同じく爆発的なスピードがあるようには見えない。しかしそれは重要なことではない。時間とスペースを操るのは常に彼だからだ。彼のドリブルの基盤にあるのは、歩調とリズムの急激な変化、一瞬のタメと鋭いスタート、停止と加速だ。先手を打つのは常に彼であり、守備者はそれに反応する、すなわち後手に回ることを強いられる。軸足に体重を乗せた時のバランスがきわめて優れているので、次の動きを読むことは非常に難しい。

オリジナルなベストとジョージアン・ベスト、どっちがベター?

 このあまりにも本質的でシンプルなスタイルは、今や本当に希少だ。クバラツヘリアは、ロナウジーニョやネイマールのドリブル動画がYouTubeにあふれて子供たちの誰もがそれを真似ようとしているこの世界とは別のところでサッカーを覚えたに違いない、と思わせるほどに。

 では、そんなクバラツヘリアのドリブルはピッチ上にどんな効果をもたらしているのだろうか。本稿執筆時点(2月21日現在)で彼は12得点12 アシストを記録している。単に「ドリブラー」と呼んで済ませてしまうわけにはいかない数字だ。セリエAのようにドリブラーに厳しいリーグにおいて、彼のドリブル能力はほとんどエキゾチックにすら映る。90分あたり2.39回のドリブル成功数を上回るのは、純粋なドリブラーであるレッチェのラメック・バンダ(2.44 回)だけ。しかし他リーグまで対象を広げれば、クバラツヘリアの数字は「ドリブラー」として傑出したものとは言えない。クバラツヘリアは、ドリブルだけによってピッチ上にインパクトをもたらす種類のプレーヤーではない。むしろ、決定的な違いを作り出すための鍵としてドリブルを使うプレーヤー、と言うべきだ。……

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ウルティモ・ウオモクビチャ・クバラツヘリアナポリ

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ウルティモ ウオモ

ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。

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