「1-0よりも、5-4で勝つことを望む」――そんな類の言葉を発したと言われるのはかのヨハン・クライフだが、2023シーズンのJ1第16節までを戦い終えた“ミシャ”ことミハイロ・ペトロヴィッチも5-4の乱打戦を制した柏レイソル戦(6月3日)を振り返って「我われは攻撃に特化したチーム作りをしている。点を取りにいけば反対に取られるリスクもある」と話し、オランダの偉人と相通ずるような攻撃志向のスタンスを強調した。
第16節終了時点で北海道コンサドーレ札幌の得点数37はリーグ1位。対して失点数31もリーグで3番目に多いが、言葉通り「攻撃に特化した」前傾姿勢のチームだからこその数字だろう。スタイルが色濃く打ち出されたチーム作りが着実に推し進められている。
そう文字で打ってしまうのは簡単だが、第一に結果が求められる世界で攻撃的なカラーを鮮明にし続けることは簡単ではない。ミシャの言葉を借りれば、「『攻撃的なサッカーを目指す』と言いながら1つ2つ負けるとゴール前に大型バスを並べるようなサッカーを始めてしまう監督は少なくない」。要は結果を得るために理想を捨て、現実的かつ守備的なスタイルになってしまう監督が多いということだ。そして「私はそういった類の監督ではない」と続ける。
オールコートマンツーマン戦術の強みと痛み
2018年に札幌の監督に就任し、同年にいきなり4位躍進を果たすと翌年にはクラブ史上初となるルヴァンカップ決勝進出。戦術だけでなくクラブ全体のマインドを攻撃的なものにしたミシャだが、個人的な肌感覚としては、そのチーム作りがより攻撃的かつ独創的なものへと加速して推し進められたのは、2020年からだったように感じている。あくまでも筆者の主観および感想であるのだが。
その前年の2019年12月。シーズンを戦い終えたミシャが一時帰国の途に就く直前に話を聞いた際に「来季はなにか新しい取り組みがあるのか?」と聞くと、「うーん……。オールコートでのマンツーマンディフェンスにして、前線からボールを奪いにいくサッカーでもやってみましょうか」と返してきた。その時は筆者を煙に巻くべく、ジョークで流されたのだと思い笑って話を終えたことを思い出す。なにしろ欧州をはじめ日本でもポジショナルな戦術が隆盛だ。鈍感な筆者でなくとも、そのまま言葉通りに受け止めるのは難しかっただろう。
しかし2020年シーズンが幕を開けると、第1節の柏レイソル戦では前線からアグレッシブに相手ボール保持者を追う札幌イレブンの姿があった。残念ながら同時期に新型コロナウイルス流行という未曽有の出来事が発生しリーグが中断。その後の戦いぶりは一時おあずけとなってしまったのだが、再開後の第7節で前年王者の横浜F・マリノス相手にいよいよオールコートでのマンツーマンディフェンスを発動させると、これが見事にハマって3-1の快勝。ここから本格的にマンツーマンが札幌の基本戦術となっていった。……
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斉藤 宏則
北海道札幌市在住。国内外問わず様々な場所でサッカーを注視するサッカーウォッチャー。Jリーグでは地元のコンサドーレ札幌を中心にスポーツ紙、一般紙、専門誌などに原稿を寄稿。