
本拠パルク・デ・プランスで行われた3月19日の第28節、4月2日の第29節に無得点で連敗。これで2023年に入ってから公式戦8敗目だ(9勝1分)。リーグ1では順位こそ2位に6ポイント差で首位を維持しているものの(21勝3分5敗・68得点29失点)、バイエルンやトッテナム、チェルシーなどで監督解任が相次ぐ中、パリ・サンジェルマン指揮官の進退もにわかに騒がしくなっている。
ガルティエも認めた「個性のない退屈なゲーム」
ラウンド16でバイエルンに2戦とも敗れ(0-1/2-0)、今年も早々にCLから姿を消したパリ・サンジェルマン。さらに国内でもレンヌ(0-2)、リヨン(0-1)とのホーム2連戦で2連敗という大不振に陥っている。
「2連敗で大不振?」と思うかもしれないが、パリSGが最後にリーグ1のホーム戦で黒星を喫したのは20-21シーズンの第31節のこと。約2年も彼らはパルク・デ・プランスという牙城を崩されていなかったのである。皮肉にもこの時、彼らに土をつけたリールの監督は、現在パリSGの指揮を執るクリストフ・ガルティエだ。
第28節の相手レンヌには、アウェイ戦では2年連続で敗れていて、昨季のホーム戦もキリアン・ムバッペがなんとか93分に1点を挙げて逃げ切った1-0の辛勝だった。今やレンヌは“パリSGキラー”だ。
そして代表ウィーク明けの初戦だった第29節のリヨン戦は、後半にリヨン生え抜きのFWブラッドリー・バルコラに鋭角シュートを決められ(56分)、そのまま勝ち星を奪われた。前半には、今季アーセナルから出戻ったFWアレクサンドル・ラカゼットがポストに当ててしまったPKもあったから、リヨンにとっては順当な勝利と言える。
パリSGについては、敗戦という結果はもちろんだが、より懸念すべきはその内容だ。試合の展開自体が実に退屈で、寒さの厳しいナイトゲームだったから持ちこたえたものの、これがポカポカした小春日和だったら完全に寝落ちしていた。試合後にガルティエ監督も「キャラクターやパーソナリティに欠けていた」という台詞を何度も繰り返していたが、つまりは「個性のない退屈なゲームだった」ことを指揮官自ら認めていたのである。
この日は15周年を迎えたウルトラス集団「K-Soce Team」が、試合が始まる前から終わった後まで力作の巨大横断幕を取っ替え引っ替え披露していて、その彼らの作品集の方が試合よりもよっぽど見ごたえがあった(がしかし、相当派手に発煙筒や花火を上げていたので、処分が検討されているらしい……)。選手たちは試合後、うなだれながら重い足取りでゴール裏に挨拶に行っていたが、これがライバルのリヨンを打ちのめした後なら、さぞかし晴れ晴れしいセレブレーションになっていたことであろう。



敵将のローラン・ブランは、うれしさが止まらない、という様子で会見場に登場した。
パリSGで14-15、15-16シーズンに国内4冠(スーパーカップ、リーグ1、フランスカップ、リーグカップ)を達成したOB指揮官は、記者から「“リベンジした”という思いか?」と聞かれると、その問いを遮るように「ここでは非常にいい時間を過ごした。まあ、思っていたより早く切り上げられてしまったが……。ともあれ、リベンジしたいものなど何もない。純粋に自分のチームが試合に勝った喜びだけだ」と語った。しかし“やってやった”感があったことは間違いない。

「メッシを起用しないことはあり得ない」
ここ最近のパルク・デ・プランスでは、試合前のメンバー紹介の際にムバッペは大歓声で迎えられるが、リオネル・メッシとガルティエ監督の時にはブーイングが聞こえてくる。
マルコ・ベラッティ、ムバッペと並んで、リヨン戦の採点で『レキップ』紙から最低点の「3」(10点満点)をつけられたメッシに関しては、試合後の会見で彼の真価を問うような質問が2度もガルティエ監督に投げられた。
「メッシは相手に危険を作り出すことで非常に重要な役割をしてくれている」と答えた指揮官は、サポーターからのブーイングは不当だと強調。
「メッシを外すことはできないのか?」と別の記者からさらに突っ込まれると、「彼はチームの役に立っているのだから、彼を起用しないことはあり得ない」と答えたのだった。……



Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。