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「何とかJリーグのピッチにもう1回立って、『オレはできるよ』というところを見せないとなって」大宮アルディージャ・ 南雄太インタビュー(後編)

2023.03.16

いわゆる黄金世代のGKでは最後の現役選手となった。高校1年生で全国制覇を経験し、世界大会の準優勝も味わった男は、数多の出会いと苦労と喜びの中で濃厚なキャリアを積み上げ、43歳となった今でもJリーガーとして日々のトレーニングと向き合っている。南雄太。プロ26年目のシーズンに挑んでいるレジェンドが、今までのサッカーキャリアを包み隠さず語り上げるインタビュー。後編では初めての契約満了後に移籍したロアッソ熊本での4年、J1でのプレーを目指し続けた横浜FCでの7年半、そして大ケガにも見舞われた大宮アルディージャでの1年半を振り返ってもらう。

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初めてリーグ戦フル出場を果たしたロアッソ1年目の感慨


――レイソルを退団した2010年にロアッソへ移籍しますが、他の選択肢はあったんですか?

 「まずロアッソがすぐにオファーをくれて、給料はかなり落ちましたけど、とにかく自分的にもちょっと良くなっている手応えはあるものの、『プレーしないと終わってしまう』と考えていたので、もうお金とかは関係なくロアッソに行こうと思いました。代理人と一緒に熊本に行って、あの時は池谷(友良)さんが社長で、飯田(正吾)さんがGMだったんですけど、ゴハンを食べて、いろいろな話をされて、もうロアッソに行こうと決めて、次の日に事務所にサインしに行って、1回柏に帰ろうという流れだったんです。

 それで翌日の朝、エージェントと朝食を食べる場所で待ち合わせしていて、そこに行ったら、『今、J1のクラブから電話があったんだけど、どうする?』って。ただ、そのクラブはレギュラーの選手のサブ扱いでという話でしたし、『もう試合に出たいので、熊本にします』と言って、その日にサインしたんです。あの時にもしもう1つのクラブの話が進んで、そっちに行っていたら、また違うサッカー人生が待っていたのかもしれないですし、もっと早く引退していたかもしれないですけど、結果的にロアッソに行って、4年間ほとんど試合にも出られて、かなり楽しかったですし、奥さんと出会ったのも熊本なので(笑)、いろいろな意味で今は熊本に行って良かったなと思います」


――そこもなかなか運命の分かれ道でしたね。

 「当時のロアッソはクラブハウスも練習場もなかったですしね。でも、意外とそういう環境も楽しめたんです。だから、プレーしたのは4年でしたけど濃かったというか、充実していましたね」


――移籍初年度の2010年はリーグ戦どころか公式戦フル出場です。

 「それも初めてだったんですよ。レイソルではなかなかフル出場できなかったですし、その年のロアッソは成績も結構良かったんです。フル出場するというのは、まずケガもしていないということですし、スタメンを変えられなかったということでもあって、とても充実したシーズンですよね。生き返った感じがしたシーズンでした。サッカー選手としてもそうですし、レイソルの最後の方で燻っていた時から、自分の心境の変化もいろいろあったりする中で、今上手くなっていることを表現する場所が欲しいと思ってロアッソに行って、1年間フルに試合に出て、チームも結果が出て、自分のプレーも結構良くて、そういう意味で『まだオレはやれるぞ』ということを見せられたシーズンだったので、凄く良い1年でしたね」


――日立台でレイソルと対戦した試合は、かなり特別な一戦でしたか?

 「かなり特別でした。不思議な感じで、フワフワしていて。超楽しかったです。自分のキャリアの中でも1つのハイライトですね。無失点で終われましたし。足が攣ってしまってヤバかったですけど(笑)」


――気合が入り過ぎて(笑)。

 「たぶん。あとは緊張ですよね。身体が勝手にそう感じていたというか。でも、もちろん対戦相手として日立台に行っているんですけど、自分は全然そういう感覚がなかったです(笑)。いつも通りというか、レイソルのサポーターもブーイングではなくて、拍手で迎えてくれましたし、凄く良かったというか、『ああ、熊本に行ってサッカーをやれて良かったな』と思えた瞬間でした。またレイソルとああやって試合できたこともそうですし、いろいろな意味で濃い1年でした」

盟友・北嶋秀朗との再会


――2011年はレイソルがJ1で優勝するわけじゃないですか。あの優勝はどういうふうに映っていました?

 「メッチャ嬉しかったです。移籍する前にいたチームに勝ってほしくないという人もいますけど、レイソルに対してはその感情がまったくなくて、マジで嬉しかったです。最後のレッズ戦とかメチャメチャ応援していましたから。『ここまで来たら絶対に優勝しろよ』って。キタジも仲が良いし、スゲもタニ(大谷秀和)もいて、知っているヤツばかりで、自分はレイソルを離れていましたけど、一緒に戦っているような気持ちで応援していました。優勝した時は本当に嬉しかったですね。みんな頑張っていることを知っていましたから」


――そこでちゃんと優勝を喜べたことも良かったですね。

 「そうですね。別に好感度を上げようとは思わないですけど(笑)、自分はあまり古巣に対してネガティブな感情はないんですよね。知っている選手がいれば頑張ってほしいと思いますし、たとえば移籍したクラブの方が移籍前のクラブより順位が下だと、『移籍したのは失敗だったんじゃない?』と周りには言われたりしますけど、それって短期的なところしか見ていないのかなと。……

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南雄太

Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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