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【GK対談/後編】南雄太×松本拓也:実感してきた現状。今後に抱く危機感と希望。日本人GKが世界へ打って出るために必要なこととは

2024.02.04

松本拓也は南雄太が高卒ルーキーとして柏レイソルへ入団したため、ユースからトップチームへの昇格が叶わなかった。南雄太はキャリアの晩年に差し掛かった頃、松本拓也から今までになかったような新たな発見を数多く提示された。不思議な因縁に彩られながら、大宮アルディージャで選手とGKコーチとして濃厚な時間を過ごし、強い絆で結ばれた同い年の2人が、自分たちの職業である“GK”について言葉を交わした今回の対談。後編ではこれから求められるGK育成の本質や、日本人GKが世界で活躍する可能性について、語り尽くしてもらおう。

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まだまだ確立されていない日本人GKの“モノサシ”

――ここからはGK育成というテーマについてお話していただきたいなと。まずは現状の日本人GKのレベルをお2人がどのように感じているのかをお伺いしたいです。

「良い選手が出てきているのは間違いないですし、サイズ感もヨーロッパの選手と見劣りしなくなってきていますよね。でも、僕が一番思うのは、まだ日本人のキーパーを測る“モノサシ”がないんですよ。だから、日本で一番のキーパーにプレミアリーグで試合に出てほしいです。そうすればわかるじゃないですか。『ああ、まだこんなにアリソンと差があるんだ』とか。

 今回リバプールに遠藤(航)くんが行って、『リバプールのアンカーであれだけできるんだ』というモノサシができたわけですけど、キーパーに関してはまだそれがまったくないんです。ゴンちゃん(権田修一)がW杯で活躍しましたけど、クラブレベルで毎週毎週試合のあるヨーロッパの主要リーグの中で、日本人のキーパーが誰か試合に出た時に、初めてモノサシができてくるんだろうなって。

 それがないとただの仮定でしかなくて、『アイツだったらやれるよ』という選手が出てきた時に、日本でのキーパーの見方がワンランク変わったり、もっとキーパーに憧れる子どもが出てきたりするはずで、日本のキーパーの環境が変わるには、ヒデさん(中田英寿)がペルージャで活躍した時のような実績がないと、次が続いていかないんですよね。だから、プレミアやスペインのリーガでもレギュラーでフルシーズン出るような日本人キーパーが出てきた時に、初めて比較できるなとは凄く思っています。三笘(薫)くんがあれだけできることを考えれば、意外とやれちゃうかもしれないですよね」

23年8月にはプレミアリーグのマンチェスター・ユナイテッドが興味を示していると報じられた鈴木彩艶だが、最終的にはベルギーリーグのシント・トロイデンに加入している

松本「本当にその通りですね。自分はどうすればそこに辿り着くのかなと考えた時に、よく『上手くはないんだけど、最後に止めるよね』みたいなキーパーが日本にもいるんですよ。『なんか不器用なんだけど、ゲームになると強いよね』っていう、応用が利いているようなヤツが。外国人ってそういう選手が多いんです。でも、日本だとそういう選手があまり大事にされていない印象があって、僕は日本とヨーロッパの違いはそういうところかなって。

 結局、技術がある選手ではなくて、シュートを止めている選手が一番いいキーパーなんです。実際に技術練習をするとヘタクソなんだけど、『なんかコイツだと勝てるな』みたいな。日本はどうしても『形が綺麗』に見える方を大事にしてしまっていますけど、応用が利いているヤツの方が実際にゲームに出たら強いんですよ。そういうタイプのキーパーをもっと大事にしていく文化が日本に出てくることも重要かなと。

 今はそれなりに環境も整備されてきて、日本のキーパーでも海外に行けるようにはなってきましたけど、『何で練習していない選手が、試合でそんなに活躍できるの?』とかって、あまり僕らにはわからない感覚じゃないですか。その感覚をもっと僕らが掴んだり、知ることができるようにならないと、なかなかヨーロッパで活躍できるような選手が継続的に出てくるところまでは辿り着けないのかなとも思いますね」

「そこも日本社会の縮図で、選ばれる人の違いかなと。たとえば(奥貫)侃志もそうですよね。海外はウィークよりストロングを見てくれるから、今も活躍しているんだと思うんですけど、侃志は日本だと『ドリブルはいいけど、守備はできないし、運動量も少ないよね』というマイナス面を見られちゃうから、スーパーサブみたいな立ち位置になっちゃうのかなと。向こうはやっぱり凄いところを見てくれるから、そこは文化の違いも大きいのかなって。ちょっと出る杭は打たれる、みたいな」

松本「それこそ僕がドイツにいた時に、決してうまくはないU-15のキーパーがシュート練習で10本中1本ぐらいしか止められなくて、『下手だなあ』と思っていたら、その子が『タキ!オマエ、あの1本のセーブ見たか!』と言ってきた時に、『ああ、文化が違う!』と思ったんです。自分は9本の方を『いやいや、オマエさあ』と思っていたのに、その子はドヤ顔で『あの1本凄かっただろ!』って。

 それを言えること自体にメンタリティの違いを感じました。そういうものを大切にできるような環境を大事にしないと、それこそ出る杭は打たれてしまいますし、そうやって埋もれていく選手もいっぱいいると思うんですよ。日本でもそういうものを持っているヤツを大事にしていかないと、最後の最後は変わっていかないのかなって。

 あとは環境的に、ドイツだと幼い頃からぬかるんだピッチで飛んだりとかボールを蹴ったりしているので、勝手に身体がそういう骨格になっていくんです。ただ、日本だと人工芝が多くて、そんなに踏み込まなくてもボールが蹴れたりするので、その勝手に育っていくフィジカルの能力も意図的に変えていかない限り、いくらコーンバーをジャンプしたところで、最後にガッと行くべきところでのパワーは身に付いてこないのかなと思っていて、これからは爆発的にパワーを発揮すべきところをわかっている身体の構造をよく知るトレーナーやパフォーマンスコーチの方とGKコーチがセットになって、トレーニングを構築していくような時代になっていくはずなので、そこをやっていきたいなと思っているんです」

「キーパーが1点を防ぐことは、フォワードの1点と同じ価値があるということを、もっとわかってほしい」(南雄太)

――難しいですね。以前より環境が整ってきているのは間違いないのに、それがマイナスに出る部分もあると。

松本「ブラジルでストリートサッカーが少なくなってきているのと同じようなことなんですかね。そういうところでメンタル的にも上を目指すものが培われてきていた中で、今でもブラジルからは凄い選手が出てきますけど、昔はもっととんでもない選手が出てきていた気もしますしね」

「この間、ヒデさんも『サッカー自体が面白くなくなってきている』と言っていたじゃないですか。10番がいなくなってきているとか。そこは何がいいのか難しいですよね。今は数字で全部出るから、走行距離がどうだとか、スプリント回数がどうだとか、それが凄く重要視されてきていて」

松本「キーパーで言うと、日本では“ローリングダウン”という、一歩足を出して受け身を取りながら着地するところからスタートするので、要はケガをしないフォーム作りをするんですけど、僕が見てきたドイツにそういうものはないんですよ。別にグラウンドに倒れても痛くないから、受け身を学ぶ必要がないので、積極的に『飛びなさい』と言えると。

 でも、日本はケガをしないような受け身の取り方から学ぶので、最後のひと伸びが足りないことも多いのかなと。そういう意味では環境的に土のグラウンドから人工芝のグラウンドが増えてきたのは良かったと思うんですけど、ここからもう1個上のレベルを目指す時に、指導者がそこまで把握した上でもっと飛び方も受け身を取らずにできる技術をちゃんと教えていければ、また変わってくるのかなと思います。

 あれだけ遠藤選手が活躍しているのを見れば、日本人のキーパーもヨーロッパで活躍できなくはないと思うんです。だから、ダンくん(シュミット・ダニエル)とか航輔がもう1つ上のステージに上がっていった先にプレミアもあるのかなとは思いますけど、もうちょっと時間は掛かるかもしれないですね」

「今回遠藤くんがリバプールに行ってからのインタビューを見ていたら、何に一番驚いたかという話で『アリソンが桁違いに凄かった』と。入ったと思ったボールを止めてしまうと。ドイツでプレーしていた彼がそう言うんだから、アリソンは本当に凄いんですよ。それぐらい大きな差があるんです。特に止めることに対する能力は。そこってどうやって伸ばしていけばいいんだろうなって」

松本「雄太とも話していたんですけど、やっぱりキーパーはゴールを守ることが大事なんですよ。ビルドアップも重要ではあるんですけど、それはゴールを守った上での攻撃のオプションであって、やっぱりシュートを止めることを大事にしてほしいんです。そういう意味でもキーパーを取り巻く環境も、まだ変わっていっていないなと思います。キーパーやGKコーチに対する理解も変えていかないと、このポジションも成長していかないのかなと」

絶対的な守護神としてリバプールを支えるアリソン。プレミアリーグでは18-19、21-22シーズンでゴールデン・グローブ賞を受賞している

……

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Profile

土屋 雅史

1979年8月18日生まれ。群馬県出身。群馬県立高崎高校3年時には全国総体でベスト8に入り、大会優秀選手に選出。2003年に株式会社ジェイ・スカイ・スポーツ(現ジェイ・スポーツ)へ入社。学生時代からヘビーな視聴者だった「Foot!」ではAD、ディレクター、プロデューサーとすべてを経験。2021年からフリーランスとして活動中。昔は現場、TV中継含めて年間1000試合ぐらい見ていたこともありました。サッカー大好き!

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