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入れ替え戦でとことん飲もう!天国と地獄が共存しても我々は気分爽快である!

2022.11.28

たった1枠のJ1の椅子を懸けて5クラブがしのぎを削ったJ1参入プレーオフ。ロアッソ熊本対モンテディオ山形戦と続く京都サンガ対ロアッソ熊本戦を現地取材した池田タツ氏が、自ら撮影した写真を添えて激闘の景色を綴る。

京都と熊本が見せた最高のエンターテイメント

 そもそも入れ替え戦というのは、見る者が最大限のリスペクトを持って臨まなければいけない。サッカーの母国イングランドでは長らく入れ替え戦は聖地ウェンブリー・スタジアムで行っていた(現在は昇格プレーオフ戦を行っている)。聖地を使う理由は、興行としての側面も大きいだろうが、両チームへのリスペクトも含まれている。聖地での決戦に臨む観客はネクタイを締めたりジャケットを着たり、正装してウェンブリーに来場するのである。普段のリーグ戦に比べて家族連れの観戦も多いという。

 入れ替え戦では、試合終了と同時にその場には天国と地獄が横たわる。サッカーで最も残酷なコントラストを生む舞台が入れ替え戦であるが、サッカーは興行である以上エンターテインメントでもある。むしろ天国と地獄を同時に味わえるという意味で、サッカーにおける至高のエンターテインメントが入れ替え戦なのだ。繰り返しになるがそのエンターテイメントを楽しませてもらうためには、最大限のリスペクトを忘れてはならない。

 コロナの影響により、最後に入れ替え戦が行われたのは2019年の湘南ベルマーレ対ヴォルティス徳島だったが、奇しくも湘南をシーズン途中まで率いていたのは曺貴裁監督であり、この試合には現在京都サンガに在籍している松田天馬、山﨑凌吾、金子大毅の3人が出場した。

 京都は順位こそ16位でシーズンを終えたが失点数はわずか38。リーグで3番目に少ない数字である。曺監督らしい前線からの激しいプレッシングで相手にチャンスを与えない徹底したストーミングをシーズン通して見せていたが、エースのピーター・ウタカの得点力が落ちてからなかなか勝ち点を積み上げられなかった。

 荻原拓也が「今年1年に満足しているものなんて誰もいない」と言うように、順位を含め納得できるものではなかったシーズンだ。しかし、だからと言って京都が成長していないシーズンかと言うと、まったくそうではない。J1昇格1年目にチームはさらなる進化を遂げてきた。曺監督も成長に大きな手ごたえを感じている。

 「今年の戦いで1パターンのプレスじゃなくて2パターン、3パターンのプレスを選手たちができるようになったというのは今日見て思った。(中略)今日、川崎颯太が後半始まってすぐミドルシュートを打ちました。彼、2年前にあそこでボールを持っても下げてばっかりだった。今はあそこに踏み込んでシュートまで持っていける。あれが入るようになるのがベストですけど。リスクを冒して相手のコートに入っていくっていうのをどれだけ選手たちが動いてやれるか、今年はそのための練習しかしていない」(曺貴裁監督)

 京都が今シーズン、ポジティブな成長をし続けてきたのは入れ替え戦の試合内容を見ても明らかだ。入れ替え戦では上位リーグのチームは得てしてシーズンの結果が出なかったことで固いサッカーになりがちだが、京都は自分たちのアグレッシブなサッカーを存分に展開した。

 一方、ロアッソ熊本はJ3からJ2に昇格した1年目にもかかわらず、J2で旋風を巻き起こしていた。大木武監督の、個性的な戦術にJ2のチームたちも大いに苦しんだ。前線からのプレスという意味では、熊本も京都に負けていない。3バックの選手たちが相手の最終ラインにプレスをかけにいくようなシーンが、試合中に何度も起こる。footballistaでは、熊本の素晴らしいサッカーに注目し特集を組んだ。

 試合は両チームが長所を最大限に発揮し、見る者すべてを魅了する極上のエンターテインメントとなった。京都が熊本対策で河原創を徹底マークしてそこからチャンスを作れば、熊本は得意の早いパスワークから京都のハイプレスをかいくぐっていく。両チームともに絶え間なく仕掛け続けるため、見ているこちらは息をつく暇もない。当然と言えば当然だが、入れ替え戦ということで両チームのモチベーションは最高潮。緊張感や堅さなどから試合が硬直するシーンは皆無だった。

 結果は1−1のドローで京都が残留を決めた。

試合のハイライト動画

京都のネクストステージ

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Jリーグロアッソ熊本京都サンガ

Profile

池田 タツ

1980年、ニューヨーク生まれ。株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会もする。湘南ベルマーレの水谷尚人社長との共著に『たのしめてるか。2016フロントの戦い』がある。

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