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ロアッソのキャプテン河原創が語るチーム戦術。「肝になっているのは…」

2022.07.28

特集:ロアッソ・リザレクション――もっと赤くなれ#4

ロアッソ熊本(以下、ロアッソ)のサッカーを見ていると、中盤の底で短いパスをワンタッチで丁寧に味方に繋ぐ選手が目立つ。3〜5mの短いパスを、芝を這うような綺麗なグラウンダーで繋ぐ。その選手が河原創である。

河原はワンタッチパスを多用するので、自然とチーム全体のパスワークのテンポが上がる。Jリーグの中でも浸透してきたポジショナルプレーも、立ち位置の話ばかりでパスのテンポが追いついていないチームが散見されるが、ロアッソはテンポが早い。短いワンタッチパスは一見派手なプレーには見えないが、河原が今のロアッソのパスワークの中心を担っているのは間違いない。

キャプテンマークを巻いてチームを牽引する河原に、ロアッソの興味深い戦術について語ってもらった(ここまで戦術のことを喋ってくれて大丈夫なのだろうかと心配になったが、最後の質問に対する河原の答えを聞けば、その心配も杞憂であったことがわかる)

「自信を持って戦えている」理由

――J3からの昇格組ということで厳しい戦いも予想された中、ロアッソは中位につけています。シーズン後半戦に突入して、チームの現状をどのように捉えていますか?

 「順位に関しては、まだ中盤戦なのであまり意味はないかなと感じています。僕たちは今季の目標を『勝ち点70』に設定しています。まず6試合を1クールと考えて、それを7クール分で1シーズン42試合になります。そして、『1クールごとに勝ち点10』をチーム内の基準としているので、現状の進捗は少し遅れていますね。チームとして自信を持って戦えている一方で、勝てる試合を引き分けにしてしまったことが多かった印象です」

――熊本のサッカーでは選手たちの立ち位置が目まぐるしく変化します。そこで疑問に感じたのが、フォーメーションを表記するにはどうすればいいのだろうということです。例えば[3-4-3]なのか、[3-3-1-3]と表記すればいいのか。チームとしてどういった共通理解を持っているのでしょうか。

 「フォーメーションの表記は、あまり気にしたことがないですね」

――というと?

 「背番号とは別に、ポジションごとの番号があるんです。チーム内ではそれを元に話をします」

――CBやウイングバックなどの用語で選手の役割を規定するのではなく、1人ひとりの役割が番号に置き換わっている。

 「そうですね。何番がここに降りて、何番が外に出て…みたいな感じで会話しています」

――そのポジションごとの番号を詳しく教えていただくことはできますか?

 「ピッチ上の選手に1番から11番が割り振られます。まずGKが1番、3バックが右から2番、3番、5番、僕がやっているアンカーは4番、右サイドが7番、左サイドが6番、トップ下が8番で、最前線のFWが9番、そして2列目の右が10番、左が11番と決まっています」

――この中で河原選手が担う「4番」の役割はどんなものなのでしょうか。

 「自分の役割としては、攻撃にちゃんと顔を出して、パスを受けてさばくのがまず1つ。守備だと前線からプレスをかけた時に自分が相手のフォーメーションに応じて前に出ることもありますし、3バックがズレていく時は後ろのカバーもしないといけません」

――試合を見ていても、河原選手のタスクが多過ぎないかと感じました。中盤の広大なスペースを1人で管理するにあたって、最も意識していることは何ですか?

 「自分たちが守備をしている時のボールサイドと逆側を『反対の手』とチーム内で言っています。簡単に言えばボールサイドに寄り過ぎず、反対サイドのスペースを埋めるということです。例えば右サイドにボールがある時は、センターサークルの左付近を意識する。僕の場合、中盤でプレーするにあたって『反対の手』にあるスペースのケアを、最も大事な役割として考えています」

――大木武監督が就任してから今年で3年目になりますが、毎年選手の入れ替わりがある中で、現在のような流動性の極めて高いサッカーを築き上げるのは非常に大変なのではないかと思います。

 「毎年、チームの立ち上げからシーズン開幕までは、結構キツいですね。2部練習が基本で、1年目は午前に3時間、午後に3時間の2部練習をやっていた時期もありました。ただ、練習後に必ず20分間ジョギングすることは課せられていますけど、練習中に素走りはしないんです。

 ポゼッションや、ビルドアップからシュートなど、ボールを使った練習がメインになっています。なので、練習すればするだけ、監督のやりたいことを理解しながらプレーできるようになる。練習量は、加入1年目の選手がシーズン開幕直後から試合に出て活躍できることに繋がっているとも感じています」

――大木監督のサッカーを最初に教わった時、これまで自分が経験してきたサッカーと比べて感触や印象に違いはありましたか?

 「本当に初めての体験でした。大学時代とはまったく違って、正しいポジションを取りながらビルドアップしてというのは経験がなく、最初は難しかったです。プロ1年目は新型コロナウイルスの影響でリーグ戦が長期間中断しましたけど、自分は慣れるのに時間がかかって、再開する頃までずっと監督に怒られていましたから」

――どんなことで怒られるのでしょうか。

 「当たり前にやるべきことをずっと言われていた気がします。立ち位置もそうですし、例えばシュートを打って外した後とかの切り替えや、背後にボールを蹴られた時の戻り方など、本当に細かいところをずっと指摘されていました」

――大木監督の下で約2年半プレーしてきて、どういったところで成長を実感しますか?

 「一番は、攻撃のビルドアップへの関わりですね。そこはプロに入るまではまったくできなかったので、まだ完全ではないですけど、できるようにはなってきたなという感覚があります。守備に関しても、やれることが増えてきた感触があります」

――河原選手のデータを見ていると、ボールタッチ回数は多いですが、映像ではあまりボールに関わっているように見えないんです。それはなぜだろうと考えると、ワンプレーでボールに触れる時間が極端に短いから、結果的に試合全体を通してボールに関与している時間が少なく見えるのではないかと気づきました。特にワンタッチやツータッチで味方に繋ぐ、2〜3mくらいの距離のショートパスが非常に正確で、受け手の体の向きや角度まで考慮して確実にボールを前進させるようなメッセージ性があるように感じます。

 「あまりボールを持ちたくないというのが、そう見える理由の1つだと思います(笑)。周りの選手がうまいので、見えているところを使ったり、前向きの選手のをシンプルに使ったりして、味方に任せているというか。パスを受けてもあまりボールを持たないようにと、意識しているわけではなく、勝手にそうなっているのかなと思います」

「このサッカーで最も重要なのは…」

――熊本のサッカーを見る時に、ここに注目すると面白さがよく伝わるのではないかという戦術面のポイントを深掘りして教えてください。フットボリスタの読者は戦術好きが多いですし、ここから先は有料部分に載せるので深い話をしていただいても大丈夫です。……

ロアッソ・リザレクション――もっと赤くなれ

Profile

舩木 渉

1994年生まれ、神奈川県出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。