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22-23シーズン、好発進を切ったボルシアMG。“ファルケ・ボール”と板倉滉の現在地

2022.08.26

今夏、日本代表DF板倉滉が加入したことで注目を集めたボルシアMGは、開幕を迎えた2022-23シーズンで公式戦4戦無敗と好スタートを切っている。ブンデスリーガでも2勝1分で2位につけ、8月27日に首位バイエルンと激突する彼らの現在地を、ケルン体育大学でゲーム分析を学ぶcologne_note氏に占ってもらった。

“ファルケ・ボール”への期待

 20-21シーズンはパフォーマンスに安定感を欠き、11季ぶりに順位表下半分(10位)で1年を終えたボルシアMG。シーズン途中には16年間スポーツ部門のトップを務めたマックス・エバールがクラブを去り、彼が昨夏招へいしたアディ・ヒュッター監督ともシーズン後に袂を分かつことになった。再起を期して7年前にCL出場へとクラブを導いたルシアン・ファブレの復帰に動いたものの、失敗に終わったエバールの後任、ローランド・ビルクスSDはノリッチを率いて2度のチャンピオンシップ(英2部)優勝ならびにプレミアリーグ昇格を果たしたドイツ人指揮官、ダニエル・ファルケに白羽の矢を立てた。

ボルシアMGのファルケ新監督

 「ボルシアMGは伝統的にポゼッションやコンビネーション、ピッチでの支配力を象徴するクラブ。ボルシアは常に主役でありたいという意志を持ち、ボールを保持し試合を決定づけ、創造性やプレーする喜びを大切にする。これは私のサッカー信念に通ずるところがある」

 ファルケは7月の監督就任会見でこう語った。

 彼は近年欧州サッカートップレベルで活躍するドイツ人指揮官たちと同様、攻撃的なサッカーを哲学として掲げ、本人の言葉を借りれば「自身の原則やアイデア、理念を守る」監督である。その哲学をチームに植えつけることに成功したノリッチ時代の手腕は、2度のプレミアリーグ挑戦が成功とは言えない結果に終わったにもかかわらず、母国でも高く評価されている。

 特にファルケが自身初となるプレミアの舞台で指揮を執った19-20シーズン、前季の3冠王者マンチェスター・シティに3-2で競り勝った一戦や、FAカップ16強でトッテナムをPK戦の末に敗退へと追いやった試合での献身的かつ勇敢なノリッチの戦いぶりは、北海に隔たれたドイツからも賞賛を集めたほどだ。

ファルケがその名を上げた2019-20シーズンのプレミアリーグ第5節、ノリッチ対マンチェスター・シティのハイライト動画

 後方から勇気を持ってボールを繋ぎ、両サイドバックは果敢に駆け上がって外から攻撃に厚みを加え、中央では中盤の選手が連携を図りつつ大胆なドリブルや閃きにあふれるプレーで相手ゴールを目指す。ファルケがノリッチに浸透させた攻撃的なスタイル、“ファルケ・ボール”の到来がボルシアMGでも期待されている。

19歳新鋭の抜擢に見るファルケらしさ

 ボール保持でも高いレベルを披露したマルコ・ローゼ時代 (特に18-19シーズンから19-20シーズン前半にかけて)の核を担ったメンバーの大半が残っている現チームには、ファルケも認める通りすでにチームには彼のスタイルを実現するための「土台」と「ポテンシャル」が備わっている。

 プレシーズン、DFBポカール、そしてブンデスリーガ開幕3試合とファルケの下でいまだ負けなしという結果を見れば、新体制のボルシアMGは良い船出を切ったと言える。そのリーグ戦でファルケは、メンバーとフォーメーションを固定。実際にプレシーズン最後の練習試合、レアル・ソシエダ戦から絶対的守護神ヤン・ゾマーの前に並ぶ、ラミ・ベンゼバイニ、ニコ・エルベディ、板倉滉、ジョゼフ・スカリーという4バックの顔ぶれは変わっていない。中盤では、ポカール初戦のオーベラッハーン戦でラース・シュティンドルが負傷したことにより、ドイツ代表のフロリアン・ノイハウスがトップ下の位置へ移動。プレシーズンからファルケの信頼を得ているクリストフ・クラマーが、膝のケガからの復帰が間に合ったクアディオ・コネとダブルボランチを組む。2列目の左右にはアラサヌ・プレアとヨナス・ホフマン。そして最前線では、不甲斐ない出来に終始した昨季からの復活を狙うマルクス・テュラムがゴールを狙う。

 この[4-2-3-1]はファルケがノリッチ時代にも採用していた布陣だ。ボール保持の局面で、主に2人のCBと2人の守備的MFが相手の1列目に対して数的優位を作って行うビルドアップも共通している。両SBがなるべく高い位置にポジションを取り、両翼のプレアとホフマンが中央に寄って味方からの縦パスをハーフスペースで引き出す。独力でサイドを突破する典型的なウイングを抱えていないチーム事情と、戦術的柔軟性の高い味方との連携を得意とするプレアとホフマンのキャラクターに適している配置だ。

シャルケ戦のボール保持時の配置
ヘルタ・ベルリン戦のボール保持時の配置

 スタメンの中で昨季と比べ数少ない変化の1つが、右SBに抜擢されているスカリーだ。ファルケはローゼとヒュッターの下でファーストチョイスだったシュテファン・ライナーではなく、2021年1月に加入して今年6月にアメリカ代表デビューを果たしたばかりの19歳の新鋭を重宝している。……

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ダニエル・ファルケ

Profile

cologne_note

ドイツ在住。日本の大学を卒業後に渡独。ケルン体育大学でスポーツ科学を学び、大学院ではゲーム分析を専攻。ケルン市内のクラブでこれまでU-10 からU-14 の年代を指導者として担当。ドイツサッカー連盟指導者B 級ライセンス保有。Twitter アカウント:@cologne_note

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