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ダニエル・ファルケとノリッチの4年半(後編)。 「ファルケ・ボール」が味わった栄光と終焉

2021.11.29

All the Germans,

so many Germans,

they all go hand in hand, hand in hand through their…

Farkelife!”

イギリス全開の曲に合わせて、ドイツ人指揮官ダニエル・ファルケを称える歌声がノリッチの本拠キャロウ・ロードに響き渡る。ブリットポップの雄Blurの代表作である「Parklife」。それを替え歌にした「Farkelife」は、世界最古のフットボールチャント(※諸説有り)として知られる「On the Ball, City」と同じかもしくはそれ以上に、この数年間ノリッチファンに愛されていた。59年ぶりとなるホームでの昇格を決めたブラックバーン戦も、マンチェスター・シティ相手に大金星を挙げた歴史的な日にも、カナリーズ(ノリッチの愛称)の歓喜にはFarkelifeがあった。

ファルケがバークリースタンドのファンを適度に煽りつつも、じっくりと噛み締めるようにファンと勝利を分かちあう姿は実に尊い。クラブ史上初の外国人(ブリテン諸島以外の出身)監督でありながら、なぜ彼はここまで愛され、去る11月6日の退任で惜しまれたのか。日本からノリッチを応援するファングループ、カナリーズジャパンが振り返るフットボールの喜びと悲しみ、そして情熱であふれていたダニエル・ファルケとノリッチの濃密な4年半。後編ではプレミアリーグ初挑戦の19-20シーズン、チャンピオンシップ王者に返り咲いた20-21シーズン、そして指揮官が別れを告げた21-22シーズンに焦点を当てる。

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19-20:シティ撃破で脚光!「ファルケ・ボール」を貫いた末の降格

 プレミアリーグ昇格後の夏はノリッチにとって静かなものであった。目立った補強はなく、クラブから発表されるリリースの大半は昨シーズンの主力選手との契約延長。18-19シーズンにチャンピオンシップを制したチームをベースに、世界最高峰のリーグへ挑むことになった。のちにウェバーSDは、「自分やファルケが1シーズン限りの栄光を追おうと思えば、補強にもっと金を使うことも可能だったが、そうはしなかった」と回想している。温かく迎え入れてくれた料理研究家のデリア・スミスら首脳陣のためにも、「私たちはもっと長いスパンで物事を考える。自分たちがいつかクラブを去る時にクラブがより良い状態であってほしい」という想いがあり、補強よりも練習場を始めとしたクラブ施設への投資を優先した。

 そんなノリッチの開幕戦の相手は、当時の欧州王者リバプール。昇格組が初戦に敵地で優勝候補と対戦するとなれば、がっちりと守りを固めて勝ち点1を狙うのが定石だが、カナリーズは果敢に攻めるスタイルで強気のフットボールを披露。結果こそ1-4と圧倒されたが見る者に強烈なインパクトを与えた。続くチェルシー相手にも、ウェズ・フーラハンの背番号14番を受け継いだ地元出身の生え抜きMFトッド・カントウェルや、プレミアリーグでも決定力の色褪せないプッキが躍動。強豪相手に一歩も引かない一貫したスタイルは、プレミアリーグのファンにも好感を持って迎え入れられた。

 ファルケ・ボールの集大成とも言えるのが、前年度の3冠王者マンチェスター・シティをホームで撃破した一戦だ。試合前会見でファルケは「バスを停めることはできない。私たちには守備的な選手がいないからね」と冗談を飛ばしている。当時のノリッチは主将のハンリー、ツィマーマンなどが軒並みケガで離脱中。本職CBはベン・ゴッドフリー以外に不在で、トップチーム経験ゼロの若手CBアキン・ファメウォがベンチ入りせざるを得ないほどの野戦病院状態だった。

 それでもファルケは「自分たちのスタイルを持ち込み、ポゼッションを支配してボールをうまく扱うこと」の重要性を力説。キックオフの笛が鳴ると、ノリッチは臆することなくリーグチャンピオンに立ち向かっていく。指揮官の宣言通り、自分たちが信じる繋いで崩して攻め立てるファルケ・ボールで。世界トップレベルの選手たちに猛烈なプレッシャーをかけられても慌てて蹴り出さず、繋いで剥がしてボールを前進させる危ない綱渡りを選手たちは見事に完遂した。象徴的なのは、カントウェルが挙げたチーム2点目だ。

 クルルがゴールキックから中盤に浮き球を送ると、パスを受けたのはフリーのブエンディア。バウンドしたボールの勢いを胸で宙に逃がし、その間に慌てて寄せてきた守備的MFロドリと、遊び心のあるシャペウで入れ替わる。バトンタッチしたシュティーパーマンはアンカー不在のスペースにボールを運び、そこを埋めようと前がかりになるシティのDFラインが乱れたタイミングを見逃さずスルーパス。ハーフウェイラインからペナルティエリアまで独走したプッキがパスを送ると、カバーに奔走した右SBカイル・ウォーカーの背後で待ち構えるカントウェルが押し込んだ。

 さらに1点を返された後の50分には、ペップ・グアルディオラ率いるチームからお株を奪うハイプレスでブエンディアがボールを奪い、預けたパスをゴール前のプッキが余裕をもって蹴り込み3点目。その後は2点を追うアウェイチームに猛攻を仕掛けられるが、ケガで欠場したアーロンズに代わり夏の加入後リーグ戦で初先発した右SBのサム・バイラムが対面のラヒーム・スターリングを完封。練習から動き方など細かく指示を与えていたファルケの指導が功を奏した。さらに守護神クルルもビッグセーブを連発したカナリーズは反撃をロドリの1点に留め、見事に3-2で大番狂わせを演じている。

ノリッチ公式YouTubeチャンネルが公開している19-20シーズンのプレミアリーグ第5節、マンチェスターシティ戦のフルマッチ動画

 しかしその後ゴッドフリーすら欠いたノリッチは、MFのテティをCBで使わざるを得ない苦しい台所事情の中で苦戦を強いられ、最下位に沈んでしまう。プッキ1人に依存した状態の前線もシーズン途中からエースの不調とともに得点力不足が浮き彫りとなり、前半戦で武器となったブエンディアとのホットラインも鳴りを潜めてしまった。

 言い訳がましくなってしまうが、コロナ渦における無観客での開催も大きな逆風となった。マンチェスター・シティ相手の大金星はキャロウ・ロードに詰め掛けたサポーターの大声援なくしてはあり得なかっただろう。FAカップでこそベスト8に進出したが、ファルケ率いるカナリーズのプレミアリーグ初挑戦は10戦勝ちなしの末に最下位での降格と、屈辱的な終わりを迎えた。

20-21:既存戦力と新戦力の融合。高まるファルケへの信頼

……

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ダニエル・ファルケノリッチ戦術文化

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カナリーズジャパン

日本からNorwich Cityを応援しています。チームで運営し、主にTwitter(@canaries_jp)で活動しております。