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新戦力は両軍に何をもたらしたか?トゥヘルとコンテの熱盛采配合戦【チェルシー 2-2 トッテナム】

2022.08.17

プレミアリーグ第2節の注目マッチ、昨季3位チェルシーと4位トッテナムによるロンドンダービー。今夏ともに大型補強を敢行し、前者ではスターリング(←マンチェスター・シティ)、ククレジャ(←ブライトン)、クリバリ(←ナポリ)が先発、後者ではリシャーリソン(←エバートン)、ペリシッチ(←インテル)、ビスマ(←ブライトン)が後半途中から出場した一戦は、2-2で両軍が勝ち点1を分け合う結果となった。西ロンドン在住の山中忍さんがレポートする。

「そうこなきゃ!」

 8月14日に気温32℃の西ロンドンで行われたチェルシー対トッテナム。プレミアリーグ第2節で実現した今季初の“ビッグ6対決”は、前半に炸裂したカリドゥ・クリバリの先制ボレーから、試合終了直後にそろってレッドカードをもらった両軍監督による“組み手”のような握手まで、熱いロンドンダービーだった。そのアントニオ・コンテとトーマス・トゥヘルが、追いつき追い越すための交代策を講じ合い、自軍のゴールをこれ見よがしに喜び合い、マルク・ククレジャが長髪を引っ張って倒されたファウルが見逃され、ハリー・ケインが土壇場でトッテナムに1ポイントをもたらした、興奮せずにはいられない見どころ満載の一戦。この日本人プレミアファンなどは、「そうこなきゃ!」という意味のサビが印象的な1970年代のディスコ調ヒット曲、『That’s The Way(I Like It)』を思わず口ずさんでしまった。

 もっとも、プレミアの昨季3位と4位による今季初対決は、マンチェスター・シティとリバプールの「2強」を追うチームとしての立ち位置を確認すべく、冷静な視点で眺めるべき一戦でもあった。即戦力3人の獲得に計225億円近くを費やしていたチェルシーと、4人の新レギュラー格を迎え入れていたトッテナムは、今夏の移籍市場におけるプレミアの“2強”とも言うべき積極補強ぶりだったのだ。

 特に今年1月、昨季前半戦途中からの現体制下で臨んだチェルシーとの顔合わせで、カップ戦を含む3試合のすべてに敗れていたトッテナムの追い上げぶりが注目された。18日間で計5失点の無得点に終わった連敗の口火を切った同月5日のリーグカップ準決勝第1レグ、自身にとっては監督としてプレミアとFAカップで優勝に導いた過去のある古巣との初対決を終えた敵地での試合後会見で、「リーグ中位。中位だ。我われは中位」と力なく繰り返したコンテは、最終的に弁護士を必要とした醜い別れで胸に一物のある元チェルシー監督としての心情があったにしても、痛々しいほどの消沈状態だった。

 しかし、同じ1月の末にロドリゴ・ベンタンクールとデヤン・クルゼフスキを、それぞれ移籍金25億円強とレンタルでユベントスから獲得して以来の7カ月を経た現在は違う。メディアを通じたフロントへの補強アピールが聞き入れられる中で就任後初のプレシーズンも過ごした指揮官は、自信みなぎる勝ち気なコンテらしい姿に戻っている。「監督はいつまで我慢できるのか?」という空気が消えたチームは、選手たちの意識が実力者の下で成功を手にすることに集中されるようになったとも見受けられる。事実、8月6日のサウサンプトン戦(○4-1)は、今季プレミア開幕節の10試合で最も説得力があったと評価できる勝利。続くチェルシー戦前には、トッテナムの勝利のみならず、オーナー交代の影響で移籍市場でのスタートが遅れた相手とのトップ4争いにおいても、4位から3位へのリーグ順位逆転を予想する識者が複数いた。

チェルシー対トッテナムのハイライト動画

即戦力3人で1ゴール2アシスト

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チェルシートッテナム

Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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