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The Anfield Wrapとリバプールの幸せな関係。クロップや選手も出演する人気ファンメディアを現地取材

2022.07.13

ポッドキャストと動画を中心にリバプールの情報を発信しているファンメディア『The Anfield Wrap(TAW)』。リバプールで生まれ育った3人のファンが趣味で始めたTAWは、現在では世界中に50万人もの視聴者を抱えるメディア企業に成長し、創設者の1人であるニール・アトキンソンは早口のスカウスで番組のしゃべりを担当するかたわら、TAWのCEOも務めている。そんな現在41歳のニールさんに、リバプールのピアヘッドにあるマージー川を臨むオフィスでTAW創設の経緯やリバプールのファンカルチャーについて話を聞いた。

TAWの始まり、10年の成長物語

——まずはニールさんの経歴を教えてください。初めてアンフィールドで観戦されたのはいつでしたか?

 「1986年のバーミンガム戦です。ギャリー・ギレスピーがハットトリックを決めてリバプールが5-0で勝った試合です。祖父母の家は、アンフィールドのthe Kopのすぐ向かいのベンモア・ストリートにありましたから、私の父はリバプールファンとして育ちました。父と母は、結婚すると、アンフィールド・ロード・スタンドのすぐ裏にあるハロー・ロードに新居を構えました。私が5歳の時に私たち一家はリバプール北西部のクロスビーに引っ越したのですが、祖父母に会いによくアンフィールドに行っていましたね」

——1986年ということは、ニールさんのアンフィールドデビューは5歳ですか!?

 「そうです。父が連れて行ってくれました。変なことを言うように聞こえるかもしれませんが、私には自分がリバプールファンでなかった時の記憶がありません(笑)。地元のファンはみなそうですが(笑)」

——TAWを始めた経緯と、運営スタッフについて教えてください。

 「TAWの創設メンバーである私とアンディ・ヒートンが出会ったのは2008年でした。前オーナーのトム・ヒックスとジョージ・ジレットが資金繰りに失敗したせいでリバプールが経営破綻の危機に陥っていた頃です。オーナーたちに怒ったリバプールファンは、自分たちの意見をクラブに届けるためにサポーターズ・ユニオン『スピリット・オブ・シャンクリー(SOS)』を結成しました。私とアンディはSOSの創設メンバーです。結成当初、私はSOSの副会長を務め、その後半年間、会長を務めました。オーナーが無事にNESV(現FSG)に交代してホッとしていた2011年頃、アンディがガレス・ロバーツと一緒に『Well Red』というリバプールのファンジンのWEB版を始めたのですが、彼らのサイトで私にポッドキャストのコーナーを担当してほしいと言ってくれました。その頃、私は造船会社に勤めていたのですが、本当は映画やテレビのシナリオライターになりたいと思っていたので、二つ返事で引き受けたんです。それがTAWの始まりですね。

 当初、私たちは単なる趣味としてTAWを運営していましたが、2014年にTAWをサブスク制にしたところ大勢のファンが登録してくれて、これだけで食べていけるようになりました。そこで造船会社を辞め、TAWをフルタイムの仕事にすることにしました。今では14人のスタッフがいますが、全員がフルタイムの正社員で、SNS担当のスタッフやマーケティング担当のスタッフもいます。私たち正社員の他に、不定期で番組に出演してくれる協力者が100人ぐらいいて、毎週14本のポッドキャストと10本の動画を作って公開しています。サブスク登録をしてくれているファンは1万1000人ほどですが、無料のコンテンツを視聴しているファンは世界中に50万人くらいいます」

ニール・アトキンソンさん。TAWの動画撮影スタジオで

「ファンだけが知っているストーリー」を伝える

——『The Anfield Wrap』(ジ・アンフィールド・ラップ)という名前の由来を教えてください。

 「1988年のFAカップ決勝の前に、当時リバプールの現役選手だったクレイグ・ジョンストンがラッパーのデレク・Bと共同で『Anfield Rap』というラップの曲を作ってリリースしました。イギリスのシングルチャートで3位になったヒット曲です。その曲名を拝借したのですが、まったく同じ名前にするわけにもいきませんから、綴りを少し変えて『Rap』を『Wrap』にしました」

——SkyやBBCといった既存の主流メデイアとファンメディアの違いはどこにあるのでしょうか?

 「主流メディアのジャーナリストたちは、私たちファンと同じ生活圏では暮らしていません。私たちが利用する電車やバスに彼らは乗っていませんし、私たちがよく行くパブに彼らが来ることもありません。スタジアムで彼らが座る席は、メインスタンドの一角にあるジャーナリスト用の席で、彼らは私たちと一緒に試合を観るわけでもありません。ですから、当然ながら彼らに見えているものや聞こえているものは、私たちファンが見たり聞いたりしているものとは違います。それはつまり、主流メディアには伝えることのできない、リバプールファンだけが知っているストーリーがあるということです。それを伝えるのが私たちファンメディアです」

——ニールさんやTAWの女性メンバーのハリエットさんは、クラブの公式チャンネル『リバプールFCTV』にも出演されていますよね。また、TAWのポッドキャストや動画には、クロップ監督やヘンダーソン、アレクサンダー・アーノルド、ロバートソンといった選手たちが出演することもあります。クラブがTAWの仕事を評価し、ニールさんたちのことを信頼していることの証だと思うのですが、どうやってクラブとそのような信頼関係を築かれたのでしょうか?

TAWのメンバーは現在、リバプールのプレシーズンツアーに同行中。7月12日にはさっそく、タイでクロップ監督にインタビューした動画がアップされた。さらに本日は、ビリー・ホーガンCEOへのインタビュー動画も公開

 「クラブのオフィスは私たちのオフィスのすぐ近くにあります。ここから徒歩10分くらいの距離ですから、クラブの社員と街なかでばったり会うこともよくありますし、パブに飲みに行けば、彼らも同じパブに飲みに来ています(笑)。彼らの多くも私たちと同じリバプールファンですから、自然と意気投合して一緒にビールを飲みますよ。クラブと同じ目標に向かって協力して取り組んでいることもあります。昨季、クラブはウィメンズチームの強化と認知度向上に力を入れていましたが、私たちもウィメンズチームのコンテンツを増やしたいと思っていました。ですから、私たちはクラブと協力してウィメンズチームを盛り上げるコンテンツを作ったんです。このように、クラブは私たちととても良い関係を築いてくれていますし、私たちが独立メディアであることも尊重してくれています。

 ただ、欧州スーパーリーグ構想のようなことが起きて、クラブとの間に少し齟齬が生じることもあります。あの時、私たちはクラブを批判しましたからね。ですが、クラブは『君たち、クラブに対してなんてことを言うんだ!』などと怒ったりはしませんでした。私たちの言葉に耳を傾け、私たちとの良い関係を維持し続けようとしてくれましたよ」

——他のクラブのファンメディアも、クラブとそのような良い関係を築いているのでしょうか?

 「多くはそうではありません。もちろん、クラブと良い関係を築いているファンメディアもありますが、クラブとまったくやりとりがないファンメディアもあります。ここ30年で最も質の高いファンメディアはマンチェスター・ユナイテッドのファンが作っている『United We Stand』というファンジンだと思いますが、彼らは私たちのようにクラブと良好な関係を築いているわけではありません」

チャント文化はマージービートの街で生まれた

——リバプールのファンカルチャーについて教えてください。他のクラブのファンカルチャーと比較して、どんな点がユニークでしょうか?……

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TAWリバプール

Profile

田丸 由美子

ライター、フォトグラファー、大学講師、リバプール・サポーターズクラブ日本支部代表。年に2、3回のペースでヨーロッパを訪れ、リバプールの試合を中心に観戦するかたわら現地のファンを取材。イングランドのファンカルチャーやファンアクティビストたちの活動を紹介する記事を執筆中。ライフワークとして、ヨーロッパのフットボールスタジアムの写真を撮り続けている。スタジアムでウェディングフォトの撮影をしたことも。