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永戸の役割は「カンセロ・ロール」。横浜F・マリノスの流動性を考える

2022.06.07

本誌『フットボリスタ第91号』(6月10日発売)の戦術リストランテのコーナー内でマンチェスター・シティの極めて流動性の高いポジショナルプレーを取り上げた際、西部謙司氏が同じタイプのチームの1つとして例に出したのが、横浜F・マリノスだった。果たして、彼らの派閥が志向しているのは「未来のサッカー」なのか――考えを巡らせてみたい。

ポステコグルーが作った器

 横浜F・マリノスのサッカーが変貌したのは2018年だった。アンジェ・ポステコグルー監督が就任し、セレッソ大阪との開幕戦で「偽SB」が出現している。ポジショナルプレーが導入され、2019年にはJ1優勝を成し遂げた。ただ、ポステコグルー監督初年度の2018年は12位で、前年の5位から大きく後退していた。

 川崎フロンターレに次ぐ56得点だったが、失点は多い方から3番目で得点と同じ56失点。まだポジショナルプレーの効果は十分に表れていなかった。

 偽SBに象徴されるように、ポジショナルプレーにはポジションの流動性がともなう。立ち位置の変化によって、次々と相手からつかまりにくい選手を作り出していく。その効果は導入初年度の2018年もある程度は出ていた。56得点は相当な破壊力である。一方、56失点も流動性の副産物と言える。ポジションが崩れた状態でボールを奪われると、高いDFラインはカウンターアタックに弱く、それを担保する広いスペースをカバーできるCBが必須だった。この弱点自体は現在でも変わっていない。

 優勝した2019年はチアゴ・マルチンスの活躍で弱点をカバーできたことが大きい。また、次々と選手を補強、または新たな選手が台頭したことで同じプレースタイルでもグレードアップしていた。

 2018年と2019年の差は、ポジショナルプレーが単なる器に過ぎないことを表している。そこに何を盛るかによって出来上がりは大きく違ってくるわけだ。

2019シーズンにはポステコグルー監督の下、15年ぶりのJ1制覇を成し遂げた横浜FM

「器」が「中身」を変えることもある

 現在の横浜FMもプレースタイルは変わっていない。偽SBも健在で、例えば左SBの永戸勝也はハーフスペースの高い位置でプレーすることも多い。インサイドハーフの場所でのプレーはそれまでの永戸にはあまり見られなかったプレーなので、横浜FMのスタイルに合わせた結果である。

 ポジションの流動性の結果、永戸はしばしばインサイドハーフの位置でプレーする。マンチェスター・シティのジョアン・カンセロと同じ。横浜FMの「器」はシティと同じなわけだ。そして永戸がそこで何ができるかで流動性の成否が決まる。そこにいる以上、すでにSBではない。マルコス・ジュニオールと同じプレーが求められている。同様に、流動性の結果として様々な場所へ流れついた選手たちが、それぞれの場所に相応しいプレーができるかどうかはこのスタイルのカギになる。……

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ジョアン・カンセロマンチェスター・シティ戦術横浜F・マリノス永戸勝也

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。