SPECIAL

パラグアイに快勝の日本代表、メンバー大幅変更の中でも示された“物語の継続”の意思

2022.06.04

開幕まで半年を切ったカタールワールドカップ本大会に向けた強化試合4連戦の初戦、日本代表はパラグアイ代表相手に4-1と快勝した。アジア最終予選から大きくメンバーを入れ替えて臨んだこの試合、チームとしてどんな方向性で戦い、その中でどんな収穫や課題が見えたのか。らいかーると氏が分析する。

 ワールドカップ出場を無事に決めた日本代表の物語を簡単に振り返ると、田中碧と守田英正の台頭とともに[4-3-3]へと配置を変更した日本は、これまでの試合で課題とされていたボール保持の状況を改善、はまらないプレッシングが強度を装備したプレッシングに変貌したことで結果を残すことに成功した。継続してきた[4-2-3-1]から離れたこともあって突貫工事感の強い[4-3-3]だったが、試合を重ねるごとに問題点と向き合い改善していく姿勢は見事だった。

 さて、ここからの物語は最終予選からワールドカップへ向けた準備になっていく。パラグアイ、ブラジル、ガーナ、最後にチリかチュニジアとの試合を通じてどのような物語を紡いでいくのかを、試合を通じて検証していきたい。当面のカギとなってくるのは、アジアで通用した方法論が世界を相手にした時に通用するかどうか、ワールドカップの本大会ではどのようなサッカーをするのか、そして固定されてきたスタメンへと新たに名を連ねる選手が出てくるかどうかといったところだろう。

 パラグアイ戦のメンバーは新戦力や、最終予選でベンチに控えていた選手たちが多くスタメンに名を連ねることとなった。絶対的なスタメンは吉田麻也と遠藤航くらいだろう。その証拠に、彼らは前半でお役御免の交代となっている。メンバーを替え過ぎたことで機能しなくなった最終予選の最終節ベトナム戦の反省を活かすために、スタメン組も起用した森保監督の采配は物語の継続を表すものだった。

4-3-3]が基盤の配置

 最初の意思表示は[4-3-3]で試合に臨んだことだ。守田、田中碧の両者がいなくても[4-3-3]を継続したことは、日本代表は[4-3-3]を基盤するという意思表示になるだろう。[4-2-3-1]のトップ下を主戦場としていた鎌田大地に合わせる形になるかとも予想されたが、鎌田大地と原口元気のインサイドハーフコンビが形成されることとなった。

 パラグアイが[4-4-1-1]のような役割でプレッシングを仕掛けてくるのに対して、序盤の日本はロングボールによる速攻からのトランジション対決を挑んでいるように見えた。遠藤がマンマークされていたから、というよりは、事前に準備されているようだった。浅野拓磨が相手を裏に引っ張り、マイボールになれば良し。ならなくても2列目の強度でボールを奪い取ってしまおう作戦は、パラグアイとの真っ向勝負を選択しているようだった。

 日本のプレッシングに目を移すと、陣形は[4-1-4-1]でプレッシング開始ラインを相手陣地のセンターサークル付近に設定していた。無闇に追いかけ回すよりも、相手が中盤にボールを入れた時にボールを奪うスイッチをチームで共有すること、相手を引き込み、カウンターで有効利用するスペースを創ることが目的だったに違いない。ただし、パラグアイも速攻を中心に仕掛けてきたこともあって、お互いの思惑が噛み合うようで噛み合わない序盤戦となった。なお、執拗に谷口彰悟サイドを狙ってきたのはパラグアイのスカウティングなのか、試合の中で判断したことなのかは不明である。

 お互いの速攻対決から繰り出される中盤の強度対決は、徐々に日本が優位に立ち試合を進めていくこととなった。パラグアイはSBを高い位置に上げ、サイドハーフを内側に入れて個々の選手の立ち位置で勝負したいように見えたが、日本のプレッシングを前に可変する時間がなく、全体の配置を準備することができなかったのが痛手であった。裏を返すと、その時間を手に入れた時は日本のブロック内にボールを入れることもできていた。

 トランジションの準備をしてきた日本は、時間の経過とともにショートパスによる前進も試みるようになる。この局面で活躍していたのが守田と田中碧だが、このコンビは不在。そして、遠藤もほぼマンマークを受けている状況である。そんな中でビルドアップの出口、経由地になったのは、代わって先発したインサイドハーフコンビだった。原口も鎌田も列を下りてきてビルドアップの出口や経由地になることで、日本のビルドアップを間違いなく助けていた。

1ゴール1アシストと数字を残した鎌田だが、ビルドアップへの貢献も見逃せない

 また、彼らの立ち位置によってウイングの三笘薫、堂安律が内側と外側を使い分けるように整備されていたことも相まって、多種多様な前進の形を見ることもできた。ただし、何度も何度もやり直してボールをまったり保持するのではなく、今日のプランであろうゴールを目指すプレーが非常に多かったこともあって、試合は少しの慌ただしさを持って経過していくこととなった。

“速攻からのトランジション”がベースとなるか

……

残り:3,075文字/全文:5,141文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

パラグアイ代表日本代表

Profile

らいかーると

昭和生まれ平成育ちの浦和出身。サッカー戦術分析ブログ『サッカーの面白い戦術分析を心がけます』の主宰で、そのユニークな語り口から指導者にもかかわらず『footballista』や『フットボール批評』など様々な媒体で記事を寄稿するようになった人気ブロガー。書くことは非常に勉強になるので、「他の監督やコーチも参加してくれないかな」と心のどこかで願っている。好きなバンドは、マンチェスター出身のNew Order。 著書に『アナリシス・アイ サッカーの面白い戦術分析の方法、教えます』(小学館)。

RANKING