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モドリッチだけじゃない!9季連続でCL優勝選手を輩出。クロアチア人の「ラ・デシマ」なるか?

2022.05.23

CLファイナルでのブラジル人選手の多さが話題になっているが、実はもう1つ快挙を成し遂げている国がある。クロアチアだ。バイエルン時代のマンジュキッチに始まり、レアル・マドリーのモドリッチの4回を挟み、昨季のチェルシーのコバチッチまで、なんと9シーズン連続でCL優勝者を輩出しているのだ。長束恭行氏にその秘密に迫ってもらおう。

 ことあるごとに私がイビツァ・オシムを訪ねたのは今から10年以上前のこと。病に倒れて日本代表監督を辞したオシムに対し、日本の各メディアが欧州詣でをしていた頃だ。在任中にオシムの独占手記『日本人よ!』を手がけた私は、彼が住むグラーツ(オーストリア)やサラエボ(ボスニア)からそう遠くないザグレブ(クロアチア)を拠点にしていたこともあり、通訳やインタビュアーとして頻繁に借り出されていた。もちろん質問は日本サッカーにまつわるものが中心。メディアが用意したその質問も似通ったものばかりだ。そんな中、わずかな隙間を見つけてはクロアチアサッカーの意見を拝聴することが私の密かな楽しみだった。

 「(イバン・)ラキティッチはなんでも自分1人でやろうとしてしまう。それは彼にとってもチームにとっても良くない」と新たにクロアチア代表で祭り上げられる20歳を批判したかと思えば、「(ゴラン・)ブラオビッチはよくサッカーを理解している。彼の解説はなかなかなものだ」とコメンテーターに転身したばかりの元クロアチア代表FWを賞賛。オシムはクロアチア代表やクロアチアリーグも好んでテレビ観戦していた。彼の着眼点や洞察力に毎回唸らされるだけでなく、クロアチアのサッカー界にも厳しくて温かい眼差しを向けていることを私は肌で感じていた。

長束氏が撮影した在りし日のオシム。スポーツ紙を読みふけるためにインタビューがなかなか始められず、妻のアシマさんに急かされることが恒例だった。退任後もジャケットにJFAバッジがついていることを尋ねると、偶然を強調しながらも「私は日本の成功を常に望んでいるが、その思いの丈を示すにはあまりにも小さいバッジだ」と語った

オシムによる“旧同胞国”クロアチア人評

 その頃のクロアチアは1998年のW杯初出場3位の成功体験を引きずるがあまり、代表レベルでもクラブレベルでも、さらに言えば選手レベルでも天井を突き破れずにいた。一つの基準を「CL優勝」に定めるとしたら、FWダボル・シュケル(レアル・マドリー、1998年)以降、14年間に優勝を経験したのがDFダリオ・シミッチ(ミラン、2003年・2007年)とDF/MFイゴール・ビシュチャン(リバプール、2005年)のみ。両者とも決勝でプレーするどころかベンチにすら入れなかった。

 それが今やどうだ。

 2013年から立て続けにクロアチア人が欧州制覇に貢献し、今季のファイナルでもMFルカ・モドリッチがレアル・マドリーで個人5度目の優勝を目指す。目下、9シーズン連続で優勝クラブに選手を送り込む国がクロアチアの他にブラジルしかないことを考えれば、DFデヤン・ロブレンの「つぶやき」はあながち嘘ではない。

 昨今のクロアチア人の台頭について私がオシムに直接尋ねる機会はなかったが、日本同様にオシムをご意見番としてきたクロアチアメディアの記事から考えを知ることは可能だ。8年前の『GOL.hr』の独占インタビューでオシムはこう語る。

 「クロアチアは常にクオリティと実力を証明してきた。今では世界の3大クラブでプレーする選手が3人いる。モドリッチ、ラキティッチ、(マリオ・)マンジュキッチ。今夏にマンジュキッチはバイエルンからアトレティコに移籍したとはいえ、アトレティコだってビッグクラブだ。そのような3人をどこの誰が抱えているというのだね? 正直言って誰も抱えていない。クロアチアには素晴らしい選手がたくさんいる。エキスパートは常に存在する国だったが、今はサッカーを熟知した上で走れる選手がどんどん増えているんだ。(マテオ・)コバチッチは驚くべきエレガントな若手だ。走れる選手になったことで予想しなかったプレーを繰り出している」

 オシムは2017年の欧州予選プレーオフの時点で「クロアチアはロシアW杯でサプライズの一つになり得るだろう」と予言し、クロアチアがファイナルまで勝ち進んだ際には隣国セルビアのメディア『SPUTNIK』に旧同胞国という角度でこんな考察をしている。

 「(クロアチア代表監督のズラトコ・)ダリッチがよく口にしているように、地に足をつけるような謙虚さがとても重要だ。少なくとも我々が住む地域においてはそう。偶然に訪れるものなど何もない。クロアチアには多くのタレントがいて、育成に力を入れた。そして並外れた能力の選手が何人かいて、バルカン半島の政治情勢をうまく利用した。かつての敵から味方を自分に作り出し、大袈裟になることなく非常に賢く振る舞ったわけだ」

 かつてユーゴスラビアを一緒に形成していたセルビアやボスニアと比べれば、2014年にEU加盟したクロアチアは西側諸国のクラブがアクセスしやすい人材の宝庫だ。いわゆる5大リーグがクロアチア人にとっての「学校」となり、サッカー選手としての行動様式を含め、すべての能力を最大限引き出した結果がロシアW杯の成功にも繋がったとオシムは考える。

ロシアW杯決勝、フランス戦で同点弾を挙げたペリシッチに駆け寄るクロアチア代表チーム

始まりは「問題児」マンジュキッチ

 それでは選手個々にクローズアップし、クロアチア人CL9連覇の歴史を紐解いてみよう。……

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Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。