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バルセロナはなぜフランクフルトに敗れたのか?5バック+五角形の機能美、鎌田大地の鬼タスクと悪魔のカウンター

2022.04.18

1-1の“前半90分”を経て4月14日にカンプノウで行われたEL準々決勝、バルセロナ対フランクフルトの第2レグは、アウェイチームが2-3で制し、2戦合計3-4でベスト4進出を決めた。67分までに3ゴールを先取したフランクフルトの完勝劇はいかにして実現したのか。今後バルサ対策のスタンダードになるだろう戦術的ポイントを、バルサが得た教訓とともに、おなじみのぶんた(@bunradio1)さんが分析した。

 結論から言うと、無機質なバルサのパスワークを、機能美を有するフランクフルトのハードワークが凌駕(りょうが)した、ぐうの音も出ない完敗であった。バルサはボールを保持するも、同じ経路をたどるだけで凪の状態が続いていたのに対し、フランクフルトはプレーの旋律が過不足なく結び合い、冷たい熱情がみなぎり、ホームチームを襲い続けた。

完璧に機能した守備ブロック

 キックオフからフランクフルトは奇襲を仕掛けてきた。ロングボール&デュエルによるセカンドボール回収で敵陣深くへと侵入。DFライン裏やサイドへのダイナミックな展開で、まだ試合に入り切れていないバルサDF陣にエンジン全開で揺さぶりをかけ、開始3分でPKを奪取。バルサにとっては最悪のスタートを切るハメとなった。

 リードを奪ったフランクフルトは、ハーフウェイライン近辺から[5-2-3]の守備ブロックを形成。積極的に縦スライドで狙撃する5人のDFラインと、5人の集合体が五角形で中央を固く閉じながら、プレスの矢印を縦や斜めに放射させる。5バックと五角形が有機的にリンクする、巧みな守備組織を形成していた。

 守備の1stラインとなる3人は、まずバルサの2CBは放置して、ブスケッツのパスラインを1トップのボレが切るというバルサ対策の定跡を行う。そして2シャドーの鎌田大地とリンストロムはインテリオールへのパスラインを消しながら、CBの運ぶドリブルにも睨みを利かせつつ、ボールをSBへと誘導してからプレッシャーをかけるという鬼のマルチタスク。その間にDFラインを巧みにラインコントロールして、バルサが狙ってくるライン間のスペースを制限。守備陣形のコンパクトさを保ちつつ、途中から2シャドーが1列下りて[5-4-1]に可変。サイドに設定したボールの奪いどころにボールをしっかり誘導して奪い切る設計となっていた。

 トランジションの局面に移り変われば、5人が一気呵成に前に出て、コレクティブなカウンターを仕掛けるという緻密かつ大胆な戦術を支える、タフでマッチョな戦略だった。そして第1レグでバルサの選手たちの脳裏に刻んだ“悪魔のカウンター”の残像を巧みに利用しながら守備からリズムを生み出し、主導権を握りにきたのだった。

4月7日にフランクフルトで行われた第1レグ(1-1)のハイライト動画

 バルサはいつも通り[2-3-2-3]の静的な4列配置でボールを循環させ、前進を狙う。試合序盤はキーとなるフリーでボール保持できるCBが、大外の選手とタイミングを合わせてダイレクトにDFライン裏を狙う牽制を入れつつ、9分にはシャビ・バルサの必殺技でもある3人目の動きと4人目の飛び出しで決定機を生み出し、反撃の狼煙(のろし)を上げるかに思われた。しかし次第にフランクフルトの思惑の沼にハマっていき、誘導されるがまま外循環のパス回しになっていくバルサ。それでも、大外には質的優位で殴れるウイング(WG)がいるので悪いことではないと判断して、サイドから攻撃を仕掛けていった。

 バルサの左サイドのアタックは、3人のトライアングル旋回からゴールに向かう侵入スペースを創出して3人の誰かが入り込むのだが、この日のフランクフルトはマークをしっかり噛み合わせつつ、その侵入スペースに初めから1人を配置して封鎖。3対4の数的不利な状況で人もスペースも管理され、思惑通りに事を進められなかった。

 左サイドからの崩しが無理なら、バックパスでやり直して右サイドから攻め込むのだが、こちらも思惑通りにはいかなかった。右サイドのアタックは、WGのアイソレーション。無双と化したウスマン・デンベレがサイドの2レーン内で両足を自在に操り、縦突破とカットインをチラつかせながら相手を惑わせる。最近ではインテリオールが大外に流れて内側に創出するスペース、往年メッシがカットインを仕掛けていた“メッシ・ライン”を浮かび上がらせ、デンベレがそのラインに乗って斜めに相手を引きつけるドリブルで侵入するコンビネーションもやるようになってきた。フランクフルト戦でもそのカットインも仕掛け、ペドリと協力しながら右サイドを攻略しようとしていたが、ことごとく跳ね返され、デンベレはドリブルで相手をぶち抜けない。

 フランクフルトは、デンベレに対して1対2ではなく、鎌田もプレスバックさせて1対3で対応。それにペドリも左CBに監視されて右サイドは2対4の数的不利な戦況と化し、スペースを狭められ、選択肢が削れた。この日の右SBはミンゲサだったが、CBから送られるボールを丁寧にデンベレへと繋いではいたものの、それだけの選手であった。左サイドのジョルディ・アルバのように、的確な角度とスピードでWGをサポートするわけでもなく、ただただデンベレの背後にとどまり、無難なパスを送るだけのカウンター阻止要員であったことが、右サイドの仕掛けとして致命的であった。

 そして36分、パスを回すだけのミンゲサからデンベレへと渡るが、前方を塞がれたのでバックパスで戻し、ミンゲサがボールに背中を向けてキープしたところで相手のスイッチが入り、ボール奪取の強襲を受ける。その後ブスケッツがサポートに入ったものの、局地戦で3対5の数的不利な状況でボールを奪われると、ボレにそのままボールを前進させられ、見事なロングシュートでリードを広げられてしまう。

 フランクフルトの“いつ”“どんな時”ボール周辺に密度を圧縮して奪い切るかという設計の緻密さ。バルサの中途半端なボールスピードは選手の切れ味で上回られ、そして最大限警戒していたはずのカウンターをモロに受けてしまう。いったい何のためのカウンター阻止要員で、そこから突破されたら意味ないやん!の憤慨が響く。気づけばフランクフルトの罠にハマり、手のひらの上で踊らされる展開で前半を終えてしまった。

白いまだら模様のカンプノウで

……

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UEFAヨーロッパリーグバルセロナフランクフルト鎌田大地

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ぶんた

戦後プリズン・ブレイクから、男たちの抗争に疲れ果て、トラック野郎に転身。デコトラ一番星で、日本を飛び出しバルセロナへ爆走。現地で出会ったフットボールクラブに一目惚れ。現在はフットボーラー・ヘアースタイル研究のマイスターの称号を得て、リキプッチに似合うリーゼントスタイルを思案中。座右の銘は「追うもんの方が、追われるもんより強いんじゃ!」

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