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クライフの“絵”を、師以上の鮮やかさで着色。サッカーの進化を牽引する“名手にして名将”グアルディオラ

2022.03.31

この記事は『プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド』の提供でお届けします。

前回プレイバックしたヨハン・クライフの描いたサッカーを選手として体現し、さらに監督としてはまさに今、戦術のメインストリームを成しているポジショナルプレーという形で“師”の時代を超えるクオリティで実現しているジョセップ・グアルディオラ。選手と監督それぞれで見せた才に加え、ユルゲン・クロップやユリアン・ナーゲルスマン、トーマス・トゥヘルらの台頭により「名手、名将にあらず」という言葉の重みが増す印象がある中、今後も彼のような“名手にして名将”は現れ得るのかというテーマについて考えてみた。

クワトロ

 グアルディオラがバルセロナで「クワトロ」を確立した。

 ヨハン・クライフ監督の[3-4-3]システムで最重要ポジションとされていたのが背番号4だ。中盤の底に位置するこのポジションに従来求められていた資質はフィジカルの強さと守備力だったが、クライフ監督はまったく反対である技術とインテリジェンスに優れた選手を起用した。

 クワトロはセンターサークルにいて、その周囲を3バックと3人のMFが取り囲む。周囲からパスが集まり、周囲に散らしていく攻撃のハブとなる役割を担っていた。守るためではなく攻めるためのポジションとしての4番なのだ。最初は攻撃的MFだったルイス・ミジャが起用され、ロナルド・クーマン、ギジェルモ・アモールなどパスをさばける選手たちがプレーしたが、決定版となったのが“ペップ”・グアルディオラである。

 バルセロナBから昇格したペップは細身で軽量。タフで屈強な守備的MFという従来のイメージとはまさに正反対のタイプだったが、1タッチ、2タッチでパスワークの軸になれる、クライフ監督にとって理想的なクワトロだった。そしてここから、リーグ4連覇のドリームチームの時代に突入していく。

 クワトロを確立して以降しばらくの間、ペップの背番号は実は4番ではなく3番が多い。当時は現在のような固定番号制ではなく、ポジション番号で試合ごとに1~11番を先発メンバーがつけていた。バルセロナのポジション番号はオランダ方式だったので[4-3-3]のCBが1つポジションを上げた形で中盤の底は4番であり、クライフも「クワトロ」とこのポジションを呼んでいたのだが、実際に4番をつけていたのはクーマンだ。シーズン当初はクーマンがクワトロを務める予定だったのでそうなったと推察されるが、ペップとクーマンの背番号が逆になっている理由はよくわからない。ちなみに、4番が中盤に上がってトコロテン方式で前に出たトップ下の番号は、このポジションには珍しい6番である。

 クワトロはピボーテとも呼ばれる。英語ならピボット(回転軸)。まるでパチンコの風車のように、ペップは味方から集められるボールをあらゆる角度に散らした。360度を把握する能力、無駄のない完璧なボールコントロール、シンキングスピードの速さは格別。ただ、考える速さについてはペップの後輩であるチャビが「考えるのではなく思い出す」と言っているように、実際には考えてはいない。考えるのでは遅過ぎるのだ。考えているという自覚がないぐらい瞬時に回答を出す。ペップはその演算能力と記憶の埋蔵量で比類のないプレーヤーだった。

6度のリーガ制覇、1991-92のチャンピオンズカップ(現CL)など選手としてバルセロナで掲げたタイトルは15。2001年に退団した後、イタリアで3季、カタールで2季、メキシコで1季プレーし2006年に引退した

ラファエロの弟子

 クライフが礎を築いたプレースタイルと思想は、それ以降バルセロナに脈々と受け継がれて現在に至っている。ただし、クライフイズムが一貫して表現されてきたわけではなく、それぞれの時代や率いる監督によって濃淡があった。

 クライフの直後に監督となったボビー・ロブソンは、単騎で得点できてしまうロナウドがいたためにバルサ流の精緻なパスワークをあまり必要としていなかった。ルイス・ファン・ハールはクライフと同じアヤックスの監督だったオランダ人ということもあり、プレースタイルに関してはクライフとよく似た考えだったが、それでも随所にクライフとは水と油といっていいくらいの見解の相違があった。クライフ監督の右腕だったカルレス・レシャックでさえまったく同じというわけではなく、人は十人十色なので監督によってチームカラーが違ってくるのはむしろ当たり前の現象と言える。

 しかし、バルサの歴史でクライフのクローンのような監督が2人いる。グアルディラとシャビ・エルナンデスだ。

 3人の性格はそれぞれとしても、フットボールをどうプレーすべきかという根っこのところの信念と、それを具体化する方法論が驚くほど似ている。現役時代のクライフが「間違える方が難しい」と言っていたように、判断力や演算能力が抜群という共通点がある3人であり、息を吐くように正解を叩き出してきた3人である。

 一子相伝の3人の中間であるグアルディオラはクライフ以後で最高の戦績を残したばかりか、ドリームチームの時代でも実現できなかったチームを作り上げた。ペップは自らを「ラファエロの弟子」に喩えている。ルネサンスの巨匠ラファエロ・サンツは数々の作品を残しているが、多くは工房の弟子たちが仕上げたものと言われている。デッサンはクライフが描いた。ただ、当時は外国籍選手の出場が3人までと規定されていたこともあり、例えばロマーリオとストチコフを起用したらクーマンかミカエル・ラウドルップは外さなければならなかった。天才リオネル・メッシを得た僥倖もあり、ペップのチームはクライフのデッサンに鮮やかな彩色を施し、構想だけで実現していなかったフットボールを現実のものとしている。ペップがいなければ、クライフの評価がここまで高まることもなかったかもしれない。

2010-11のCLを制し胴上げされるグアルディオラ。掲げたタイトルの数々はもちろんのこと、現代サッカーの主流戦術の一つとなっているポジショナルプレーを確立しその進化を先導し続けている功績はサッカー史に燦然と輝くものだ

名選手は名監督になれるか

 名選手は名監督になれないとよく言われる。名選手の多くが監督になるが、印象としては失敗例の方が多い。

 プロ選手としての経験がないことを問われたミランのアリーゴ・サッキ監督は、「騎手の前世が馬である必要はない」と答えている。名選手と名監督の関連性については、この解答がほぼすべてだろう。

 同じフットボールの世界に生きていても、選手と監督はまったく別なのだ。選手としての才能と、監督としての才能は違っている。名選手で名監督になった人は、たまたま両方持っていたと考えた方がいい。選手として無名でも監督として成功する人は当然いる。また、名選手だったから必ず監督として失敗するとも限らない。両者に関連性はなく、切り離して考えるべきなのだ。

 ただし例外もある。バルセロナの監督がそうだ。

 クライフはバルセロナに莫大な遺産を遺した。ただし、それを正しく運用できる監督でなければ遺産を食いつぶしていく。一般的に優秀な監督というだけでは十分でなく、バルサスタイルの運用に長けていることが必須の条件となる。例えば、クライフの現役時代に彼の師匠であるリヌス・ミケルス監督下でリーグ優勝した1974-75と、ドリームチーム4連覇の最初(1990-91)の間に1度だけ戴冠している。監督は英国人のテリー・ベナブレス。バルサは歴史的にイングランドとの関係もあり、この時のプレースタイルもイングランドの影響が強い。11年ぶりの快挙だったわけだが、この時のチームが話題にのぼることはほとんどなく、ほぼ忘れ去られた歴史になってしまっている。その後にクライフが確立したバルサスタイルの文脈から外れているからだ。

 つまり、バルサではバルサらしいフットボールをプレーしたうえで勝利しなければ評価されない。遺産は多少食いつぶして構わないが、放棄することは許されない。

 クライフが遺したバルサスタイルは、プレースタイルとしては理詰めなので、それが一般的な考え方と違っていたとしても真似はできる。レシピは残っている。ただ、完コピするならセンスが不可欠になる。今のところ、そのセンスを持っていたのはかつての名選手に限られている(フランク・ライカールト、グアルディオラ、シャビ)。クライフはマルコ・ファン・バステンをバルサの監督にしたがっていた。ライカールトより優先だったようだ。ファン・バステンはアヤックスやオランダ代表の監督を務めたが、名選手が名監督にならなかった例に数えられる。ただ、もしかしたらバルサの監督としては成功したのかもしれない。

 バルサの監督には、一般的な監督としての能力だけでなくバルサの監督としての能力が問われている。クライフ、グアルディオラ、シャビと受け継がれてきた系譜を継ぐのはアンドレス・イニエスタかもしれないし、メッシかもしれない。およそ監督のイメージのない2人だが、レアル・マドリーでCL3連覇を遂げたジネディーヌ・ジダンもそうだった。いずれにしても、クライフの遺産を正しく運用できるという特殊な能力が問われることになる。

2021年12月、セルヒオ・アグエロ引退会見で再開を果たしたグアルディオラとシャビ。プロ選手として実績のない監督たちの台頭が目覚ましい中、クライフイズムの継承者として名選手にして名将の歴史を紡いでいくのか注目される

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現役時代にはピッチ全体を見渡して数ある選択肢の中から“最高”を選ぶインテリジェンスとそれを実行に移すスキルでクライフサッカーの申し子となり、監督としても時代に合わせて昇華させたクライフイズムを表現し、結果はもちろん現代サッカーを大きく前進させているジョセップ・グアルディオラが、大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)に登場!

そのグアルディオラをはじめ、驚異的な展開力で攻撃をオーガナイズした司令塔シャビ・アロンソ、サイドでも中央でも活躍した万能選手のガイスカ・メンディエタらスペイン代表のレジェンドが、新★5選手として登場する“SUPER STAR FES LEGENDS”が開催中だ。

すでにゲームをプレイ中の方はもちろん、「サカつく」未経験の方もこの機会にぜひ、ゲームにトライしてみてほしい!

<商品情報>

商品名 :プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド
ジャンル:スポーツ育成シミュレーションゲーム
配信機種:iOS / Android
価 格 :基本無料(一部アイテム課金あり)
メーカー:セガゲームス

さらに詳しい情報を知りたい方は公式HPへアクセス!
http://sakatsuku-rtw.sega.com/

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Photos: Getty Images

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Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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