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GKがなぜ、DFラインに入るのか?サガン鳥栖に見る、ビルドアップの「数の優位」

2022.03.03

最近、ビルドアップ時にGKがペナルティエリアから大きく飛び出してDFラインの一員のように振る舞う「GKのCB化」が、国内外のサッカーでしばしば見られるようになった。今季のJリーグでも、サガン鳥栖や横浜F・マリノスが採用している。そこで今回は、サガン鳥栖を例に、西部謙司氏に「GKがDFラインに入るビルドアップ」がなぜ流行っているのか? そのメリットやデメリットを解説してもらった。

 サガン鳥栖のGK朴一圭の足技は定評があり、GKを組み込んでのビルドアップは鳥栖の特徴の1つだった。今季はさらに踏み込み、朴はDFラインと並ぶ位置でパスを捌くようになっている。鳥栖の基本フォーメーションは[3-4-2-1]だが、ビルドアップ時はGKを含めて[4-4-3]になっている。GKがDFラインに入っているので、フィールドプレーヤーが通常より1人多いのだ。

「ボールの避難所」から「11人目のフィールドプレーヤー」へ

 自陣からのビルドアップにあたってGKはキープレーヤーである。GKが加わることで自陣での数的優位を確保できるからだ。

 例えば、3人のFWが敵陣にいると、守備側は4人で対する。そうすると自陣は攻撃側のフィールドプレーヤー7人、守備側6人と1人の数的優位が発生する。しかし、守備側がFWを3対3の同数で守るなら、1人を相手陣内へ送り込むことで攻撃側の数的優位はなくなる。ただし、攻撃側のGKが加われば1人の数的優位は動かない。守備側のGKが相手FWをマークすることはないので、ビルドアップでのGKの参加は決定的に重要になるわけだ。

 ただ、従来のGKは「ボールの避難所」にすぎなかった。

 ビルドアップが行き詰まった時にフリーになっているGKにボールを下げ、そこから組み立て直す。GKに相手が寄せて行けば、フィールドプレーヤーは1人余る。そこを経由させればビルドアップできる。ただし、理屈はそうなのだがそんなに簡単ではない。

 守備側のハイプレスは1人の数的不利までが限度と書いたが、実際にはそんなに単純でもない。多くのチームが用いているハイプレスはDFを1人余らせ、さらにMFも1人余らせた形で行っている。どういうことかというと、攻撃側のサイドに張る選手にマークをつけていない。攻撃側の選手2人をマークしないことで、CBの1人とMF中央の1人を余らせるのだ。攻撃側はGKとサイド(主に両SB)の2人、計3人がマークされていない。当然、GKが保持した時の選択肢はサイドへのパスになる。そして、これこそが守備側の狙いだ。

 サイドへのパスは距離があるので浮き球になる。滞空時間も長い。そこで守備側のSB(ウイングバック)はボールが到達する間に一気に距離を詰める。SBがマークを離したFWは余っているCBが受け取る。セカンドボールに対してはすでに相手をマークしていて、MFも1人余っている。つまり、サイドへ蹴らせて奪うという形ができる。このハイプレスのメカニズムがデフォルト化したため、ビルドアップのGKを含めた2人の数的優位はそれほど有利ではなくなっているのが現状である。

 鳥栖のGKのフィールドプレーヤー化は、そうした現状を打破する新手だ。GKがCBとして振る舞うことで、完全な数的優位を手中にする試みである。

『Jリーグ公式チャンネル』でも昨季、「フィールドプレーヤーのよう」と取り上げられていた朴一圭のポジショニング

「GKのCB化」によるメリット

 「GKのCB化」の初動は従来通りの「ボールの避難所」だ。鳥栖の3バックは散開し、GK朴が中央に上がってフリーでパスを受ける。そこからの振る舞いはCBと同じだ。時折、流れの中でハーフウェイライン付近まで上がることもあるが、ほとんどは自陣の半分までにとどまっている。基本的には「避難所」なのだが、GKがフィールドプレーヤー化することで数的優位は確実になり、従来よりも高い位置でそれが実現する。

 J1第2節の湘南ベルマーレ戦を例にメリットを説明しよう。……

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サガン鳥栖戦術朴一圭

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。

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