SPECIAL

“5m下がるチーム”から“5m上がるチーム”へ。名門フェイエノールトのモデルチェンジ

2022.02.28

CLの舞台で躍動するアヤックスに脚光が当たっているが、今季のオランダリーグを語る際に外せないのが彼らのライバルであるフェイエノールトの復活だ。劇的優勝を飾った2016-17以降は1度も2位以上がなく昨季に至っては5位に沈んだが、今季は進化した戦いぶりと安定した戦績で3位につけている。名門復活の理由に迫る。

 「フェイエノールトの王様」として君臨したスティーブン・ベルフハウスのアヤックス移籍は、宿命のライバルへの『禁断の移籍』としてスキャンダルになったばかりでなく、フェイエノールトに大きな戦力低下というダメージを残した。2020-21シーズンを5位で終えたフェイエノールトの総得点は64。そのうち32ゴール(18ゴール14アシスト)にベルフハウスが直接絡んでいたのだ。その前のお膳立てを含めると、さらにベルフハウスの貢献度は高かった。今のフェイエノールトには彼と同等の戦力を獲得する資金力はなく、今季の苦戦は必至と目されていた。

 ところが今、フェイエノールトは昨季より遥かに充実したシーズンを過ごしている。リーグ戦24節を終えたところで勝ち点51の3位。昨季は同時点で勝ち点43の5位だった。しかも、ゴール数56は昨季より10も多く、ベルフハウス不在がまったく感じられないのである。

 それほど目立つ戦力補強があったわけではないが、それでも今季の開幕直後から「今季のフェイエノールトは一味違うぞ」という高評価が沸き起こった。同時に、オランダではアルネ・スロット監督の手腕を称える声も高まっていた。

「すでにトップコーチ」

 スロットはコロナで途中打ち切りになった2019-20シーズンのAZを、首位アヤックスと同勝ち点の2位という好成績に導いた指導者だ。マイロン・ボアドゥ(現モナコ)、ケルビン・ステングス(現ニース)、トゥーン・コープマイナース(現アタランタ)、オーウェン・ワインダルらユースで育たったタレントたちの能力と特性を最大限に発揮し、リーグ戦のみならずマンチェスター・ユナイテッド、ナポリらと組んだELでも果敢に挑んで好勝負を演じていた。

 スロットはカンブール→AZ→フェイエノールトと指導するクラブの規模、注目度、ポテンシャルを順調に上げており、指導者として理想的なステップを踏んでいる。現役時代NACのMFとして活躍していた時の指揮官ヘンク・テン・カーテは専門誌『フットボール・インターナショナル』に、「アルネはすでにトップコーチ」というコメントを寄せている。

 「私は常に、監督の手腕がどのようにチームのプレーに表れているかを見ている。エリック・テン・ハーフ(アヤックス)、デニー・バイス(フローニンゲン)、そしてアルネはその点でうまくいっている」(テン・カーテ)

 フェイエノールトの指揮官としてスロットが披露している“手腕”とはなんだろうか。第1に挙げられるのは、ボールを失ったら即座回収を目指すプレッシングフットボールの定着だ。『フットボール・インターナショナル』誌のピーター・ズワルト記者は、「フェイエノールトはボールを失った局面で“5m下がるチーム”から“5m上がるチーム”に変わった」とポッドキャストで語っている。

チームを復活へと導いたスロット監督。現役時代はズウォレ、NAC、スパルタ・ロッテルダムでプレーし2013年に引退。指導者としてはズウォレのユースコーチ、カンブールのアシスタントコーチとステップアップした後、AZでアシスタントコーチを経て監督に昇格するや否や結果を残し今季からフェイエノールトを率いている

 昨季までフェイエノールトを率いたディック・アドフォカートは、「今のフェイエノールトの戦力では、ボールを失ったらいったん後退してブロックを敷き、コンパクトに守った方が良い」と分析してチームを作っていた。しかし、仮にもフェイエノールトはアヤックス、PSVとともに『トラディショナル・トップ3(オランダの伝統的なトップ3クラブ)』を構成するビッグクラブだ。今や中小クラブですら果敢にプレッシングフットボールを試みるところがあるのに、なぜフェイエノールトのようなクラブがそんな消極的なサッカーをするのか――というジレンマがチーム内にはあった。

 そして、そのことはベルフハウスのアヤックス移籍の要因の一つにもなっている。

チームの代弁だった前主将の不満

……

残り:4,204文字/全文:5,995文字 この記事の続きは
footballista MEMBERSHIP
に会員登録すると
お読みいただけます

TAG

アルネ・スロットフェイエノールト

Profile

中田 徹

メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。

関連記事

RANKING

関連記事