SPECIAL

キーワードは「継続」。下平トリニータは「ボールを大事にする」サッカーを貫く

2022.02.15

在任6シーズンにわたった片野坂監督が退任し、1つのサイクルが終わった大分トリニータ。その後を受け継いだのは、下平隆宏監督だ。旧知の間柄である前任者と同じくビルドアップに強いこだわりを持つ新指揮官は、大分が積み上げてきたものを「継続」して“魔境”J2に挑む。ひぐらしひなつ氏に新チームの最新事情をレポートしてもらった。

 大分トリニータは今季、1年でのJ1復帰を目標に掲げ、4シーズンぶりのJ2リーグに挑む。

 昨季は主力の流出による組織の再建に手間取り、その影響が最後まで尾を引いてJ1残留を果たすことができずに、クラブが目指してきたJ1定着も仕切り直しとなった。が、昨年12月の大分の戦いぶりは、チームとしての可能性を濃く印象づけたのではないかと思う。

 J2降格決定後のリーグ戦を2連勝フィニッシュ。特に最終節のアウェイ柏戦では、チームが培ってきた攻撃的スタイルを存分に体現し、そのストロングポイントとウィークポイントの両方をあぶり出されながら3-2で快勝した。

 それから1週間後の天皇杯準々決勝・川崎フロンターレ戦で周到に準備した相手封じと守護神・高木駿のスーパーセーブ連発で粘り、PK戦を制して勝ち上がる。続いて強豪・浦和と対峙したファイナルステージでは、相手に押されながらも見事な修正で形勢を盛り返した。試合終盤に両ゴールネットが揺れる劇的な展開の末に敗れはしたが、夏に獲得した新戦力4人が大会規定により出場できない中で披露した組織力は、サッカーという競技の醍醐味を感じさせて非常に魅力的だった。

2021シーズンの天皇杯準決勝、川崎戦のハイライト動画

 そんなチームを6年間率い、J3からJ1にまで引き上げながら大分にポゼッションスタイルを浸透させた智将・片野坂知宏が昨季限りで退任。カテゴリーが落ちることもあり、戦力が流出してまた土台からの築き直しを迫られるのかと懸念されたが、どうやらそれは杞憂に終わったようだ。

バトンを受けたのは前指揮官と旧知の下平監督

 天皇杯準決勝の翌日である12月13日、昨季チーム得点ランク首位の町田也真人が先陣を切って契約更新を発表。さらに17日にはキャプテンで守護神の高木駿、その翌日には不動のゲームメイカー・下田北斗がそれに続いた。仲間からも信頼の厚い主力たちの立て続けの“残留表明”は天皇杯決勝への弾みをつけ、またそこで好ゲームを展開できたことが、徐々に「もう一度来季、このチームで一緒に戦おう」という気運を高めていった。

 最終的に昨季のメンバーから28名の選手が契約を更新。そこに7名の新戦力を加えて今季の編成は一段落した。昨季加入した戦力が、2名の外国籍選手を除いていずれも完全移籍かつ複数年契約での獲得だったこともあるかもしれないが、これにより選手間の相互理解はある程度担保できる状態で新シーズンに臨めることは、大きなアドバンテージと言えるだろう。J1での戦いを経験し、直近の公式戦で日本サッカーの頂上決戦に挑んだ選手たちが口にする「J1復帰」という言葉には、迫真の現実味が感じられる。

 その選手たちを今季から率いるのが、下平隆宏監督だ。ここ数年、大分では監督未経験者を招聘し新人指揮官とともに成長するスタンスでいたが、今回は柏と横浜FCで監督としての実績があり、横浜FCではJ1昇格も果たしている経験者にチームを委ねた。

 片野坂前監督と細部では異なるものの、最後尾からビルドアップする攻撃指数の高いポゼッション志向は共通している。就任が正式に発表されたのは昨季の全日程終了後、前任者の退任発表と同日の12月23日だったが、それ以前から内定はしており、明確なスタイルを持つ新指揮官の招聘が、選手たちの契約更新を後押ししたであろうことも、想像に難くない。

 加えて下平監督は、片野坂前監督と旧知の仲。高校選手権で青森県代表・五戸高校と鹿児島県代表・鹿児島実業高校の両キャプテンとして対戦して以来、プロとなってからは柏でチームメイトだった時期もありながら、ともにサッカー界で生きてきた。2019年には大分の片野坂がJ1優秀監督、横浜FCの下平がJ2優秀監督として並んで表彰されるなど、互いの活躍を刺激としてきたようでもあり、昨季J1第2節の対戦ではロジカルな組織的サッカー対決で見る者を楽しませた。

 そういう関係性もあり、就任にあたって下平監督は片野坂前監督から密に情報を得たという。「戦術的な話はそれほど深くかわしたことがない」とのことだが、人間性を含めた選手の特徴やクラブについて、また大分での単身赴任生活についてなど、内容は多岐に及んだ。加えてクラブ側も、昨季J1で苦戦した経験を踏まえて新体制での編成に修正を施しており、そういった意味でも継続性を保ったスタートとなった。

2022シーズン指導日となった1月17日のダイジェスト動画は、『大分トリニータ公式チャンネル』で視聴できる

ジレンマを乗り越えて、今度こそ「貫く」

……

残り:2,958文字/全文:4,994文字
この記事は会員のみお読みいただけます

会員登録はこちら

プレミア会員 3つの特典

雑誌最新号が届く

電子版雑誌が読み放題

会員限定記事が読める

「footballista」最新号

フットボリスタ 2022年9月号 Issue092

11、12月開催のW杯を控えた異例のシーズン。カタールをめぐる戦いの始まり【特集】ワールドカップイヤーの60人の要注意人物 【特集Ⅱ】ワールドカップから学ぶサッカーと社会

10日間無料キャンペーン実施中

TAG

下平隆宏大分トリニータ戦術文化片野坂知宏

Profile

ひぐらしひなつ

大分県中津市生まれの大分を拠点とするサッカーライター。大分トリニータ公式コンテンツ「トリテン」などに執筆、エルゴラッソ大分担当。著書『大分から世界へ 大分トリニータユースの挑戦』『サッカーで一番大切な「あたりまえ」のこと』『監督の異常な愛情-または私は如何にしてこの稼業を・愛する・ようになったか』『救世主監督 片野坂知宏』『カタノサッカー・クロニクル』。note:https://note.com/windegg