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クラブ売買に忍び寄る悪徳ブローカー。クリストファー・サミュエルソンのケーススタディ

2021.12.31

プレミアリーグやチャンピオンシップに海外資本の参入が相次ぐ中、新たなビジネスが登場している。クラブの売却先を探すオーナーと、その購入を目論む外国人資産家の間に立ち、売買契約を成立させる仲介業だ。手厚くサポートしてくれる優良業者も存在する一方、暗躍が目立つのが法の抜け穴をくぐって身元不明の取引先を紹介する悪徳ブローカー。そのケーススタディとして、アストンビラやレディングの買収を手がけてきたクリストファー・サミュエルソンを紹介する。

※『フットボリスタ第87号』より掲載。

 あなたが大金持ちだと想像してほしい。IT 新興企業の社長、アラブ王族の生まれ、もしくは石油で一山当てた… …理由は何でもいいが、とにかくあなたは一生の間には使い切れない資産を銀行に預けている。そんな時、ある筋から「君はプレミアリーグのあるクラブのオーナーになれる」なんて話が転がり込んできたとすれば、どう思うだろう。

 「プレミアリーグってあのプレミアリーグ? イングランドの?」などと現実感が失われてしまっているかもしれないので念のため補足しておくと、あなたの想像通り──地球上のありとあらゆる場所で毎週末放送されている、あのプレミアリーグだ。

 もしかしたら「これって夢?」と頬をつねる者もいるかもしれない。または、なにか大きな詐欺事件に巻き込まれているのか? と疑う者も。しかし声をかけてきた関係者は「これまで何度もプレミアリーグのクラブ売買を成功させてきた実績を持っている」と言う。そんな人物があなたに人生で一度あるかどうかのチャンスを持ち込んできた。とすれば、この話は検討に値するだろうか? そしてもう一度おさらいだが、あなたには巨額の富がある。

 近年プレミアリーグおよびイングリッシュ・フットボールリーグ(EFL)のクラブへの外国資本流入が増加しているのはすでにご存知の通りだろうが、最新のUEFA クラブベンチマークレポートによるとプレミアリーグ全体の40%は非英国人によって過半数が所有されており、さらに35%は利害関係者として外国人投資家との関わりを持っている。

 その最もわかりやすい例がマンチェスター・シティのオーナーとなったシェイク・マンスールだろう。彼がシティに関わりを持って以来クラブは急激な成長を遂げた。特に2015年以降は年平均27%で収益を伸ばしており、米誌『フォーブス』の2021年度版フットボールクラブ資産価値ランキングによれば、地球上で6番目、プレミアリーグでは3番目にランクインしている。

マンチェスター・シティのオーナーを務めるシェイク・マンスールはアブダビ王族の一人。その資産総額は170億ポンド(約2兆6441億円)に上ると報じられている(写真は2014年)

ニューカッスル買収を一時阻んだ「ODT」とは?

 「ビジネス目的ならわざわざプレミアリーグのオーナーになる必要はない」と思う者もいるかもしれない。だが、その魅力は金銭上の利益だけではない。あなたが興味を持つかもしれない2 つの価値について話をしよう。

 第一にフットボールクラブは他に類を見ないユニークな資産であり、全世界で多くの耳目を集めている。よってオーナーのPR 活動やブランド構築に最も適した媒体の一つであると言える。あなたが世界的には無名だったとしても、クラブを所有しているというだけで多くのスポットライトを浴びる機会を得ることができる。スタジアムにネーミングライツを冠してもいいかもしれない。その場合、世界中で報道されるニュース内であなたの企業名が読み上げられるだろう。

 第二に、近年フットボール業界ではヨーロッパのクラブ買収を通じて中国/アラブ資本の投資が大幅に増加している。クラブ買収というソフトパワーを使うことであなたの所属している国家・地域の政治的地位、もしくはビジネス上の地位を向上させることができる。

 もちろんマンチェスター・シティが実証して見せたように、フットボールクラブを利用してあなたのビジネスをさらに加速させることも可能だ。特に近年プレミアリーグでのメディア権利収入が急増しており、クラブ運営に関わることで商業的成長の恩恵を受けることができるだろう。潜在的にプレミアリーグへの昇格の可能性のあるチャンピオンシップ(英2部)以下のEFL 所属クラブは、より少額で多くのリターンを得る可能性のある投機的チャンスと言える。

 もしもあなたが前向きに検討する場合、次に訪れるのはオーナーとなるための「オーナーズ&ディレクターズテスト」( ODT )だ。これはクラブ関係者になるための要件を定義したもので、対象は取締役から30%以上の株式を取得した人物、クラブ秘書、CEO(最高経営責任者)、COO( 最高執行責任者)、GM(ゼネラルマネージャー)、シャドーディレクター(肩書きに関係なくクラブを管理する人間)と幅広い。プレミアリーグ、EFL、FA(イングランドサッカー協会)でそれぞれのルールがあり、イングランド内で包括的なものは存在していないが、その趣旨はクラブ運営に適切な人物かどうかを判断するという点で共通だ。一例としてFA が定めたODT の主要な失格条件について紹介しておこう。

●別の所属クラブの5%以上の所有権を持っている
●1986年会社取締役失格法(CDDA1986)に基づく失格
●刑事上の有罪判決により12カ月以上の懲役が科せられたことがある
●不正行為に対する有罪判決
●サッカー関連の犯罪に対する有罪判決
●破産または倒産手続きを行っている

 ここで大きな争点になるのは「有罪判決」の部分だ。プレミアリーグ/ EFL が設けるODT 基準では法廷で下った判決の他、必ずしも犯罪ではない「行為」を検討する義務を課している点で、FA版ODTよりも厳格なものとなっている。イングランドとウェールズで違法であるかを判断し最終的な判断を下される仕組みだ。2020年4月頃から報道され、2021年10月にようやく完了したニューカッスル買収で問題となったのがここで、買収先のサウジアラビア資本が人権侵害や犯罪関与といった過去の行為により疑義を呈されてプロセスが一時停止していた。……

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アストンビラクリストファー・サミュエルソンレディング経営

Profile

Yuki Ohto Puro

サミ・ヒーピアさんを偏愛する一人のフットボールラバー。好きなものは他人の財布で食べる焼肉。週末は主にマージーサイドの赤い方を応援しているが、時折日立台にも出没する。将来の夢はNHK「映像の世紀」シリーズへの出演。