SPECIAL

いわきFC、J3昇格への道。「フィジカル革命」のその先へ

2021.11.09

2012年にクラブ創設、2015年にドーム社が運営権を手に入れ、Jクラブで豊富な実績を持つ大倉智氏が舵取りを担うようになったいわきFC。それから6年経った2021シーズン、ついにJFL参入2年目でJ3昇格条件のJFL4位以内、百年構想クラブの上位2位以内を確定させた。「フィジカル革命」と呼ばれた斬新な取り組みで注目された彼らの「今」を宇都宮徹壱氏にレポートしてもらおう。

 川崎フロンターレがJ1優勝を決めた11月3日、日本サッカー界ではもうひとつホットなトピックスがあった。ただしJリーグではなく、実質4部のJFLでの話題。この日、いわきFCがJ3昇格の条件である「JFL4位以内」「百年構想クラブの上位2位以内」を確定させた。これで来季、我々は「JクラブとしてのいわきFC」を目にすることだろう。

2017年からアップデートされていないイメージ

 多くのサッカーファンは、いわきFCと聞いて2017年天皇杯でのジャイアントキリングを、まず思い出すはずだ。相手はJ1の北海道コンサドーレ札幌。対するいわきFCはこの年、カテゴリーが6つ下の福島県リーグ1部で戦っていた。

 カップ戦のジャイアントキリングといえば「守って守ってカウンター」というケースが多いが、この時のいわきFCは違った。2-2で延長に入ってから、彼らの真骨頂であるフィジカルと走力がJ1クラブを上回り、終わってみれば5-2で勝利していた。

2017シーズンの天皇杯2回戦、北海道コンサドーレ札幌戦のハイライト動画

 その後、全国ニュースで取り上げられるようなトピックもないまま、4年の月日が流れた。その間、いわきFCは粛々とカテゴリーを上げていく。2018年には東北リーグ2部、19年には同1部。そしてこの年、地域CL(全国地域サッカーチャンピオンズリーグ)に初出場で優勝。1次ラウンドで3日間連続、決勝ラウンドで1日おきに3試合という過酷なレギュレーションをものともせず、自らの力で全国リーグへの扉を開いた。

 コロナ禍で試合数が半分となった、昨シーズンのJFLは最終節まで昇格の可能性を残しながら、結局7位でフィニッシュ。もしも通常のレギュレーションであれば、JFLも1年で突破できていたかもしれない。いずれにせよ、県リーグから5年でJリーグに到達というスピードは尋常ではない。

 そんないわきFCだが、SNSなどを見ていると、思わず訂正を求めたくなるようなイメージが流布されていることに気付かされる。

 端的な例を挙げると、まず「いわきFCはJリーグを目指してクラブを立ち上げた」。それから「アンダーアーマーがバックについている」というのも、今では少し状況が異なっている。また「ボールを使わず筋力トレーニングばかりしている」についても、実は多少の紆余曲折があったことに留意すべきであろう。

 おそらく、天皇杯でセンセーションを巻き起こした2017年の情報がアップデートされないまま、J3内定が決まったことが原因だろう。そんなわけで、県2部時代の2016年から節目節目でウォッチしてきた立場から、いわきFCというクラブの履歴と現状について語っていくことにしたい。

「別にJリーグを目指さなくてもいい」の背景

 いわきFCを運営する、株式会社いわきスポーツクラブは、アンダーアーマーの日本総代理店である株式会社ドームの子会社である。ドームの安田秀一CEOといわきスポーツクラブの大倉智社長は、いずれも1969年生まれ。安田氏は法政大のアメフト部出身、大倉氏は早稲田のア式蹴球部出身である(安田氏によれば、大倉氏は「同世代のスター」)。大学も競技も異なるが、卒業旅行でアメリカに向かう飛行機で、ばったり会ったこともあるそうだ。

 その後、安田氏は大手商社に入社するも、4年で退社して1996年にドームを起業(当初はテーピングの輸入販売がメインだった)。2年後の98年には、アンダーアーマーとの契約を締結させる。

 一方の大倉氏は日立製作所に入社し、1994年からプロに転向して柏レイソル、ジュビロ磐田、ブランメル仙台などでプレー。バルセロナのヨハン・クライフ大学でスポーツマネジメントを学び、セレッソ大阪のチーム統括ディレクター、さらに湘南ベルマーレの強化部長、ゼネラルマネージャー、代表取締役社長を歴任した。

 順風満帆のようにも見える大倉氏のキャリア。しかし一方で、Jクラブの経営に疑問を抱くようになっていた。当時のインタビューから引用する。……

残り:2,130文字/全文:3,979文字
この記事は会員のみお読みいただけます

会員登録はこちら

プレミア会員 3つの特典

雑誌最新号が届く

会員限定記事が読める

会員限定動画が観られる

「footballista」最新号

フットボリスタ 2021年11月号 Issue087

【特集Ⅰ】 シティ・グループ、RBグループに続く新勢力が続々と…「派閥化」するフットボールの世界 /【特集Ⅱ】 All or Nothing ~アーセナル沼へようこそ~

10日間無料キャンペーン実施中

TAG

いわきFC戦術文化経営

Profile

宇都宮 徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。2010年『フットボールの犬』(東邦出版)で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、2017年『サッカーおくのほそ道』(カンゼン)でサッカー本大賞を受賞。16年より宇都宮徹壱ウェブマガジン(https://www.targma.jp/tetsumaga/)を配信中。