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tkq的『カルチョメルカート劇場』書評 ――他人の不幸は最高のエンターテインメント

2021.07.09

セリエAに興味があるかどうかは不明だが、tkqさんにぴったりの本だなという編集長の独断と偏見で、突然送りつけた『カルチョメルカート劇場』。あとで感想を聞いたら、「面白いですねw」という返信が。具体的な評価を聞くために、書評を依頼してみた。

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 みんなー!移籍の話好きかー!?俺は大好きだぞー!

 イタリアのカルチョ移籍市場を長年見てきた移籍専門記者ジャンルカ・ディ・マルツィオさんの著書『カルチョメルカート劇場』には、サッカーの様々な側面の中である意味最もエキサイティングな「移籍」についての裏話がこれでもかと書いてあります。

 移籍専門記者なんてそんなニッチな職業が成立しちゃうのが、イタリアにいかにサッカーが根づいているかという証左でもあり、面白いですよね。この本には、グアルディオラのバイエルン監督就任や古い方のロナウドのインテル移籍の顛末など、世界を仰天させた移籍の内幕が書かれています。それ自体はすごく面白いのですが、さらに興味深いのは「成立しなかった移籍」についても山ほど書かれていることでしょう。

 例えば、マルコ・ファン・バステンのフィオレンティーナ移籍。そして、レバンドフスキのジェノア移籍、さらにはメッシのチェルシー移籍。「マジかよ」「ヤバくね?」と偏差値が低い台詞が思わず出てしまう事例が次々と書かれていて、ページをめくる手が止まらず、一気読みしてしまいました。

11-12シーズンのCL準決勝第1レグ後、当時チェルシー主将のテリーとユニフォームを交換するメッシ。移籍が実現していれば、同じ青いシャツを身に纏って共演を果たしていたかもしれない

『プロ野球戦力外通告』と同じです

 でも、ほんと、みんな移籍の話が好きですよね。

 じゃあ、なんで移籍の裏話がこんなに好きかっていうと、やっぱり、人生がかかってるから、なんですよね。例えばフィーゴのパルマ移籍が成立してたら、フィーゴの人生は大幅に変わっていたわけですよ。カンプノウで豚の頭を投げつけられることもなかったかもしれません。また、ガットゥーゾのミラン以外への移籍が成立してたら、イタリア代表の2006年W杯制覇も実現しなかった可能性もあります。それくらい紙一重で人生が変わってしまう瞬間のリアルが見られるから、移籍市場は面白いんですよね。……

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カルチョメルカート劇場移籍

Profile

tkq

世界ロングボール学会(WLBS)日本支部正会員。Jリーグの始まりとともに自我が芽生え、カントナキックとファウラーの薬物吸引パフォーマンスに魅了されて海外サッカーも見るように。たぶん前世でものすごく悪いことをしたので(魔女を10人くらい教会に引き渡したとか)、応援しているチームがJ2に約10年間幽閉されています。一晩パブで飲み明かした酔っ払いが明け方にレシートの裏に書いた詩のような文章を生み出そうと日々努力中です。【note】https://note.mu/tkq

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