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欧州クラブ格差の元凶はチャンピオンズリーグ。元欧州リーグ協会事務局長が読み解く、スーパーリーグ構想誕生の背景

2021.06.28

ゲオルグ・パングル(元欧州リーグ協会事務局長インタビュー前編)

4月18日、バルセロナ、レアル・マドリー、アトレティコ・マドリー、ユベントス、インテル、ミラン、マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、マンチェスター・シティ、チェルシー、アーセナル、トッテナムという12のビッグクラブ合意の下、「欧州スーパーリーグ」創設が発表された。

しかしCLを主催するUEFA、さらにスペイン、イタリア、イングランドの各国リーグ協会を中心とした「残された側」が徹底抗戦。何より「創設クラブの降格がない」というクローズドな仕組みが、参加表明クラブを含むファン・サポーターから強烈な反発を受け、わずか2日でプレミアリーグのビッグ6が脱退を表明。アトレティコ・マドリー、インテル、ミランもこれに続き、事実上構想は潰えた。

フットボリスタ第85号』では今回の騒動で生まれた5つの論点から、欧州サッカーの未来の在り方を考えているが、その番外編として元欧州リーグ協会事務局長、ゲオルグ・パングル氏のインタビューを特別公開!前編では内部の実情を知る当事者が、欧州スーパーリーグ構想の影に隠れたCLの構造的な問題を指摘する。

上位12クラブによる市場独占

「欧州サッカー全体は年間330億ユーロの収入を生み出すまでに成長したが…」


――まずは日本の読者に向けて、欧州リーグ協会を紹介していただけますか?

 「欧州リーグ協会では、ヨーロッパ中のプロサッカーコンペティション主催者が抱えている共通課題の解決に向けて声を上げるために、各国のプロリーグが協力しています。まず誕生の経緯からお話しすると、オーストリア、ベルギー、デンマーク、イングランド、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、オランダ、ポルトガル、スコットランド、スペイン、スウェーデンの14カ国のプロリーグによって設立されました。2005年にロンドンで開催された会議で、私も創立メンバーの一人として署名を連ねています。当時は14年から19年にかけて、その事務局長として働くことになるなんて想像もできませんでしたけどね(笑)。そして年月が経つにつれて加盟リーグ・クラブが増えていき、その数は今や30カ国の37リーグ、1013クラブにまで上っています。欧州リーグ協会は加盟者の下で働く人々の利益を勝ち取るべく、欧州委員会の下で選手組合であるFIFPro、トップクラブを代表するECA(欧州クラブ協会)、そしてUEFAら利害関係者と同じ席について対話を重ねているというわけです」

――ECAとの違いは何でしょうか?

 「欧州リーグ協会は規模にかかわらず1013のクラブを代表しており、さらにまだプロリーグを設立できていない国の280クラブも参加しています。一方、ECAは55のUEFA加盟協会に在籍する234のビッグクラブのみを代表している組織です。そのうち議決権を持つのは98の加盟クラブで、あとは議決権を持たない136の準加盟クラブで構成されています。つまりECAでは欧州全クラブのうち、わずか10%弱の意見しか反映されておらず、ビッグクラブ以外の声が届かないのが現状です。だからこそ欧州リーグ協会は発言権が弱い何百もの中堅・中小クラブを代弁しつつ、俯瞰的な視点からスポーツ政策に影響を与え、特に彼らとビッグクラブの間にある経済格差を是正しようと取り組んでいるわけです。大きな目標としては、欧州サッカーの競争バランスを可能な限り整え、ファンにとってエキサイティングなコンペティションを開催することを掲げていますね」

――現在、欧州クラブの間で経済格差はどれくらい広がっているのでしょうか?……

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CLELESLUEFAゲオルグ・パングル経営

Profile

足立 真俊

1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista

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