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「柔軟なプレッシング」「配置の可変性」「3バックによるビルドアップ」「縦志向」…2020年の戦術トレンドを振り返る

2021.06.22

詳細な戦術分析でサッカー評論の新たな地平を開拓する新世代メディアの一つが本誌ではおなじみ、イタリアのスポーツ総合WEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』だ。今回は、2020年の興味深い戦術トレンドを解説した長文記事(2020年12月29日公開)をお届け。相手に応じたプレッシング、配置の可変性、3バックによるビルドアップ、縦への志向……そう、主役はナーゲルスマンのRBライプツィヒだ。

※『フットボリスタ第84号』より掲載。

 2019年11月2日、フランクフルトに5‒1で敗れたバイエルンは、翌日にニコ・コバチ監督を解任し、その助監督だったハンス・ディーター・フリックを後任に昇格させた。フリックは2000年から2005年まで、当時3部リーグに所属していたホッフェンハイムを率い、その後2014年までドイツ代表監督ヨアヒム・レーブのスタッフを務め、黄金時代の確立に大きな貢献を果たした人物だ。その時点では単なる「つなぎ人事」に過ぎないようにしか見えなかったが、バイエルンはフリックの下で戦ったブンデスリーガ24試合で21勝を挙げ、さらにCLでも圧倒的な強さを見せてビッグイアーを勝ち取った。

2020年、バイエルンにDFBポカール、ブンデスリーガ、CLの3冠をもたらしたフリック

 自らのサッカー哲学について問われたフリックは、シンプルかつ明快な言葉を使ってこう答えている。「ボールを持ちたい。持っていない時にはアクティブに奪回したい」――。「プロアクティブ」というコンセプトを格言的に示すには申し分のない、そしてバイエルンにとってはコバチの保守的なスタイルからの明確な転換を記す、簡潔極まりない表現である。バイエルンは、プロアクティブで攻撃的なサッカー観を体現することを通して、現在のサッカーが向かっている方向を指し示す、2020年のベストチームとなった。

 「2020年のサッカー」を特徴づけるのは、最もざっくりと表現すれば「攻撃的」という言葉に集約できる、近年のトレンドに沿ったアプローチだ。具体的には、ボール保持の追及、そして極めて能動的なボール奪取戦略という形で、攻撃への志向が表現されたスタイルということになる。

 サッカーの戦術は歴史的に、ゲームを支配したいという欲求に根ざしボール保持に基盤を置く攻撃的なサッカーをよしとする啓蒙的なアプローチと、逆に相手が与えてくれるスペースや相手のミスを利用して勝利を収めようとする姿勢をよしとする実利的なアプローチとの間を行き来してきた。2020年は、ボール保持を攻撃的な戦略を遂行する武器と位置づけ、相手の動きを待つよりも相手を動かすことで守備の綻びを作り出すこと、そして能動的なボール奪取戦略によって相手のミスを誘いボール保持を回復することに主眼を置いた、いわば「自己充足的」とでも呼ぶべきサッカーの追及が支配的だった10 年の幕を閉じる年だったと言える。

RBライプツィヒという実験室

 2020年のサッカーに関する最も興味深い観測地は、8月にリスボンで行われた2019-20シーズンのCLファイナル8だった。ヨーロッパの8強が短期間で集中的にぶつかり合い、この1年で確立した様々な戦術的な進歩を競い合うように見せる機会となったからだ。大雑把に言えば、「守備的」なアプローチで試合に臨んだのは8チーム中、リヨンとアトレティコ・マドリーだけだった。残る6チームは、アプローチには違いがあったものの総じてプロアクティブな姿勢で試合に臨んだ。そして8チームすべてが、近年の異なる戦術トレンドを様々な形で取り入れていた。……

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RBライプツィヒアタランタバイエルン戦術

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ウルティモ ウオモ

ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。

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