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サレルニターナとラツィオがセリエA登録不可に?ロティート会長2クラブ保有問題の全貌に迫る

2021.06.22

CALCIOおもてうらWEB版

ホットなニュースを題材に、イタリア在住ジャーナリストの片野道郎が複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く本誌人気連載「CALCIOおもてうら」のWEB出張版。今回はセリエA昇格を勝ち取ったサレルニターナの保有者問題に潜む、イタリアサッカー特有の入り組んだ事情について解説する。

 世界がEURO、コパ・アメリカという代表コンペティションに熱くなる中、クラブサッカーの世界はすでに、来シーズンに向けて動き始めている。

 イタリア・セリエAでは、新シーズンを戦う20チームの半数以上を巻き込んだ「監督シャッフル」が勃発、昨季の上位10チーム中8チームの指揮官が交代し、モウリーニョ(ローマ)、スパレッティ(ナポリ)、サッリ(ラツィオ)といった大物がカルチョの舞台に戻ってくることが決まっている。

 その一方では、サンプドリアとエンポリが今なお監督未定。フィオレンティーナも一度は決まったガットゥーゾが、強化方針を巡ってクラブと対立し合意を解消したため、新たに監督探しを始めるなど、一部では不安定な状況が続いている。

 さらに言えば、来シーズンのセリエAを戦う20チームはまだ「確定」すらしていない。というのも、昨シーズンのセリエBで2位となったサレルニターナは、複数クラブ保有を禁じたイタリアサッカー連盟(FIGC)の規程に抵触するため、現状ではセリエAへの登録が認められないからだ。

 サレルニターナの会長マルコ・メッザローマは、ラツィオのオーナー会長クラウディオ・ロティートの義弟。そして保有権の50%を持つ共同オーナーはロティートの息子エンリコなのである。

ロティート会長の義兄弟にあたるサレルニターナのメッザローマ会長

 1人のオーナーが、同じリーグで戦う2つのクラブを保有すれば、その両クラブ間にあらゆる意味での利益相反が生じることは明らかだ。最も分かりやすい例は、2つのクラブが意図的に勝ち点を融通し合う、いわゆる八百長行為。それが起こる可能性を放置すれば、リーグそのものの「公正な競争」がその土台から損なわれることは火を見るよりも明らかだ。

 もちろん、FIGCの内部規程には「同一オーナーによる複数のプロクラブ保有禁止」が定められており、さらに「4親等以内の姻戚関係は同じオーナーと見なす」という運用基準も明記されている。サレルニターナの2人のオーナーはともに、ロティートから4親等以内の姻戚であり、この内部規程に抵触する。

 実際FIGCは、新シーズンのセリエAチーム登録最終期限である6月28日の3日前、25日までにこの複数オーナー問題が解決できない場合、「サレルニターナかラツィオのどちらか一方はセリエAに登録できない」ことを、あらかじめ両クラブに通告していた。そしてそのデッドラインまであと5日と迫った本稿執筆時点(20日)において、今なお問題は解決のメドが立っていない(詳細は後述)。

 そもそもの話、FIGCの内部規程に従うならば、サレルニターナはセリエAはもちろんプロカテゴリーの下部リーグ(セリエB、セリエC)に登録されることすら許されないはずだった。にもかかわらずこのクラブは、2012年にメッザローマ会長の下でセリエC2昇格を果たしてから現在まで9年間もの間、プロカテゴリーで戦い続けてきた。それが許容されてきたのは一体なぜなのか。そこにはいかにもイタリアらしい「特例」やら「情実」が積み重なった事情が絡んでいる。

特例、盲点、コネをフル活用した二度の破産からの復活劇

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クラウディオ・ロティートサレルニターナラツィオ文化経営

Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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