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宮沢賢治の詩を体現する男。エンゴロ・カンテはバロンドールに値するか?

2021.06.16

「エンゴロ・カンテにバロンドールを」。今、欧州サッカー界ではファン、メディア、そして同僚である選手たちからチームを縁の下で支える守備職人をバロンドールに推す声が増えてきている。果たして、チェルシーにビッグイアーをもたらし、そしてEUROでフランス代表と頂点を目指す男はバロンドールに値するのか――西部謙司氏の見解を聞いた。

 CL準決勝2試合(レアル・マドリー戦)と決勝(マンチェスター・シティ戦)の3試合連続でMOMに選出。エンゴロ・カンテは今年のバロンドールの有力候補となった。

 しかし、現実に12月にカンテが受賞する可能性はそれほど高くないと思う。

歴史的にバロンドールは守備力を評価しない

 1956年にスタートしたバロンドールは、スタンレー・マシューズから始まって時代のスターたちが受賞している。そして守備能力が評価対象になったことがほとんどない。例外は1963年のレフ・ヤシン(GK)、72、76年のフランツ・ベッケンバウアー(DF)、96年のマティアス・ザマー(DF)、2006年ファビオ・カンナバーロ(DF)。たったこれだけなのだ。ベッケンバウアーとザマーはリベロだったので、守備力というよりもゲームメイクの能力の方が評価対象といっていい。つまり、守備力でバロンドールを獲れたのはヤシンとカンナバーロだけだ。

守備者として最後にバロンドールを受賞したカンナバーロ

 長い歴史で受賞にふさわしい守備者がたった2人ということはあり得ない。

 2019年はリオネル・メッシが受賞しているが、フィルジル・ファン・ダイクの方がふさわしかったと思う。89年に2位だったフランコ・バレージも能力的には受賞に値する活躍をしていた。

 シュートを決めるのと、シュートを防ぐのはほぼ同じ価値だ。プラス1点かマイナス1点を防ぐかの違いである。ドリブルで1人抜くのと、ドリブラーからボールを奪うのも価値は同じだ。相手が攻撃態勢に入っているところでボールを奪う方が、ドリブルで抜くよりも価値が高い場合もあるだろう。しかし、守備能力は攻撃力に比べるとどうしても軽視されがちなのだ。……

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エンゴロ・カンテバロンドール

Profile

西部 謙司

1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。