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【対談】森岡亮太×杉崎健。選手の感覚を研ぎ澄ます「サッカーアナリスト」の映像活用術

2021.05.07

『サッカーアナリストのすゝめ』発売記念企画#2

4月30日発売の『サッカーアナリストのすゝめ』は、ヴィッセル神戸、ベガルタ仙台、横浜F・マリノスで分析を担当した杉崎健アナリストが、Jリーグ最前線で培ってきた7つのメソッドをまとめた意欲作だ。

本書には特別企画として、杉崎アナリストがヴィッセル神戸時代にサポートした仲で、現在はベルギー1部のシャルルロワで不動の司令塔として活躍している森岡亮太選手との特別対談が収録されている。今回は発売を記念して、その一部を特別公開! 攻撃を自在に操った10番は当時、どのように映像を創造力あふれるプレーに生かしていたのだろうか。

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ヴィッセル神戸時代のゴール秘話


――ヴィッセル神戸時代、お2人はどのようなご関係だったのでしょう?

森岡「スギさんは対戦相手の分析、スカウティングを担当されていて、出てくるのは監督が次の対戦相手のミーティングで、分析した映像を見せるタイミングでしたね。当時から普通にスギさんと呼んでいて、いつの間にか普通の選手とアナリストの関係よりも距離が近くなっていましたね」

杉崎「森岡選手は当時20代前半だったんですけど、安達亮監督にも『亮さん』と気軽に話しかけて、自分の意見をズバッと言っていたのが印象的でしたね。若くして自分の考えや感覚を持っている選手は、日本だとかなり珍しいタイプです。1つ覚えているのは、僕はヴィッセル時代だと先乗り、自チームの試合には帯同せずに次の対戦相手の試合を視察していたんですけど、離れていても何かチームに貢献できる方法はないかと考えていたんです。そこで実際に試合で起こり得るシーンを想定した海外サッカーの映像集とかをDVDにして、ウォーミングアップ場で流してもらうようにしていたんですけど……覚えてる?」

森岡「あー、見てましたね」

杉崎「その形で2014年6月にナビスコ杯でベガルタ仙台と対戦する前に、海外の選手がダイレクトでシュートを撃つと見せかけてパスをコントロールし、相手をかわしてシュートを流し込んだシーンを映像集に入れて見せていたんです。すると、試合本番で森岡選手がまったく同じような形からゴールを決めてくれて、翌日に会った時に『スギさんの映像のおかげで決めれたわ』って言われたのは、今も記憶に残っています」

森岡「えー、まさにアナリスト冥利に尽きるじゃないですか(笑)。でも確かに今まで見てきたいろんなサッカーの映像が、試合中にシンクロする感覚が僕の中ではあったりするんですよね。だから今もできるだけ毎日サッカーを見るようにしています」

杉崎「そういう感覚を研ぎ澄ましてもらいながら、森岡選手は当時から『欧州に行きたい』、『日本代表に入りたい』という野心を口にしていたので、その目標に到達できるようなサポートを心がけていました。今もそうですけど、森岡選手は攻撃の仕上げに一番関われる選手で、ヴィッセル時代は[4-2-3-1]のトップ下をやっていたんですね。だから最後のプレーや視野の確保を向上させる方法について話していました」

現所属のシャルルロワが19-20シーズンからピックアップした森岡選手のプレー集。 今季もボランチを主戦場としながらベルギーリーグで2ゴール7アシストを記録し、チャンスを演出し続けている

視野を拡張化する映像、感覚を可視化するデータ

森岡「それは覚えていますね。スギさんは僕のプレーを客観的というか俯瞰的に見てくれて、僕の頭の中にはなかった選択肢を教えてくれたりしていました。例えばボールを受けた時に、実際には同じサイドにパスを出したんですけど、逆サイドにも展開できたんじゃないかと。スギさんはさらに深堀りして、そういう選択肢を確保するためにどのタイミングで何を見ておけばよかったかという過程まで一緒に考えてくれていましたね」

杉崎「人間の視野って最大でも約200度で背後は見えませんよね。映像で360度を振り返ってみると、本人も気づいていない選択肢があったりするんです。ただ森岡選手はもともと視野が広いので、ボールを持っていてもかなり注意深くプレーしていました。それなら、ボールを受ける前の首の振り方や体の向きに伸びしろがあるかもしれない。そうやって改善点を探りながら、選手本人と話すのは今も続けていますね」

森岡「あんまり選手と話が合うアナリストはいないんですけど、スギさんの説明は説得力があったんですよね。全然主観的じゃないので聞き入れやすかったというか。1つの意見として参考になっていたので、自然とよく話すようになったのかもしれないです。僕自身も論理的な話は好きで、データとかも結構見るタイプなので」

杉崎「当時は毎節のデータをまとめたExcelシートを印刷して、ヴィッセルのクラブハウスの1階のモニター前に貼っていましたけど、森岡選手はいの一番に見ていましたね」

森岡「あー、ありましたね。冊子みたいにまとめてくれていて、僕は走行距離とスプリント数を見ていました。当時は周りからあまり走れない選手というイメージを持たれていたんですけど(苦笑)、データを見て『いや、走れてるやん!』って自分の中で反論していましたね。あとは各試合でどれくらい走れているかという感覚と、データを照らし合わせてイメージを一致させていました」

杉崎「当時はまだトラッキングデータが主流ではない時代でしたね。コストが高いので導入できるクラブが限られていたんですけど、ヴィッセルは真っ先に取り入れていました。まだ現場に生かす方法が確立されていない中で、数字や図も作りながら実験的に張り出していたんですけど、有効活用してくれていたようで安心しました」

Ryota Morioka
森岡亮太

PLAYING CAREER
2010-15 Vissel Kobe
2016-17 Śląsk Wrocław (POL)
2017-18 Waasland Beveren (BEL)
2018-19 Anderlecht (BEL)
2019- Charleroi (BEL)

京都府城陽市出身。中学時代には全日本ユースフットサル大会に出場。地元の久御山高校を経て2010年、高校卒業と同時にヴィッセル神戸へ入団する。チームがJ2降格から再起を図った2013年に背番号10を託され、J1復帰に貢献した。2014年にはマルキーニョス、ペドロ・ジュニオール、ファビオ・シンプリシオら助っ人外国人選手と強力な攻撃陣を形成。J1優秀選手に選出され、日本代表デビューも果たした。2016年にポーランド1部のシロンスク・ブロツワフで欧州挑戦をスタート。加入直後から存在感を発揮し、2017年にはベルギー1部のベフェレンにステップアップ。ベルギーで飛躍を遂げた日本人選手の先駆けとなり、2018年には名門アンデルレヒトへ活躍の場を移した。2019年に出場機会を求め、シャルルロワへレンタル移籍。中盤を支配する司令塔として定着し、完全移籍を果たしている。


Edition cooperation: Asami Kaji (footballista Lab)
Photos: Getty Images, Royal Charleroi Sporting Club & Julien Trips

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サッカーアナリストのすゝめ分析杉崎健森岡亮太

Profile

足立 真俊

1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista

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