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『旅する練習』――鹿島アントラーズを目指す旅で刻まれた「257回の鼓動のあと」

2021.02.12

第164回芥川龍之介賞候補作となった『旅する練習』(乗代雄介著/講談社)は、中学入学を前にしたサッカー少女と小説家の叔父が、千葉から鹿島アントラーズの本拠地を目指す旅の道程を綴った小説だ。サッカーがモチーフになっているこの作品の魅力を、スポーツジャーナリストの増島みどりさんに解説してもらった。

 ここをご覧になる皆さんならきっと、「リフティング? だったらお任せ。〇回できる!」と、〇に数字を入れられるのだと思う。ただ回数の自慢を聞いているだけでもなぜか楽しく、話が尽きないのだから不思議だ。

 鹿島アントラーズの試合を、1泊の小旅行で観戦に行く予定だった主人公・亜美と小説家の叔父は、試合がコロナ渦で中止となり、ボールを抱いて鹿島目指して利根川沿いを歩く。小学6年の少女は、サッカー推薦で中学受験ができるレベルだから、将来の、女子日本代表「なでしこジャパン」候補だ。かつて鹿島にある施設で合宿し、そこで借りた本をそのまま返せないでいたため、観戦は「本を返すための旅」と変わる。亜美はミズノのスパイク「モレリア」を愛用し、毎日歩きながら練習する。叔父は目にする野鳥、カワウや、風景を細かく描写する。

 こうした絵画的な描写と対照的に、リフティングの回数が日々の記録として無機質に記されている。小説を読んでいるのになぜかこれが気になり、「何日、何回」と書き留めてしまった。書きながら、ふと思った。物語にいわば先発し、試合終了までずっと刻まれていくリフティングの回数とは、一体何を意味するのだろうと。……

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旅する練習書評鹿島アントラーズ

Profile

増島 みどり

1961年生まれ、学習院大からスポーツ紙記者を経て97年独立しスポーツライターに。98年フランスW杯日本代表39人のインタビューをまとめた「6月の軌跡」(文芸春秋)でミズノスポーツライター賞受賞。「GK論」(講談社)、「中田英寿 IN HIS TIME」(光文社)、「名波浩 夢の中まで左足」(ベースボールマガジン社)等著作多数。フランス大会から20年の18年、「6月の軌跡」の39人へのインタビューを再度行い「日本代表を生きる」(文芸春秋)を書いた。1988年ソウル大会から夏冬の五輪、W杯など数十カ国で取材を経験する。法政大スポーツ健康学部客員講師、スポーツコンプライアンス教育振興機構業務執行理事も務める。