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U-21 Jリーグ創設決定の今知っておくべき、クロアチアのポストユース問題とセカンドチーム騒動

2025.07.19

炎ゆるノゴメット#19

ディナモ・ザグレブが燃やす情熱の炎に火をつけられ、銀行を退職して2001年からクロアチアに移住。10年間のザグレブ生活で追った“ノゴメット”(クロアチア語で「サッカー」)の今に長束恭行氏が迫る。

第19回では、2026-27シーズンにキックオフする「U-21 Jリーグ」の創設が決定した今こそ知っておくべき、日本も他人事ではないクロアチアのポストユース問題とセカンドチーム騒動を解説する。

 今から10年前、私はクロアチアサッカー界の「育成の父」ともいうべきロメオ・ヨザク(現サウジアラビア・スポーツ省テクニカルディレクター)にロングインタビューを試みた。35歳で名門ディナモ・ザグレブのアカデミー校長に上り詰め、取材当時はクロアチアサッカー協会のテクニカルディレクターとして改革の旗振り役だった彼は、「ポストユース」の重要性をこのように語っていた。

 「ユースサッカーを経た選手にとって大事なのは次のステージだ。すなわちシニアサッカー(※日本の一般的な解釈と異なり、『成人によるサッカー』の意)に適応できるかどうか。ユース上がりの選手に現実的な社会が訪れた時、つまりシニアサッカーの世界にたどり着いた時、いくら前評判が高くても適応できるとは限らない。求められるものは幾多にわたる。社会的知性、情動的知性、心理面など『人間としての器』を形成するあらゆる側面だ。

 シニアサッカーとユースサッカーは異なる2つの“惑星”である。同一スポーツという事実にもかかわらず。シニアサッカーへの適応過程で我われは多くの選手を失ってしまう。これはクロアチアに限った話じゃないだろう?」

 先日、日本でも11クラブ参加の「U-21 Jリーグ」(仮称)が2026-27シーズンから創設されることが発表されたように、ポストユースのプレー環境の確保はどこの国でも重要なテーマだ。クロアチアでは2014年、ヨザクのイニシアティブによって21歳以下のセカンドチーム(22歳以上は5人までに制限)の導入と3部リーグ編入が認可された。詳しい経緯は後述するが、2023年にセカンドチームはすべて解散。しかしながら、今年になってセカンドチーム復活の議論が巻き上がり、すったもんだの挙げ句、2026-27シーズンからの2部リーグ編入が決定した。

 代表チームの成績だけならば「サッカー大国」と言っても過言ではないクロアチア。人口385万人の「小国リーグ」だからこそ明瞭に浮き彫りとなった同国のポストユースの問題について、セカンドチームをめぐる騒動を通して深掘りしてみよう。

筆者のインタビューに答えるヨザク。インタビュー全編は拙著『もえるバトレニ』に収録している(Photo: Yasuyuki Nagatsuka)

オルモ、ガブリエウらの受け皿となるも…セカンドチーム導入の誤算

 一時は18クラブまで拡大した1部リーグが、現体制の10クラブに定着したのは2013-14シーズンのこと。クラブ数を減らしたことで試合レベルは担保される一方、各クラブは高い競争力を維持しなければならない。それにより上位クラブであれ、下位クラブであれ、早熟なタレントでない限りは育成選手の出場機会を削ってしまった。経験の乏しい選手をトップチームで辛抱強く使い続けるほどの勇気を持ち合わせておらず、国内外でキャリアを地道に積んだ中堅やベテラン、5大リーグに引っかからないような手頃な外国人選手でポジションを埋めがちだ。以上の現象はデータでも証明されている。

<トップチームの平均年齢>

2013-14シーズン:24.3歳

2024-25シーズン:26.1歳(過去最大)

<トップチームの外国人比率>

2013-14シーズン:15.8%

2024-25シーズン:35.7%
(過去最大は2020-21シーズンの42.0%)

 本来、クロアチアリーグは国産選手にとっての「育成リーグ」「ステップアップリーグ」という位置づけ。クラブは手塩にかけて育てたタレントをショーウィンドウに並べるように試合で起用し、代表デビューなどで市場価値が跳ね上がったところで国外のクラブに高く売る。国外組の彼らが経験値を高めることで代表チームが強化されていく、というサイクルが理想的だ。

 クロアチアのユースカテゴリーはU-19が最年長で、トップチームでレギュラーの座を争えるほどの実力を養わなければ、アカデミー卒業と同時に見切りをつけられる。ルカ・モドリッチのような強い向上心があれば話は別だが、20歳前後の若者といえば周囲に左右されやすい年頃だろう。ローン移籍のような環境変化を伴わず、アカデミーの延長線としてモラトリアム的な適応期間にセカンドチームを活用するのは一理ある。

……

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Profile

長束 恭行

1973年生まれ。1997年、現地観戦したディナモ・ザグレブの試合に感銘を受けて銀行を退職。2001年からは10年間のザグレブ生活を通して旧ユーゴ諸国のサッカーを追った。2011年から4年間はリトアニアを拠点に東欧諸国を取材。取材レポートを一冊にまとめた『東欧サッカークロニクル』(カンゼン)では2018年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞した。近著に『もえるバトレニ モドリッチと仲間たちの夢のカタール大冒険譚』(小社刊)。

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