デンベレが明かすルイス・エンリケの訓示、ドンナルンマの手紙…CL王者パリSG、崩壊寸前からの覚醒

おいしいフランスフット #17
1992年に渡欧し、パリを拠点にして25年余り。現地で取材を続けてきた小川由紀子が、多民族・多文化が融合するフランスらしい、その味わい豊かなサッカーの風景を綴る。
footballista誌から続くWEB月刊連載の第17回(通算175回)は、チームを取り巻く空気は最悪だった半年前、そこからCL初優勝へと突っ走ったパリ・サンジェルマンの2024-25シーズンを振り返ろう。
「君がディフェンスの最前線となるんだ」
ついにこの時がきたか、という感じだ。パリ・サンジェルマン(PSG)がCLで優勝し、悲願のビッグイアーを手に入れた。
コロナ禍につきラウンド16途中からバブル方式で行われた2019-20大会で初めて決勝に到達した時は、バイエルンに0-1で惜敗した。しかし今回は、インテルに大会史上最多得点差の5-0という圧勝だった。
先週発行された『フランス・フットボール』とのインタビューで、このファイナルでも2アシストを記録したウスマン・デンベレは、
「あの決勝戦から数日間は、本当に欧州のチャンピオンになったのだという実感がまったく湧かなかった」
とリアルな感想を漏らしていた。
彼いわく、ターニングポイントになったのは、リーグフェーズ第7節のマンチェスター・シティ戦(1月22日)。試合前の時点で全体26位に沈んでいた彼らは、このホーム戦で2点ビハインドから4-2と大逆転勝利を収めると、そこから一気に優勝への道を突っ走ったのだった。
キリアン・ムバッペがレアル・マドリーへ去り、スーパースターがいなくなったチームにおいて、シーズン開幕時にルイス・エンリケ監督はデンベレにこう説いた。
「君がチームを引っ張るんだ。君が若い選手たちに手本を示さなければならない。君がディフェンスの最前線となるんだ」
彼はその言葉を胸に刻みつつ、本業でも公式戦33得点15アシストという素晴らしい攻撃力を発揮した。
デンベレがこのインタビュー内で明かしたところによると、インテル戦に向かうバスの中で、選手全員のモチベーションを最高に高める出来事があった。
GKジャンルイジ・ドンナルンマが、全選手とスタッフ全員に手紙を渡したのだという。
フランス語、英語、ポルトガル語で全員分が用意されていて、手紙にはここまで到達した自分たちの戦いを称える激励のメッセージが書かれていたそうだ。その言葉、そしてドンナルンマの思いに全員が鼓舞されて、すでに高かったモチベーションが一層高まったとデンベレは語っている。
「君にそれを説明してもわからないだろうから答える必要はない」
実際、シーズン前半、昨年12月初旬くらいまでは、チームを取り巻く空気は最悪だった。それを思っても、彼らの進化はすさまじい。
メディアとの関係も常にピリついていて、試合後の会見は毎回、記者vsルイス・エンリケの舌戦となっていた。ちょうど木村浩嗣元編集長もコラムでルイス・エンリケ監督のドキュメンタリーについて書かれていたが、まさに納得、という感じだ。
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Profile
小川 由紀子
ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。