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今は長期“迷走”しか見えない…ポチェッティーノはチェルシーの「PM」適任者だった

2024.06.01

Good Times Bad Times 〜フットボール春秋〜 #5

プレミアリーグから下部の下部まで、老いも若きも、人間も犬もひっくるめて。フットボールが身近な「母国」イングランドらしい風景を、在住も25年を超えた西ロンドンから山中忍が綴る。

footballista誌から続くWEB月刊連載の第5回(通算239回)は、何がいけなかったのか?――6位フィニッシュシーズン最終戦2日後に発表された、不可解なチェルシー指揮官解任劇の舞台裏。

プロジェクトに必要な「目標」「予算」「リスク管理」の適否

 チェルシーが、トッド・ベーリーを代表格とする米国系コンソーシアムの所有物となったのは昨年5月。投資家オーナーたちは、手にしたフットボールクラブの運営を「プロジェクト」と呼ぶ。しかも、前オーナー時代とは一線を画する「長期展望」の看板を掲げながら。

 着手2シーズン目の結果は、無冠のプレミアリーグ6位。そして、2年間で3度目の正監督交代。根本的な責任の所在は、たった1年で監督の座を退くことになったマウリシオ・ポチェッティーノではなく、富を築いたビジネスマンとしての才覚を疑いたくなる経営陣にある。

トッド・ベーリー。リーグカップ決勝チェルシー対リバプール(0-1)が行われた2月25日のウェンブリー・スタジアムで

 プロジェクトに必要な要素とは? まずはなくてはならない「目標」だが、さすがにこの点はクリアできていた。実現すべきは、若い力を中心とするチームがもたらす安定した成功。若手を5年以上の長期契約で獲得する補強という、「実行」を伴ってもいる。

 チェルシーのチーム平均年齢は、39歳のチアゴ・シウバがリーグ戦31試合に出場していても、2023-24シーズンのプレミア最年少だった。今年2月のリーグカップ決勝では、リバプールの若手投入が優勝とともに話題になった。だが実のところ、当日にピッチ上で試合終了の笛を聞いたイレブンの平均年齢は、23.9歳のリバプールよりも、22.7歳のチェルシーの方が若かった。

 「予算」も十分に割かれた。2年間で12億ポンド(2400億円弱)と、ふんだんに。ただし、無理をした感が否めない。その代償として、本来であれば長期安定の土台となるべき生え抜きの若手に今夏の「換金」が噂される。その代表例と言えるコナー・ギャラガーは、全試合合計でチーム最高の67時間強をピッチ上で過ごした主軸としてシーズンを終えたばかりだ。

 「リスク管理」に関しては、覚悟ができていなかった。若く、しかも新しい選手が多いチームが機能し始めるには時間がかかる。パフォーマンスが安定しなくても、初めのうちは仕方がない。ポチェッティーノが、4月後半に5点差で敗れたアーセナル戦後に言っていたように、「悪い日は本当に最悪」という出来でも我慢が必要になる。

 事実、昨年12月のリーグ戦6試合を3勝3敗の10位でシーズンを折り返したチェルシーは、ラスト1カ月の5試合を計14得点の全勝で締めくくった。後半戦19試合でチェルシーの計38ポイントを上回る勝ち点を奪ったチームは、マンチェスター・シティ、アーセナル、リバプールのトップ3に限られる。シーズン終盤まで優勝を争ったこの3チームとは違い、大ベテランのT.シウバ以外にはワールドクラスなどいないチーム事情を考慮すれば、FAカップでも準決勝まで勝ち上がりながらのトップ6というポチェッティーノ体制1年目は、プロジェクトの早期段階にあって評価されても良かったのではないか?

……

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Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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