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名将の隣に、名参謀あり。森山監督と共に“新たな仙台”を作り上げるヘッドコーチ・片渕浩一郎

2024.05.09

ベガルタ・ピッチサイドリポート第13回

ベガルタ仙台には、今シーズンから経験豊富な“名参謀”が加わっている。アルビレックス新潟やサガン鳥栖でトップチームの指導に携わってきた片渕浩一郎ヘッドコーチだ。森山佳郎監督とは旧知の仲。情熱にあふれた2人が発するエネルギーは、このクラブにポジティブな空気を送り込み続けている。今回もおなじみの村林いづみに、そんな新ヘッドコーチの思考を解き明かすべく、直撃してもらった。

 ベガルタ仙台が森山佳郎監督の新体制になり約4か月。新緑の杜の都、仙台のピッチは活気に満ちている。

 「ゲーム中、かなり自分たちのボールになってるよ。もっと上げられる!」

 「これから暑くなってくる。ルーズボールをマイボールにできるだけで、だいぶ変わるよ」

 「そのプレーじゃ相手は困ってないよ。どんどん困らせるよ!」

Photo: Idumi Murabayashi

 張りのある声で選手たちに刺激を与え続けるのは、ベガルタ仙台の片渕浩一郎ヘッドコーチだ。サガン鳥栖とアルビレックス新潟で選手として活躍し、現役引退後は両チームでトップチーム、ユース世代の監督や豊富なコーチ経験を誇る。2023シーズンは鳥栖の強化担当として一時現場を離れたが、今季、森山体制の仙台で現場復帰を果たす。日差しを浴びながら、生き生きと指導者としての日々を送る片渕さんにお話を聞いてみた。

仙台で念願の現場復帰。“S級同期”である森山監督との縁

――仙台で過ごす日々はいかがですか?

 「楽しい時間を過ごしています。やはり素晴らしい環境の中で、選手と共に戦うことができていて、すごく楽しいと感じています。もちろん、勝ち負けもありますが、勝ちを目指すために、みんなで良い準備やトレーニングをするとか、その中で選手の成長や苦しんでいるところを目にすることがあります。そういうものも含めてトータルで『楽しいなぁ』と思っているのが実際です」

――森山監督を筆頭に、コーチ陣が作る練習の雰囲気、盛り上げ方はとても活気がありますよね。

 「僕らは何もせずです。監督があのキャラなので(笑)。もう、監督の脇を固めるというか……。もし監督がどっしり構えているだけのタイプの方であれば、我々がどんどん盛り上げたりしなければいけないですが、基本的には監督がやりたい時に、やりたいことを、やりたいだけやってくれる方なので。我々コーチたちはその脇を固めるだけです。この仙台の雰囲気は(仙台の監督が)『ゴリさんである』ということ。それが全てだと思います。サポートしているだけですよ」

――片渕ヘッドコーチご自身としても仙台に来るということは大きな決断だったのではないですか?

 「大きな理由としては、まず仙台かどうかということは置いておいて、現場のコーチとしてピッチに立つということのプライオリティが高かったというところです。その前はサガン鳥栖で3年間コーチをして、昨年1年間はコーチ業からは離れ、トップとアカデミーの現場全体として見る立場でした。その1年を過ごして、やはり自分が直接現場に立ちたい、指導にあたりたいという思いが強くなりました。現場がやりたいという思いが強く、それができるという話を仙台さんから頂きました。そして監督はゴリさんということでした。

 自宅は新潟なので、新潟と仙台の距離は近いし、クラブの雰囲気やサポーターの熱さで、ベガルタとアルビレックスと似ているという風に、新潟時代から思っていました。そういう環境で指導者をやれるということが素晴らしいことだなと思いました。仙台に来たかったというより、現場をやりたかった。そのお話を頂けたのがベガルタだった。その仙台は昔から気になっているチームだったというものがつながっていったので、今は楽しくやらせて頂いています」

――ゴリさんとの関係はS級コーチ養成講習会の同期だったのですよね?

 「S級も一緒ですし、ゴリさんがサンフレッチェ広島ユースの監督をされている時に、私は新潟のユースを見ていました。15年くらい前にはアカデミー同士で対戦して、新潟から広島まで遠征に行って胸を借りたこともありました。『海外研修があるんだけど一緒に行かないか?』と誘ってもらったこともあります。その後にたまたま、S級で一緒になったんです。日本サッカー協会の仕事も一緒にさせてもらったので、今回呼んでもらえたのは本当に嬉しかったですね」

――その二人が一つのクラブで同じ目標を達成しようと力を合わせているんですよね。

 「嬉しいですよ。ゴリさんもプロのトップカテゴリーを指揮されるのは初めてです。私はその経験も持っているので、少しは力になれるのかなと思ったこともあります。もちろん指導者として素晴らしい方。でも初めてのこともある。私が経験できていることもある。そういうところでは力になれるんじゃないかと思いました。私もゴリさんから学びたいことがあるし、一緒に仕事ができて嬉しいです」

森山監督の横で練習を見守る片渕ヘッドコーチ(Photo: Idumi Murabayashi)

「やっつけてやる」コーチ陣も白熱の鳥かご。誰もが自由に意見を出し合える環境

――昔からよく知っていて、今は常に隣にいる。楽しそうにお話している様子も見られますが、今のお二人はどんな関係性なのでしょう。

 「ゴリさんは僕らコーチが言いたいことを吸い上げてくれるんです。我々も歯に衣着せることなく言います。『それもあるよね。でもさぁ……』って。ゴリさんは僕らの話を聞いて、取り入れてくれるんです。言いやすいですよ。だから僕らも楽しく話ができる。そういうことを言えない環境もあるかもしれないですけど、仙台ではそれが一切ない。そういう雰囲気を作ってくれるから、楽しく話してしまうんです(笑)。一緒にチームを作っていくというところに、僕らの力も必要としてくれる。そう思わせてくれるから、それは仕事のやり甲斐になります」

――ゴリさんとスタッフの関係の良さは伝わってきます。練習終了後、選手たちが引き揚げた後に、笑い声が聞こえて、コーチ陣がみんなで“鳥かご”をしていますよね。どんな話をしているのだろうと……。……

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Profile

村林 いづみ

フリーアナウンサー、ライター。2007年よりスカパー!やDAZNでベガルタ仙台を中心に試合中継のピッチリポーターを務める。ベガルタ仙台の節目にはだいたいピッチサイドで涙ぐみ、祝杯と勝利のヒーローインタビューを何よりも楽しみに生きる。かつてスカパー!で好評を博した「ベガッ太さんとの夫婦漫才」をどこかで復活させたいと画策している。

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