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ユベントス周辺で「#AllegriOut」が叫ばれる背景。「今勝てるチーム」から「明日勝てるチーム」へ

2024.04.19

CALCIOおもてうら#12

イタリア在住30年、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えるジャーナリスト・片野道郎が、ホットなニュースを題材に複雑怪奇なカルチョの背景を読み解く。

今回はCL出場権をほぼ確保したユベントスの最大の関心事であるマッシミリアーノ・アレグリ監督の去就について。クラブ周辺で「#AllegriOut」が叫ばれる背景を考察する。

 4月の「セリエAダービー月間」第2弾となったトリノダービーは、双方とも流れを掴む時間帯を作ったもののフィニッシュに決め手を欠いて0-0のスコアレスドロー。トリノ0.6xG対ユーベ1.2xGという数字が示す通り、より勝利に近かったのはユベントスだが、エースのブラホビッチがGKと1対1になる好機を2度にわたって決め損ねたのが響いた格好だ。

デ・ゼルビの薫陶を受けた戦術コーチを入閣させたが…

 この引き分けは両チームの順位にも、そしておそらくシーズン全体の成否とその評価にも、大きな影響を与えるものではない。トリノは勝ち点50超えと一桁順位、ユベントスは来シーズンのCL出場権というノルマを、すでにほぼ確実にしている。とりわけユベントスに関しては、一昨年末に発覚した不正会計問題による経営陣の大刷新、FIGCとUEFAから受けた処分への対応などを経た過渡的なシーズンだったこともあり、マスコミとサポーターの興味はピッチ上の結果よりも来シーズンに向けた構想に向かっている。このあたりは2回前の当コラムで取り上げたミランと共通するところだ。

 そのミランと同様、最大の関心事となっているのは監督人事。マッシミリアーノ・アレグリ監督は2025年6月まで契約を残しているが、その最終年となる来シーズンの去就については、賛否両論が大きく割れている。というよりも、今やユベントスが期待を裏切るたびにアレグリ解任論が取り沙汰されると言ってもいいほど、賛否の「否」が強まってきている状況だ。ハッシュタグ「#AllegriOut」の広がりは「#PioliOut」のそれと比べてもずっと規模が大きい。

 アレグリが、一部のサポーターや識者から「嫌われている」理由は明らかだ。まず、ボール保持に拘泥せず重心を下げたブロック守備で相手の攻撃をはね返しつつ逆襲のチャンスをうかがい、アタッカー陣の個人能力を活かした攻撃でゴールを奪って僅差で勝つ、という彼のサッカー、そしてそれを支えるフィロソフィが、共感よりも反感を買いやすい時代になってきたこと。筆者もこれまで何度かユベントスの戦術について言及してきたが(123)、その中で見てきた「アレグリのサッカー」の本質は今も変わっていないし、おそらく今後も変わることはないだろう。

 今シーズンも、サッスオーロでの現役時代にレジスタとしてロベルト・デ・ゼルビの薫陶を受けたフランチェスコ・マニャネッリを戦術コーチとしてスタッフに加え、後方からのポジショナルなビルドアップとゲーゲンプレッシングによる即時奪回というモダンサッカーの要素を戦術に組み込む取り組みが開幕当初に見られたが、「アレグリのサッカー」という幹に異質な要素を「接ぎ木」しようというこの試みは、根付くことがないまま早々に放棄される結果となった。

現役時代はサッスオーロで510試合に出場したマニャネッリ。加入した05年からスパイクを脱いだ22年までの17年間に渡って同クラブでプレーした

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Profile

片野 道郎

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。主な著書に『チャンピオンズリーグ・クロニクル』、『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』『モウリーニョの流儀』。共著に『モダンサッカーの教科書』などがある。

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