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復調の気配を見せるスターリング、柔道で心身を鍛え再びプレミアリーグの頂点へ

2023.08.30

 今季のプレミアリーグでは、輝きを取り戻した選手がいる。チェルシーのイングランド代表FWラヒーム・スターリング(28歳)だ。

指揮官との信頼関係で自信を取り戻す

 17歳107日でデビューを果たしたリバプール時代、そして4度のリーグ制覇を経験したマンチェスター・シティでは相手DFを震え上がらせていた高速ウィンガーだが、昨夏チェルシーに加入して以降は苦しんでいた。過去9シーズン連続で公式戦2桁ゴールを決めていたアタッカーが、昨季はチェルシーで9ゴールに留まり、チームもプレミアリーグで12位と不振に喘いだ。

 だが今シーズン、まだ開幕3試合を終えたところとはいえ、以前のような躍動感が戻ってきたように見える。[3-4-2-1]の2列目の右を任されたスターリングは、自由に動き回って積極的にボックス内に入って危険な位置で仕事をしている。8月25日に行われた第3節のルートン・タウン戦では2ゴールの活躍でマン・オブ・ザ・マッチに選出されており、その活躍はデータにも表れている。

 データサイト『FBref』によると、敵陣ボックス内でのボールタッチ数は28回。これは圧倒的な存在感を示す日本代表MF三笘薫(ブライトン)の33回、FWブカヨ・サカ(アーセナル)の31回に次いでリーグ3位の数字だ。ペナルティエリア内へのボール運びも、この3名がトップ3を占めている。そして1対1のドリブルの仕掛けに至っては、スターリングが今季リーグ最多の20回を記録しているのだ。昨季はリーグ30位だったことを考えると、すっかり自信を取り戻して心身ともに充実していると言える。

 復調の理由はいくつかある。まずは監督交代だ。今季からチェルシーを率いるマウリシオ・ポチェッティーノ監督は選手たちの迷いを消した。プレシーズンの初日にバーベキューで選手との交流を図ると、その後すぐに選手たちと面談の場を設けて意見交換をした。そしてイングランド代表ウィンガーに絶大なる信頼を伝えたのだ。スターリング本人も『Sky Sports』のインタビューで、監督とのこんなやり取りを明かしている。

 「(開幕戦の)リバプール戦では中央のポケットでプレーする時間帯が長すぎた。昨季と同じで少し位置が低すぎたと思う。それを監督に伝えると、こう言われた。『ラヒーム、位置は関係ない。ダイナミックにボールを持ってアグレッシブにプレーすれば、誰も君を止められないんだ』と」

 当然、ポジショニングは重要だし、ポチェッティーノ監督もそれは十分に理解している。それでも指揮官は、現段階では思い切り自分の良さを出させることを優先させたのだ。そんな指揮官の下でスターリングは自信を深めており、開幕前には記者とのフランクなやり取りで「今季のチェルシーの得点王になるの?」と聞かれると「それが既成事実になるよ」と返していた。さらにルートン戦の試合後にも得点王の話を振られると「それを目指さないといけない。100%の状態ならば、それができるはずだ」と自信を覗かせていたのだ。

生活を見直し、柔道にも挑戦

 今季は心身の“身”の部分も変わった。まずは生活を見直したという。昨季、スターリングは食事法を変えて少しウェイトを増やしたという。それが問題だったのか、ハムストリングのケガを負うなど、万全な状態でプレーできなかった。その過ちから、今季は「少し食事を減らした」と明かし、プレシーズンのうちに万全のコンディションに整えた。その話を聞いたポチェッティーノも「私も食生活を変えないといけないね。彼にダイエット法を聞いてみるよ!」と冗談を飛ばしていた。

 そんな冗談好きのポチェッティーノ監督だが、仕事になれば真剣だ。昨季のチェルシーの問題がフィットネスにあると考えて、プレシーズンではしっかり選手たちを走らせて体力強化に努めた。そうやってスターリングは心身ともに素晴らしいコンディションを手に入れたのだが、実はもう1つ好調の秘密がある。それが日本の武道なのだ。

 今年6月、ケガ以外では約3年ぶりに代表メンバーから外れたスターリングは、イングランド代表がEURO予選を戦っているなか、英国の柔道クラブを訪れて一緒に坂や階段を上り下りするなどし、体を苛め抜いたのだ。そして同クラブで師範を務める、五輪2大会で銅メダリストに輝いた海老沼匡さんの指導も受けたようで、一緒に写真も撮っていた。

 新監督の下で自信を取り戻し、日本伝統の武道で体を鍛えたラヒーム・スターリング。今季は彼がプレミアリーグの主役になるかもしれない。


Photo: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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