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フラメンゴで送る充実の日々…ダビド・ルイスが号泣した日

2022.10.28

 10月19日のコパ・ド・ブラジル決勝でコリンチャンスを倒し、優勝を達成したフラメンゴが、今度は10月29日のコパ・リベルタドーレス決勝に向けて開催地であるエクアドルのグアヤキルに入った。

 2019年から新たな黄金時代を過ごすフラメンゴは、コパ・リベルタドーレスやブラジル全国選手権など、数多くのタイトルを獲得している。その好調を維持するチームにあって大きな存在感を発揮しているのが、元ブラジル代表CBのダビド・ルイスだ。

 彼にとっては、このコパ・ド・ブラジルがフラメンゴでの初タイトル。これまで代表やヨーロッパのビッグクラブなど、世界最高峰で戦ってきた彼が、この国内タイトルが決まった瞬間、歓喜の雄叫びをあげ、号泣し、チームやクラブのみんなと抱き合った。クラブへの愛情や情熱が伝わる場面だった。

コパ・ド・ブラジル制覇はフラメンゴでの初タイトルとなった(Photo: Gilvan de Souza/Flamengo)

ピッチ内外で模範的に振る舞う

 ダビド・ルイスがフラメンゴに移籍したのは2021年9月。ブラジル代表では2013年のコンフェデレーションズカップで優勝し、ベストイレブンにも選ばれた。2014年ワールドカップの後は代表から遠ざかったものの、ヨーロッパでの活躍は続き、ベンフィカ、チェルシー、パリ・サンジェルマンを経てチェルシーに戻り、2シーズンをアーセナルで過ごした後、14年ぶりにブラジルサッカーに復帰した。

 移籍当時のことを、彼はこう振り返る。

 「僕がブラジルに帰ったのはパンデミックの後で、休暇を過ごすためだった。それがフラメンゴに来ようと思ったのは、サポーターの熱意に心を動かされたからなんだ。ここでプレーするなんて、僕の頭に浮かんだこともなかったのにね」

 現在35歳。今季はここまで、フラメンゴのCBとしては最多の試合に出場している。守備を統率するのはもちろん、PK戦にもつれ込んだコパ・ド・ブラジル決勝では、1人目のキッカーを務めたフィリペ・ルイスが止められた後、2人目のキッカーとして臨み、きっちりと決めて暗雲を振り払った。

CBとして誰よりも多くの試合に出場している(Photo: Gilvan de Souza/Flamengo)

 今年6月にドリバウ・ジュニオール監督が就任してからは、リーダーとしての存在感も増した。

 ドリバウは「ダビドはキャプテンマークをつける必要もない。なぜなら、彼の姿勢はもうそれだけでキャプテンなのだから」

 そのリーダーシップはピッチの中だけでなく、ロッカールームでも重要なものになっている。現役の代表や元代表など実力のある選手が多いチームにあって、才能を持ちながらなかなか出場機会を得られないチームメイトには、その相手がいかに素晴らしい選手であるかを話し、チャンスが訪れた時のために常に準備を整えておくことの大切さを説く。

 クラブ下部組織の少年たちとも、最も多く関わっているプロ選手の1人でもあるそうだ。少年たちに求められたらいつでも話を聞き、アドバイスをする。

 ダビドは「自分の人生について、よく考えてみたんだ。今、僕はもっと成熟しているし、サッカーでここまで経験してきたことについて自覚している」とその理由を語る。

次の目標は南米王者

 ダビドの契約は、現時点ではこの年末まで。一時期、インテルや、ブラジル国内ではパルメイラスやアトレチコ・ミネイロが獲得を狙っていると伝えられたが、フラメンゴも契約更新の話を進め、給料や契約期間について合意に達したと報道されている。

 その彼とフラメンゴの次の目標は、コパ・リベルタドーレス優勝だ。フラメンゴはこの大会、ここまで12戦11勝1分。ダビドを含む守備陣は、その大半の試合で無失点か1失点を維持し、強さを誇っている。

 決勝はブラジル対決となり、相手は元ブラジル代表監督ルイス・フェリペ・スコラーリ率いるアトレチコ・パラナエンセだ。今季だけで2人の代行監督を含む4人が指揮を執るという混乱を経て、5人目の監督として5月にスコラーリが就任して以降、着実に安定感を高めた。

 フラメンゴのようにスターがそろうチームではないが、全国選手権では20チーム中3位のフラメンゴに対し、6位につけている。スコラーリ自身、リベルタドーレスだけでも今回が4度目の決勝進出、そのうち2度はタイトルを獲得している。戦前の大方の予想はフラメンゴ有利だが、簡単な相手ではない。

リベルタドーレス杯決勝に向けて開催地グアヤキル入り。相手はA・パラナエンセだ(Photo: Marcelo Cortes/Flamengo)

人生を見直すほどの出来事

 実はコパ・ド・ブラジル決勝の日、ダビドにとってもう1つ、人生を見直すほどの出来事があった。試合会場のマラカナンに来る予定だった妹一家が、途中で交通事故に遭っていたことを、試合終了後に知らされたのだ。

 車が8回も横転しながら40m下に落ちるという大事故にも関わらず、幸運にも全員が軽傷で済んだ。しかし、衝撃的な事故現場の写真を見た彼は、自身の運営するSNSにある言葉を投稿した。

 「僕は考えた。今この瞬間を有意義に生きなければならない。ハグをすることや、愛していると言うことを忘れてはいけない。時には、自分の愛する人たちにお別れを言うチャンスも持てないことだってあり得るんだから。できるだけシンプルに、そして幸せに、人生を生きていかなければ」

 このコパ・ド・ブラジル優勝を「僕の人生でも最も特別な瞬間の一つ」と語っていた彼にとって、色々な意味で忘れられない1日となった。自分の人生を振り返り、クラブでもプライベートでも周囲の人たちを思いやりながら生きるダビド・ルイスの挑戦は続く。


Photos: Marcelo Cortes/Flamengo, Gilvan de Souza/Flamengo

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ダビド・ルイスブラジル代表フラメンゴルイス・フェリペ・スコラーリ

Profile

藤原 清美

2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。

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