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“一流選手ではなかった”青年監督、ボーンマスをどん底から救う

2022.09.11

 プレミアリーグ開幕からわずか25日で監督を解任したボーンマス。リバプールに「0-9」という歴史的大敗を喫し、指揮官を失い、どん底まで落ちたチームを立て直そうとしているのは“一流ではない男”だ。

 ギャリー・オニール(39歳)は“まあまあ”の選手だった。青年監督が増えたプレミアリーグとはいえ、スティーブン・ジェラードフランク・ランパードパトリック・ビエラミケル・アルテタなど、若いうちからチャンスをもらえるのは“元一流選手”に限られる。凡人たちは、指導者としてキャリアを積み重ねなければプレミアリーグで指揮するチャンスなど回ってこないのだ。無論、1つだけ例外がある。そして、その例外によってチャンスをつかもうとしているのがオニールだ。

 ボーンマスでコーチを務めていたオニールは、スコット・パーカー監督の解任を受けて暫定監督を任されることになった。そしてチームの連敗を3でストップさせ、今では後任候補の1人に名前が挙がっている。そう、オニールは「前任者の解任による棚ボタ」という唯一の例外で、39歳にしてプレミアリーグの監督に就任する可能性が出てきたのだ。

現役時代から監督業を意識

 もちろん、オニールを「凡人」呼ばわりするのは失礼な話だ。MFとしてポーツマス、ミドルズブラ、ウェストハムなど様々なクラブを渡り歩いてプレミアリーグで通算251試合に出場した。ポーツマス時代には「16歳8カ月12日」でデビューし、昨年ジョー・ハンコットに破られるまでクラブ最年少出場記録を保持していた。その後も年代別イングランド代表に選ばれるなど順調にステップアップを果たしたが、最終的にA代表やUEFAチャンピオンズリーグといった大舞台とは無縁のキャリアに終わった。

 「リバプールといったクラブでプレーするほどの実力はなかったのさ。ジェラードと対戦した時は、止めるのがほぼ不可能だったしね」とオニールは選手キャリアを振り返ったことがある。だが、“一流”ではなかったからこそ学べた経験もある。何度も残留争いに身を置き、2部リーグでの経験も豊富だ。実際に、3回も2部リーグからプレーオフ経由でプレミアリーグ昇格を果たしているのだ。

 そして、だからこそ早いうちから監督業も意識し始めた。20代の頃から指導者の道に進むことを視野に入れ、様々な監督から指導法を学び、コーチングライセンスも取得した。イングランドフットボール界の“ご意見番”のような個性的な監督の下でプレーしたことも、彼を指導者の道へと誘ったのだろう。「これまで指導を受けたすべての監督から少しずつ良い部分を吸収した。ハリー・レドナップ、サム・アラダイスなど、素晴らしい監督の下でプレーできたからね」と、オニールは地元紙に語っている。

 現役引退を余儀なくされた時も迷いはなかった。2018-19シーズンに2部のボルトンでクラブ年間最優秀選手に選ばれる活躍をして、36歳ながら「まだまだこれから」というときにアキレス腱を断裂して現役生活に別れを告げることになった。それでも立ち止まることはなかった。『ナイキ』社と協力して、自分の息子もプレーできるサッカーアカデミーを設立。さらに、リバプールのU-23チームのコーチ職にも誘われたのである。

 こうしてビッグクラブでも経験を積んだオニールは、ミドルズブラ時代にチームメイトだったジョナサン・ウッドゲイトに誘われて昨年2月にボーンマスのコーチに就任。そしてパーカー監督の下でもコーチを務めて昨季はプレミアリーグ昇格に貢献し、今は暫定監督を任されているのだ。

ミラーゲームを仕掛け見事な逆転勝利

 初陣となった第5節のウォルバーハンプトン戦では、何とかゴールレスドローに持ち込んでチームの連敗をストップ。そして2試合目の指揮となった9月3日のノッティンガム・フォレスト戦では、0-2からの劇的な逆転勝利でチームに勝ち点3をもたらした。

 チームを率いて数日間で何かができるわけでもない。だからオニールだけの功績とは言えないが、監督としてやるべきことはやった。ノッティンガム戦は決して悪い内容ではなかった。それでもセットプレーとPKからゴールを許して0-2でハーフタイムを迎えると、オニールは後半から[4-2-3-1]を[3-6-1]に変更し、試合前から検討していたミラーゲームを仕掛けることに。ウルブズ戦での試合終盤にも取り入れた変更だ。

 すると51分、少し高い位置でプレーするようになったMFフィリップ・ビリングの強烈なミドルシュートが突き刺さり、一気に流れが変わった。そしてドミニック・ソランキのオーバーヘッドで追いつくと、途中出場のジェイドン・アントニーが87分に決勝ゴールを決めたのだ。

2点ビハインドから追いつき、ジェイドン・アントニーの決勝ゴールで見事な逆転勝利を飾った

 見事な采配での逆転勝利だったが、オニールは手柄を選手たちに譲った。「試合前から3バックは考えていたが、連戦のため練習時間も取れなかったので4バックのままにした」と地元紙に説明した。「ハーフタイムに、自分たちが考えていたことを試そうと決断したんだ。でも、システムがすべてというわけではない。どんなシステムだろうが、選手が信じてプレーしなければ意味がないからね。だから、これは選手たちのおかげだ。この2試合、選手たちは私のために燃料タンクが空になるまで走ってくれたよ」

 自分は暫定監督の仕事を全うするだけと語っていたオニールは、2試合で勝ち点4を稼いだ後、正式監督の座について聞かれると「素晴らしいクラブなので、話がくればもちろん検討する」と答えるにとどめた。

 ストップウォッチを首にかけ、積極的に声を出して選手たちを鼓舞する。今は練習場で選手たちを指導することが何より楽しいのかもしれない。チャンスさえもらえたら、“一流ではなかった男”は素晴らしい結果を残すかもしれない。


Photos: Getty Images

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ギャリー・オニールスコット・パーカースティーブン・ジェラードフランク・ランパードボーンマス

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。