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30歳になったウィルシャーの現在地…大好きなサッカーに没頭する日々

2022.03.18

 一時は“イングランドの未来”とまで称えられた元イングランド代表MFジャック・ウィルシャー(30歳)は、現在デンマークで生き残りをかけた戦いに身を投じている。

 昨年ボーンマスを退団してフリーとなっていたウィルシャーは、新天地を探しながら古巣アーセナルの練習に参加していた。そして先月、デンマーク第二の都市オーフスを拠点とするAGFと契約を結び、チームの「救世主」と期待を寄せられている。

厳しい環境で躍動

 AGFは現在デンマーク1部リーグで8位(12チーム中)につけている。残り1節となったレギュラーシーズンを7位以下で終えることが確定しており、シーズン終盤は生き残りをかけた“残留争いラウンド”に回ることになる。勝ち点差を考えると降格の心配はなさそうだが、昨季トップ4に入って欧州カンファレンスリーグの予選にも出場したチームからすると物足りない成績だ。

 ウィルシャーにとっても、脚光を浴びていたアーセナル時代とは別世界の環境に身を置いている。何もかも用意されていた世界最高峰のリーグとは違い、AGFでは遠征先のホテルで1人部屋は用意されない。そして、自分のスパイクは自分で手入れするという。さらに、ケガをしてもすぐにスキャンを受けられるわけではない。まずはフィジオが手探りで診断するそうだ。

 そんな環境でも、ウィルシャーはひたむきにサッカーと向き合っている。AGFでチームメイトのU-21デンマーク代表DFセバスティアン・ハウスナーは「すごい選手というだけでなく、本当にいい人なんだ」とスポーツ専門サイト『The Athletic』に語っている。

 「とても謙虚なんだ。そしてボールを持った際の落ち着きと視野の広さは、デンマークリーグでは滅多にお目にかかれないレベルなのさ。どんな状況でも、ボールを渡せば絶対に失わないんだ。最初に見た時は『マジか!』と思ったよ」

面談で見せた熱意

 そもそも、ずっとイングランドでプレーしていたウィルシャーがなぜデンマークにやってきたのか。それはイングランド代表時代の恩師がきっかけだ。

 若い頃からたび重なるケガに泣かされてきたウィルシャーだが、彼の才能にほれ込んでいた指揮官は少なくない。名将アーセン・ベンゲルが「ワールドクラスの選手になる」と言い続けてきたように、イングランド代表を率いていたロイ・ホジソン(現ワトフォード監督)も同選手のファンだった。EURO 2016では、シーズン中に3試合しか出場していなかったウィルシャーをメンバーに入れて批判を覚悟の上で起用したほどだ。

 そのホジソン監督の下で2018年から3年間もアシスタントとして働いていたのが、現在AGFのアシスタントコーチを務めるデイブ・レディントンなのだ。そんな縁もあり、レディントンは「急な話だけどウィルシャーと話してもらえないか?」とホジソンに頼まれ、同選手の獲得に動いたという。

 そして何度かアーセナルに問い合わせてコンディションなどを確認した後、本人とZoomミーティングの機会を設けた。そこでレディントンはウィルシャーの熱意に感心させられたという。

 「彼は特別扱いを嫌っていた。クラブの一員になることを望んだ。ユースチームの選手を指導することまで話し出したくらいさ。今は選手だけに専念してもらうが、いつかそうなったらいいね」

 ウィルシャーはAGFに加入した翌週にデビューを果たすと、3月13日のブレンビー戦ではスタメン出場。77分間、大好きなボールを追いかけ回し、首位チームを相手に1-1のドローゲームを演じてみせた。

 16歳で鮮烈なデビューを果たしてから14年。プレミアリーグのような華やかな世界とは違うが、ウィルシャーは今も大好きなサッカーに没頭している。


Photo: Getty Images

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Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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