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“スーパーマン”になれず…サウサンプトンの有望株が26歳で現役引退

2022.01.10

 今年の元日、サウサンプトンの生え抜きプレーヤーが短すぎるプロキャリアに終止符を打った。8歳からサウサンプトンに所属してきたサム・マックイーンが、26歳でスパイクを脱ぐ決断をしたのだ。

ハロウィンの日の悪夢

 左SBやMFをこなすマックイーンは有望な若手だった。アカデミー時代にはジェームズ・ウォード・プラウズ(現サウサンプトン)やルーク・ショー(現マンチェスター・ユナイテッド)のような代表選手たちと一緒にしのぎを削り、自身もU-21イングランド代表に選ばれた。そして2016-17シーズンに待望のプレミアリーグデビューを飾り、何もかも順風満帆に思えた。

 「何でもできると思った。プレミアリーグの舞台に立った頃、自分は“スーパーマン”だと思っていた」と、マックイーンはクラブ公式HPで自身のキャリアを振り返った。だが2018-19シーズン、経験を積むためにローン移籍した2部のミドルズブラで、彼のキャリアは急転することになる。2018年のハロウィンの日に悪夢を見るのだった。

 先発出場したリーグカップのクリスタルパレス戦で、マックイーンは足をひねって前半のうちに負傷交代する。「パチンという音がしたので、すぐに察した。前十字靭帯をやってしまったと」。復帰まで1年近くを要する大ケガとはいえ、決してこの世の終わりではない。当時23歳のマックウィーンはそう信じていた。だが、そこから本当の悪夢が始まるのだった。

 手術を受けた右膝に違和感を覚え、検査を受けると術後感染症が見つかり、再び手術を受けることになった。そして、その後も痛みが再発し、また手術を受けることに。最初の手術に問題があったようで、今度は左足の靭帯を移植する手術を行った。「2018年11月から2019年7月までの間に9回ほど手術を受けたんだ」

8年間でわずか56試合

 そこから復帰に向けての長い長い道のりが始まった。まずは術後の回復に努め、そしてリハビリを開始し、練習場に週6日は顔を出して復帰を目指した。肉体面だけでなく精神面も試される時期だった。落ち込んで後ろ向きな発言も増え、6カ月ほどカウンセリングを受けたという。それでも立ち直れなかったマックイーンに希望の光を与えたのは家族の存在だった。「パートナーの妊娠が発覚し、息子が生まれると知り、どうにかしようと思えるようになった」

 前を向いてリハビリに励んできたが、再びピッチに立つ日は訪れなかった。「走れない時間があまりにも長すぎたので、体力が著しく低下し、少しでも練習に参加すると肉離れを起こす体になってしまった。そして膝も耐えられない状態なんだ。たとえ復帰しても、長いことプレーするのは無理だと言われてしまったのさ」

 マックイーンは決心を固めた。サウサンプトンとの契約満了に伴い、プロ生活に別れを告げたのである。8年間でわずか56試合というプロキャリアだった。それでもマックイーンは胸を張る。「子供の頃はUEFAチャンピオンズリーグ出場を目指していた。でも今は、自分の功績を誇らしく思える。プレミアリーグの舞台に立ち、(UEFAヨーロッパリーグで)インテルと対戦したことを、いつか笑顔で振り返れるだろう」

ELでのインテル戦を「いつか笑顔で振り返れるだろう」と語ったマックイーン

「世界は自分の思いのまま」

 ケガの苦しい経験から学んだこともある。元気な時はただ練習するだけだったが、長いリハビリ期間を経て、それまで以上にクラブの一員になれたというのだ。選手やスタッフとの会話も増え、みんなのことを知ることで「自分も強くなれた」という。

 だから若すぎる引退も怖くなかった。「これからの人生を最大限に生かそうと思う。どんなことだって可能なので、今はワクワクしている。ここでフットボール人生が終わるのは悲しいが、世の中にはたくさん選択肢がある。家族とともに満喫しようと思う」

 挫折を知り、夢を断たれ、自分が“スーパーマン”ではないことに気づかされた。それでもマックイーンは立ち上がり、みんなに支えられて前を向いた。

 「The world is my oyster(世界は自分の思いのまま)」。引退時にそう言い切ったマックイーンこそ、真のスーパーマンのように思える。


Photos: Getty Images

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インテルサウサンプトンサム・マックイーンルーク・ショー

Profile

田島 大

埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。

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