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ドルトムントの最終意思決定者。ツォルクが語る好調の表と裏

2019.04.04

Interview with
Michael ZORC
ミヒャエル・ツォルク (ドルトムント SD)

王者バイエルンと激しいマイスターシャーレ争いを演じているドルトムント。今シーズン好調の要因とされる指揮官ルシアン・ファブレの手腕や成功した補強の方針、そしてここ数年の停滞を受け断行したフロント改革について、 ドルトムント一筋40年超にして意思決定者を担うクラブの“生き字引”ミヒャエル・ツォルクが明かす。

指揮官ファブレの評価

彼は自らを発展させ、最新のサッカーを取り入れている


── トーマス・トゥヘル時代のDFBポカール制覇のような成功もありましたが、ここ数シーズンのチームはずっと落ち着きませんでした。練習参加を拒否する選手がいたり、内紛があったり、チームバス爆破事件があったり。ルシアン・ファブレの到来とともに、難しい時期を乗り越えられたと言えるのでしょうか?

 「トーマス・トゥヘル指揮下の1年目は勝ち点78と上出来でした。2年目にはタイトルも獲りました。ただ、そこへ至るまでには問題があり、それが監督解任に繋がったわけですが。その次のシーズン(17-18)、私たちは“危機”にありながらも再びCL出場権を得ました。特にこのシーズンから、私たちは重要な結論を出すに至り、具体的な修正と刷新を行うことになったわけです。昨シーズンの最終節のように、ホッフェンハイムのベンチに座りながら自分たちでは何もできず、レバークーゼン対ハノーファーの結果を気にしているという状況はもうこりごりなのです」


── 今はその正反対を経験されていると思います。チームはいかなる逆境においても正しい答えを持っているように見えます。どうしてでしょうか?

 「その理由を見つけるのは、実はまったく難しいことではありません。単にチームのバランスがずっと良くなったからです。昨シーズンはちょっとした逆風でも勝利の道から外れてしまっていましたが、今のチームはいくつかの補強により別のメンタリティを備えています。そしてもちろん、監督の役割は決定的です。ルシアンはチームに、初日から明瞭な哲学を伝えて、彼のサッカーを確信させました」


── ファブレはボルシアMG時代より自信を持っている印象を受けます。当時は自分自身とチームに疑問を抱くことがあったようですが。それについては?

 「私が気づいたのは別の変化です。ボルシアMG時代の彼を外から見て、繊細なタイプだと思っていました。ですが今、ドルトムントでのルシアンはフィジカル、走行値、身体的フィットネス、量感を大切にしています。これには驚きました。彼は自らを発展させ、最新のサッカーを取り入れているのです。感心しましたよ!」


── ファブレは今でも感情的ではありますが、ヒステリックなのではなくいい意味で情熱的です。よくあなたの首に抱きついているのを目にします。彼とはよく理解し合うことができているのですか?

 「私は、彼がヒステリックだとはまったく思っていません。ドルトムントでのことしか言えませんが、ルシアンと私はどんなサッカーを見たいかという点で似た考えを持っています。とても付き合いやすく、チャーミングで誠実、そして温かい。彼とはとてもオープンで建設的に話をすることができますし、時には議論することもできます。それは、私が期待していることでもあります」


── そして今、ドルトムントはしっかり首位に定着し、ファンたちは優勝すると歌っています。今季のチームにはバイエルンよりも良い選手がそろっているという意見に反論はありますか?

 「あなたはそう評価しているかもしれませんが、私は常々、両チームを比べるのはあまり意味がないと思っています。それは私に、お隣さんが自分より大きな車を持っていると言って羨ましがる人を思わせます。私はそういうふうには考えません。長期的に見れば、金銭的な投資と成功の間に関連性があるのは確かです。しかし重要なのは、ドルトムントにとって最善のことをすること。これに尽きます」


── ただ、サッカーにはタイミングとサイクルという要素があります。今のバイエルンは若手、タレント、経験、ハングリーさのバランスが取れたドルトムントを、羨望の眼差しで見つめる隣人であるかのような印象があります。

 「リーグ史上初の6連覇を遂げている彼らがそんなふうに私たちを見ているかは、私にはわかりません。ただ、彼らが今、若手タレント市場をつぶさに観察しているところだとは感じています」


── そういう状況におけるバイエルンのこれまでのリアクションはと言うと、ライバルの一番いい選手を買い上げることでした。ドルトムントもゲッツェ、レバンドフスキ、フンメルスで経験済みです。現在のドルトムントはそうした“ライバルチーム漁り”に対して、以前よりもうまく対処できていますか?

 「私はそれを、他クラブと関係づけて考えるつもりはありません。自分たちで物事を決めていきたいのです。これからも、契約満了による避けられない移籍はあるでしょう。しかし基本的には、このチームの核となる部分、主力選手たちに関してはしばらくキープできそうですし、さらに強化していくつもりです」

試合後、ロイスと握手を交わすファブレ(左はバイグル)

有望な若手が集まる理由

うちでは18、19歳の選手が非常に大事な試合でもプレーしている


── 他のビッグリーグでほとんど経験のない若手に、比較的高額の投資をする勇気をお持ちだと思います。このやり方は、リスクを伴うものだと感じていますか?

 「ええ。でも私たちは、意識的にその種のリスクを取っています。特別な才能を備えたトップ中のトップのタレントを非常に早い段階で獲得するのは、深い確信があってこそです。そのポテンシャルを見極めるためには、時に“ファンタジー”が必要になります。ただ、私たちはここ5~10年間、スカウティングでいい仕事をしてきました」


── 人気株であるダン・アクセル・ザガドゥやジェイドン・サンチョのようなティーンエイジャーが、ドルトムントを選ぶことが多いのはなぜでしょう?

 「ショーイベントのような(競技面以外の)要素で説得する必要がないからかもしれません。私が最も好む説得材料は記録です。そこに真実があるからです。それを見れば、うちでは18、19歳の選手が非常に大事な試合でもプレーしていることがわかります。選手たちのために、誠実なプラットフォームを作らなければなりません。そうでなければ、彼らは来ません。ドルトムントを指揮するのであればザガドゥやサンチョ、アクラフ・ハキミ、ヤコブ・ブルン・ラーセンにプレーさせることを恐れてはいけないのです」


── 現在、世界のベストタレントの中にはフランス語を話す選手が多いです。ドルトムントではザガドゥ、ハキミ、アブドゥ・ディアロなど。ファブレ監督もそうですね。フランス語を話すグループがあるのは有利ですか?

 「それは助けになります。特に、ルシアンがフランス語を話すということは。ですが、あまり喜ばしくない側面もあります。私たちはドイツのクラブとして、ドイツ人のタレントを最大限に育てようと常に努力していますが、現在は正直なところ、興味深いフランス人が2人いるところに、ドイツ人が1人いるという状況です。イングランド人とスペイン人も2人です。私たちは再び育成に力を入れなければなりません。さらに言えば、私たちに限らずドイツサッカー全体がこれから取り組んでいかなければならない課題です」


── ドイツではおそらく最も名高いスカウト、スベン・ミスリンタートがクラブを離れて2年近く経ちました。中長期的に見て、国際市場におけるタレント探しが難しくなるという恐れはないですか?

 「後任のマルクス・ピラバが、非常に高いレベルでその仕事を引き継いでくれています。スベンとマルクスは一緒にいい仕事をしていました。スベンが去った穴を、内部で埋めることができたことを誇らしく思っています。ただ、スカウティング部門全体の仕事は、一人の人間に集約できるようなものでは決してありません。例えば、ウスマン・デンベレ(現バルセロナ)の獲得を決めるまでに、複数の人間が12回ほどチェックしています。選手のスカウティングは常にチームワークです」


──O.デンベレは素晴らしい選手ですがちょっと浮ついたところがあり、多くの騒ぎを起こしました。監督にはコントロール不可能だったのでは?

 「今、世界最大のクラブの一つであるバルセロナでプレーしていても、少しばかり秩序に欠けるところが出ているようです。そうした行いの原因がここドルトムントの環境によるものだったわけではないということがわかって、ホッとしていますよ(笑)」


── 問題児だったO.デンベレがいなくなった後も、チームには規律面の問題がありました。この手の問題はどのようにしてチームに“忍び込む”のでしょうか?

 「チームが勝っていれば、ある程度の秩序のなさは議論のテーマになりません。反対にうまくいかない時には、すぐにそれが強調されます。そうこうしているうちに、負のスパイラルに陥ってしまうのです。ストライキをする選手(O.デンベレ)がいたかと思えば、もう一人は時計を持っていないかのようでした(オーバメヤン)。とはいえ、オーバが問題になったのはここでの最後の数週間だけです。彼は長い間、常にトップパフォーマンスを見せてくれましたし、最も練習時間の長い選手でもありました」


── そのオーバメヤンも移籍しました。彼の流失はチームを長期的に弱体化させるだろうと思われました。ですが、どうやらあなたにはFWを獲得する特別に優れた勘があるようですね。

 「本当に良い9番(CF)を獲得するのは非常に難しいんです。移籍市場で最も求められるポジションであり、とんでもない金額が動きますからね。私たちはアレクサンダー・フライ、ムラデン・ペトリッチ、ルーカス・バリオス、ロベルト・レバンドフスキ、オーバメヤンなど、このポジションの優れた選手を獲得してきました。とはいえ、いつも完璧に見通せるわけではもちろんありません。かなりの部分は勘です。集中したスカウティングと多くの人間の目によって、その選手がチームや監督、他の攻撃の選手たちと合うかどうかを見分けるのです」


── 昨夏はFWを見つけられないかと思いましたが、市場が閉まる直前にパコ・アルカセルをレンタルで獲得。目覚ましい活躍を見せ、冬には買い取りオプションを行使しましたね。

 「パコのことは、バレンシア時代やユース代表の頃からチェックしていました。ただその後、バルセロナに行ったので私たちの視界から一度は外れました。普通なら、私たちがバルセロナから選手を獲得したりできませんから。でもある時点で、獲得が可能かもしれないという情報を得て実現にこぎつけたのです」


――彼は加入直後から驚異的なペースで得点を重ねましたが、負傷もあって先発メンバーに入ることは多くありませんでした。ブンデスリーガでかかる負荷と恒常的に付き合えることがはっきりしてから買い取りオプションを使った方が良いとは考えませんでしたか?

 「ここ数カ月、いろいろなクラブがレンタル終了後にパコを獲得したいと興味を示していました。ですが、あの時点で状況はクリアでした。クラブとの一体感やプライベートのプランという意味で、レンタルとそうでないのとでは、選手にとってまったく違います。だからこそ、オプションをこんなに早く行使したんです」

出場したリーグ戦ここ3試合で4ゴールと絶好調のパコ・アルカセル。6日に控えるバイエルンとの首位決戦でも活躍なるか


── キャラクターが強くチームを安定させているウィツェルやデラネイといったピッチ内の補強と並行して、セバスティアン・ケールのためにライセンス部門長という新しい役職を作りました。さらに、マティアス・ザマーを相談役として連れて来ました。彼らの仕事にはどのような価値があるのでしょうか?

 「アキ・バツケCEOと私は昨シーズン、過去の成功体験にいつまでも囚われていてはいけないという認識に至りました。新しいインプット、新しい刺激を欲していました。そして、変化するためには専門知識と人格が必要だと考えたのです。ただその際、ある程度距離を置いて歯に布着せず意見してもらうことも大切だと考えていました。そこにマティアスが入ったことでうまくいっています。いつも、事務所やレストランで4人で会って話をしています。アキ・バツケ、セバスティアン、マティアスと私です」


── プロサッカーの世界で、自ら権力を譲る人はちょっと珍しいと思うのですが。

 「私たちは明確な線引きをしています。外にいるマティアスに忌憚のない分析をしてもらい、セバスティアンにはチームの日常的な仕事の一部を担ってもらっています。私一人では時間的に無理でした。ただ、強化に関しての最終決定は私が下します。サッカーでは、草の根民主主義は機能しません。4人の間でもよく議論を戦わせますが、最後には私が判断し、決定を下さなければいけません」


── ザマーはバイエルンでペップ・グアルディオラと仕事をしていましたが、その知識や印象を持ち込んだりしませんか?

 「そういったことはありません。私はマティアスを20年前から知っています。チームメイトとして成功を手にし、スポーツディレクターと監督という関係で一緒に仕事をしてタイトルを掲げました。彼の専門知識を高く評価していますし、お互いをリスペクトし合っています」

Michael ZORC
ミヒャエル・ツォルク (ドルトムント SD)

1962.8.25(56歳) GERMANY

ノルトライン・ベストファーレン州ドルトムント生まれ。現役時代は地元ドルトムント一筋のプロキャリアを送り、17シーズンで600試合以上に出場。2度のブンデスリーガ制覇や96-97のCLなど5つのタイトルを獲得した。ドイツ代表としても通算7試合に出場している。98年に引退するとすぐさまスポーツディレクターに就任。00年代前半には財政危機に陥ったクラブの立て直しに奮闘、10-11、11-12にブンデス連覇を果たすなど強豪への返り咲きを実現してみせた。

Photos: Bongarts/Getty Images
Translation: Takako Maruga

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SDドルトムントミヒャエル・ツォルク

Profile

ダニエル テーベライト

1971年生まれ。大学でドイツ文学とスポーツ報道を学び、10年前からサッカージャーナリストに。『フランクフルター・ルントシャウ』、『ベルリナ・ツァイトゥンク』、『シュピーゲル』などで主に執筆。視点はピッチ内に限らず、サッカーの文化的・社会的・経済的な背景にも及ぶ。サッカー界の影を見ながらも、このスポーツへの情熱は変わらない。

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