FEATURE

世界中の情報がマリノスにシティ流強化メソッドがもたらしたもの

2019.07.17

横浜F・マリノス好調要因の1つに補強の成功がある。Jリーグでプレー経験のなかったエジガル・ジュニオや、マルコス・ジュニオールなど獲得する選手が軒並み活躍。日本人選手においても昨シーズン途中に獲得した畠中槙之輔は日本代表に選出されるまでに成長するなど目覚ましい活躍を見せている。そうした背景にはシティ・フットボール・グループ(以下、CFG)の確かなバックアップが存在した。

この度、チーム強化を統括するスポーティングディレクター(SD)の小倉勉氏と、今シーズンより小倉氏のサポート役として就任した原正宏氏に話を伺った。CFGと提携することによって得られる情報、ノウハウ。そして、目指す未来とは……。

CFGを通じて世界の常識、情報に触れる


――CFGが入ってわかりやすい結果が出るまで5年という歳月が必要だったのかと外から見ていて感じています。実際にクラブの方たちはCFGが入ってどう適応していったのかを伺いたいのですが、最初は苦労されましたか?

小倉「私は5年間を振り返るには難しい立場です。なぜなら私は3年前に(マリノスに)来たので。英語が堪能な原を呼んだのも今年。ただやはり言えるのは、結果を出すためには相応の時間を掛ける必要があったということ。そして、それはCFGに限ったことではなく、サッカーがクラブに定着していくということはそういうものなのかなと思っています。

 少し前から振り返ると、エリック・モンバエルツが監督を務めて、その次にアンジェ・ポステコグルーが監督に就任しました。アンジェは去年の経験があってこそ今年の(チーム力の)積み上げがあります。ただ、(アンジェ・ポステコグルー監督就任前の)過去3年間も重要だということ。その経験をふまえて彼にオファーをしている訳で、クラブとして積み上がっているものも確実にあります。1番大事なのは継続。人が入れ替わることは悪いことではないと思うのですが、入れ替わりながらもクラブとしてぶれずにひとつのものが続いていく。そういう(クラブの)幹と呼べるものがしっかりと存在しなければいけない。結果で評価され、人の流動性が高い世界だからこそ、マリノスを幹のあるクラブにしていきたいと思っています」


――日産時代から伝統のあるクラブで、そのようなベースがありつつも、CFGが入ってきて、その幹に変化があったと思います。特に攻撃的なサッカーをCFGが掲げているところで、幹の変化は具体的にどういうところにありましたか。

小倉「変化というより、新しいものにトライしていくという感じですね。人材の変化もあればサッカーの変化もあります。新しいものが来たら、それを受け入れるところもあるし、逆に受け入れられないところもある。サッカーの世界で僕がよく言うのですが『日本の常識は世界の非常識、世界の非常識は日本の常識』というのは多々あります。彼ら(CFG)は当たり前だと思っている世界の常識が日本では『日本のやり方があります』となってしまう。そういう中でお互いが歩み寄ったりせめぎ合ったりっていうのが、本当にうまく行われるようになってきたのがここ1、2年。擦り合わせが明確になりました」


――海外の文化をCFGが持ってきた。それに適応するのに双方時間がかかったっていうところですかね?

小倉「強化部の僕ら以外にもクラブにはたくさん人がいますので、苦労された方もいたと思います。『5年かけてこうなりました』と言うのは簡単ですが、色んな苦労があったのではないかと」


――3年前に小倉さんがマリノスにいらっしゃった際の動機を教えて頂けますか?

小倉「元々、僕が興味を持ったのはCFGとマリノスの関わり。なかなか日本にいて世界を体験するというのは難しいことですから、それを体験したいと。(シティ・フットボール・ジャパン代表の)利重さんに話を聞いてみると『CFGを通じて世界の常識、情報にリアルタイムで触れることができますよ』と。元々Jリーグでコーチや監督をやっていたのですが、ACLに出ないとアジアや世界を意識するのは難しい。でも、マリノスに来ればそういうものがあるのではないかと思いました」


――実際マリノスに入ってみてCFGのやり方に衝撃を受けたみたいなことはありますか。

小倉「それは私が話すより、まだ新鮮味が残っている原が話したほうがいいですね」

「例えばマリノスに来る前までシティのイメージはヨーロッパでした。それなのになぜこんなにもブラジル人選手を獲っているのかシンプルに興味がありました。それはCFGが南米も含めた世界中の選手の情報を集めるためのスカウト網を持っているから。世界中に60人程度のスカウトが存在しています。そこから吸い上げた情報のデータベースが我々マリノスにもシェアされています」


――それは非常に大きなメリットですね。

「例えば、とある能力の高い選手がいて、でもまだマンチェスター・シティのレベルには達していない。そういう選手の情報をシェアしてもらえます。どれくらいの金額感なのか、その選手が海外に出たがっているのかどうか、またはクラブが売りたがっているのかどうかなど、そういう情報も含めてもらえます。普通のJリーグのチームがブラジル人を取ろうとした場合、代理人を通してや、スカウトが直接交渉するという方法だと思うのですが、僕たちの場合はそれをCFGとできます。それも南米だけではなく、ウーゴ・ヴィエイラとダビド・バブンスキー、ドゥシャン・ツェティノヴィッチなど他の地域の選手の情報も入ってきました。世界中にサッカー選手がたくさんいる中でマリノスの場合、まずはCFGが膨大な選手情報集めをやってくれるのです。そのデータベースのアドバンテージはかなり大きいですよね。CFGはそれを日本でもやろうとしていますから」


――とういうのは、日本の選手のデータベースもCFGが作っているということですか。

「基本的に映像ベースで日本のJ1、J2、J3の選手情報を持っています。また、日本の世代別代表の情報も持っています。ただ試合を生で見ているわけではないので、僕や小倉さんを通して日本の生の情報も集めています。CFGは映像だけでなく生の情報も大事にしていますね」

小倉「今やCFGだけではなく、多くのクラブが先日のトゥーロンやU20ワールドカップにもスカウトを派遣していました。日本の世代別代表の情報は多くの欧州のクラブが持っています。ただ、その情報をどのようにシェアしていくのか。そのシステムや仕組みの面ではCFGはグループとしてやっている強みがありますよね。情報の精度も高まります」


――膨大な選手情報から今のマリノスのスタイルに適合する選手を選べるというのは、代理人とのつながりだけでやっているクラブとは大きな差になりますね。

小倉「ただ勘違いしてほしくないのは我々が代理人を軽視しているわけではないということ。選手獲得の際には代理人と交渉する訳で代理人がいなければ成立しません」


――そのデータベースがあるからと言って良いのか、今シーズンはエジガル・ジュニオ、マルコス・ジュニオールなど外国籍選手の補強も大当たりですよね。

「日本ではよく外国籍選手の補強に関して、『当たり、外れ』という表現が使われますが、我々はそういう言い方はしません。我々はギャンブルしているわけではなく、情報を集めて精査して、自分たちのスタイルにあう選手を選んでいるので。だから当たる、当たらないとは違いますね」

小倉「外国籍選手は日本の市場規模で考えれば決して安い買い物ではないですよね。だから当たり外れではなく精度を高めていきたい。日本の場合『日本のクラブで活躍した外国籍選手はハズレない』ということで日本の他クラブから外国籍選手を獲得するというのが多いですよね。当然それは精度が高くなります。でもそのぶん移籍の際にかかるコストが高くなります。マリノスが獲得している選手は、そういう選手と比べれば安い金額になりますね」

CFGを通じて世界の常識、情報に触れられることへの興味を語る小倉氏

CFGにマリノス専属のコンシェルジュがいる


――先日5月上旬にCFGのミーティングで、皆さんマンチェスターに行かれたとお聞きました。どのような内容だったのでしょうか。

小倉「CFGでは半年に一度、ベストプラクティスの共有を目的として、世界各国のマネージャークラスが一堂に会する機会を設けています。日本からは今回、レギュラーメンバーの利重さんに私と、原が加わり3人で参加してきました。CFG各クラブ(マンチェスター、ニューヨーク、メルボルン、ジローナ、トルケ(ウルグアイ)、マリノス)の、サッカー部門であればSD(スポーツディレクター)クラス、事業側であればCEO、そしてセールスやマーケティングなどの部門責任者が集まって、普段はメールや電話中心にコミュニケーションを取っている者同士、一週間直接顔を合わせて話をするわけですね」


――どのような意見交換をされたのですか?

小倉「まず各クラブ個別のセッションがあります。マリノスとジローナ、マリノスとニューヨーク、マリノスとメルボルン、マリノスとシティというような感じです。シティのチキ・ベギリスタインともセッションしましたよ。あとは分科会的にSDだけのミーティング。各クラブであった問題点を共有したりします。『こういう選手を獲得したけどうまくいかなかった』『成績が悪くて降格しそうだ』とか、かなり生々しい話です(笑)。CFGがバックアップしているクラブが全て成功しているかというと、そんなことはないですよ。ジローナとトルケは残念ながら降格しました。マンチェスター・シティは一番結果が出ています。一番長くCFGグループのノウハウを実践していますから当然ですね。そのほかのクラブはまだそんなに時間が経っていません。マリノスもまだ5年です。

 サッカーの内容は、(CFGの)全クラブがペップ(・グァルディオラ)みたいなサッカーをやっているわけでもありません。マリノスは似ていますが、スタイルのコピーを強制されるわけではないです。ジローナもメルボルンも良い意味で全然違うサッカーをしています。ニューヨークはペップの右腕が昨年からニューヨークに行っているので、近いサッカーをやっています。なるべくグループ各クラブの試合を見るようにしていますが、監督や選手によって目指すサッカーは変わっています。だから今マリノスはポステコグルー監督がCFGに言われたサッカーをやっているわけではないのです。彼はキャリアのなかで色んなクラブで今のサッカーをやっていました。我々もポステコグルー監督のサッカーを知っていたので、クラブとして彼に監督をお願いしたわけです」


――しかし、CFGは攻撃的サッカーをやるという哲学はありますよね。

小倉「哲学はもちろんありますが、サッカーは監督と選手でやるものですからね。CFGのトップであるフェラン(・ソリアーノ)から言われたのですが、『色んな情報を供給するけど、最終的に決めるのは各チームのCEOや、プレジデント、監督、SDですよ』と。CFGグループは強制しない」


――マリノス側にも裁量があるのはいいことですね。

小倉「各リーグによって事情は違いますから当然ですよね。例えばMLSは外国人枠を売ることができます。『私のクラブは自国選手だけでチームを組織するから、外国籍選手枠をほしいクラブにはお金で売っちゃいます』というクラブも存在する。アメリカらしい発想ですよね」


――ところで、マリノスからは先日、久里浜の新トレーニング施設について発表がありました。

小倉「そうですね。実はCFGにはそういう施設を作るだけの専門家もいます。その方がまた結構語る人で。全SDがいる中で『あれがなきゃダメだ、これがなきゃダメだ』と厳しくて(笑)。サッカーの戦術論や技術論をやり取りするだけじゃなくて、我々が今まで思い浮かばなかったような情報をもらえるのがCFGの大きいメリットですよね。」


――原さんはそのミーティングに出てどのような感想を持ちましたか。

「まずミーティングに行ったときの歓迎が凄かったですね。過去、Jリーグのクラブが行ってきたクラブ提携とは全く違う関係性だと思いますね。むこうから『何に困っているんだ?』というスタンスで、コミュニケーションレベルが違います。マリノス側からアクセスさえすればCFG側には情報はいっぱいあります。何をやりたいかをこちらが明確に持っていれば、それを助けてもらえる感じです。CFGにマリノス専属のコンシェルジュみたいな人がいて、その人に『俺に話してくれれば問題を解決するよ』と言ってもらっています。試合分析においても、CFG側にシーズンを通してマリノスのためにリソースを割いてくれる人がいますからね」

原氏はCFGにはマリノス専属のコンシェルジュがいると語る

CFG間での選手のやりとりと育成


――今後選手の行き来などグループの中で活性化しそうな雰囲気はありますか?例えばシティのU18やU23の選手が日本にやってくるようなことは。

小倉「可能性はゼロではないですよ。ただシティの選手たちはご存知の通りみんな(値段が)高いので。うちがシティくらいの予算を持てれば可能性は高くなりますね。ただ、シティだけでなくニューヨークもあればメルボルンもあります。向こうの選手が来るパターンだけではなく、逆にうちの選手が(CFGのクラブ)行って経験を積んでくることもありうると思います。ニューヨークやメルボルンに行って経験を積んで戻ってきて、今度はジローナに行って、そこからヨーロッパのより大きいクラブに行くようなことは実現できればいいなと思います。そのためにマリノスの選手も英語やスペイン語を勉強しなければいけない。行った先で言葉も文化も分からなくては受け入れる側も難しいですよ。それはCFGからも言われています」


――マリノスも言葉を含めてインターナショナルになることを求められているのですね。

小倉「例えば椿直起は英語でコミュニケーションを取りながらリハビリメニューに取り組んでいましたし、ユースやアカデミーの選手も、将来海外でプレーしたいという選手には英語の重要性を伝えています。英語がある程度できるようになったら1回留学のチャンスを与えることを考えています。英語ができれば代表チームに行った時でも必ず役に立ちますし、海外で試合をすることが全然苦じゃなくなると思いますよ。海外で長く活躍するというのは語学が本当に大事ですよ。長谷部誠、吉田麻也、川島永嗣はみんなその国の言葉が話せる。言葉ができれば海外で指導者ライセンスを取って海外で監督、指導者にもなれます。彼らがよく言っているのは、もっと下の年代の頃から言葉を身に着ける必要性。日本ではそういう話があまり語られないですが、非常に重要なことだと思います。戦術論や生活の話ばかりがフォーカスされているので、語学の重要性ももっと議論されていいと考えています」


――マリノスのアカデミーで英語を教えるようになるのでしょうか。

小倉「そうですね。英会話教室と提携するなど、そういう話が進められればいいなとクラブ内でも話しています」

「去年もノルウェーの1部にマリノスから2選手を短期留学に送りました。いい経験を積めたのですが、もし自在に言葉を喋れたら、もっとチャンスが広がっていたと思います。経営サイドではそういう問題認識があるクラブもあると思うのですが、強化サイドでこれだけ語学について高い問題認識を持っているクラブはあまりないと思いますよ」

小倉「シティには『パーソナルエリートプログラム』という、若い選手をどうやって海外に輩出するかという部署があります。海外だけでなく国内でもいろんなチームに行かせて経験を積ませる。さらにCFGは同じグループだけでなく、提携クラブというのもいっぱいありますから選択肢も多いです。マリノスの若手にもそういう提携クラブが受け入れてくれるという話がたくさんあります」


――7月27日にシティとの試合になります。ある意味本家と戦うみたいなところですが、強化部としてこの試合をどう捉えていますか?

小倉「まず勝ちにいかないとダメですね。相手はプレシーズンですし、勝つチャンスはあると思います。選手たちはそれくらいの気持ちでやってほしい。こちらはシーズン中でコンディションが良いわけだから、ただの練習試合ということではなく、勝ちに行く。(ペップ・)グアルディオラに、マリノスの選手を欲しいと言ってもらえたら、こちらとしてもありがたいですよ。お金ががっぽり入ってきますからね(笑)。半分冗談ですが『練習参加させてほしい』みたいな話の可能性はなくはないでしょう。こちらはシーズン中だとちょっと困りますが(笑)。そのためにも勝ちに行って良い試合をしないと。3、4点取られて負けたチームから選手を欲しいとは思わないでしょう。CLを見ていても、対戦相手で活躍した選手を翌年獲得しにいっていますからね」

「私としてはまず今回の試合でマリノスとCFGは着実に関係を築いていることが伝わってほしいですね。もちろん選手が行き来するのはわかりやすい関係性の良さの現れだとは思うのですが、18歳、19歳の選手がメルボルンにいきましたとか、そういう交流だけではなく、シティと試合をしてCFGの中でも、また日本国内でもマリノスの価値が上がってほしいと思っています」

チーム強化を担当する小倉氏(左)と原氏(右)


Photos: Ryo Kubota

Profile

MCタツ

1980年、ニューヨーク生まれ。株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会もする。湘南ベルマーレの水谷尚人社長との共著に『たのしめてるか。2016フロントの戦い』がある。