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ロシアW杯総括:日本の光明と「属人的なゲームモデル」の限界

2018.07.17


 国の威信を背負う選手たちが心身の限界へと挑むフットボールの祭典・W杯は、長い期間を費やしたチーム作りの集大成となる。

 EURO2016王者ポルトガルを倒し、ベスト8でフランスに惜敗したウルグアイのオスカル・タバレス監督は、2006年に就任してからの12年間をチームへと捧げている。しかし彼らのように継続的な強化を目指す中堅国もあるが、結果に左右されてしまうフットボールにおいてウルグアイのように指揮官に信頼を寄せ続けることを選ぶ国は少ない。

 サー・アレックス・ファーガソンが退いたマンチェスター・ユナイテッドのように、クラブでも長期政権は難しくなっている。監督を交代しながら異なったスタイルをチームに植えつけることで、結果を模索するアプローチは珍しくない。日本もヴァイッド・ハリルホジッチを大会直前に解任し、代役として西野朗を就任させた。

 2010年W杯では岡田武史氏が厳しいプレッシャーの中チームを導いたように、西野監督の双肩には凄まじいプレッシャーが襲いかかったに違いない。チームのスタッフも刷新される中「3バックを検討している」という報道もあったが、結果的に多くの主力選手が慣れている4バックを選択したのは英断だった。戦術に固執せず、現状の主力に適合する形を選択したことは鹿島アントラーズで活躍するCB昌子源の好パフォーマンスにも繋がった。


10人の相手を攻略できず、苦戦したコロンビア戦。

 序盤に中盤の要カルロス・サンチェスが退場したことで、ピッチ上での数的優位を得ることになった日本代表。だが、コロンビアの堅牢な[4-4-1]ゾーンに苦しめられることになる。

 前線にラダメル・ファルカオを残し、中盤が引いてくるMFを積極的に迎撃する「鎖のように連動した」守備を前に、ラインの間で受けることが得意な香川真司は沈黙。焦って縦パスを狙ったところを奪われ、一気にショートカウンターを浴びる場面も少なくなかった。

コロンビア代表の最多得点記録保持者ファルカオ

 コロンビアの指揮官ホセ・ペケルマンは、守備ブロックの強化を目的にフアン・クアドラードを外し、フアン・キンテーロをアタッカーの位置に残す。この采配で、長友佑都・乾貴士・長谷部誠の間に生まれる守備のスポットを見事に攻略した。1-1の同点としたフリーキックの場面も長友の処理ミスから生まれており、右サイド(日本の左サイド)からの攻撃は理に適っていた。それにしてもサイド攻撃の軸となるはずのクアドラードを容赦なく外したことは、ペケルマンがコロンビアというチームを知り尽くしていることを感じさせた。

 「強度の高い守備ブロックを前にすると、攻略に苦慮してしまう」ことは日本の大きな課題だ。冷静に状況を見れば、1点リードしている日本は自陣後方の数的優位なゾーンへコロンビアを引き込むことも可能だったわけだが、無理に敵陣に仕掛けられた罠へと飛び込んでしまうような試合運びは危険だった。

 後半に入り、ペケルマンはハメス・ロドリゲスとカルロス・バッカを相次いで投入。コロンビアがバランスを崩しながらも攻撃に比重を置いたことで、日本は相手に合わせるように落ち着きを取り戻した。ブロックを作られる状況よりも、相手がある程度ボールに寄せてくる局面を得意としている日本は、自陣でのボール回しによってリズムを取り戻し、試合を終わらせた。


セネガル戦における、「やるべきこと」の明確化

 難敵コロンビア相手に勝ち点3を獲得したことで、日本は重圧から解放された。セネガル戦では、ビルドアップの局面で中盤に起用した長谷部誠がCBの間に下がっていく「サリーダ・ラボルピアーナ」が機能。3バックのCBをクラブで経験している長谷部の「ボールを散らす能力」を最後尾で発揮させ、吉田麻也と昌子の2CBをサポートした。

 セネガルは両サイド、特に長友のサイドに積極的にプレッシャーを強めることによって試合の主導権を握ろうとする。だが、中央はCFのエムバイェ・ニアング1人。GK川島永嗣も含めれば、後方での4対1を生み出すことができるシステムを多用することで、日本はセネガルのゲーゲンプレッシングを外すことに成功した。

 「サリーダ・ラボルピアーナ」は、後方のラインに人間を増やしていく変化によって相手を誘い出し、3バックの形で数的優位を作ってビルドアップを円滑化。特に「人を見る」タイプの守備への対応策として使われることが多いこのビルドアップ手法は、セネガルを見事に混乱へと陥れた。

 長谷部を追って前に出ようとすれば柴崎岳を使われ、長谷部を放置すれば後ろからの組み立てが機能してしまう。このジレンマに、セネガルの中盤は苦しめられた。アリウ・シセ率いるセネガル代表は、アフリカ大陸のチームとしては規律という面で優れている。だが、試合の中で柔軟に調整できるリーダーがいるわけではない。結果、先制点を奪った後に試合を終わらせることに失敗した。CBのカリドゥ・クリバリも所属しているナポリで見せているような組み立ての中心としてのプレーは少なく、比較的シンプルなセネガルの攻撃にアクセントを加えられなかった。

 プレッシャーが弱まり、後方でのビルドアップが円滑化すれば前線のアタッカーに自由が生まれる。特筆すべきは、香川の「縦のポジション移動」だろう。ボールを後ろで保有している局面で香川は前線で大迫勇也に並び、「大迫・香川・乾・原口元気」という4枚で相手の4バックを抑えるスタイルを取った。これは、マンツーマン的に守るセネガルを相手にすると効果的だった。メキシコやホッフェンハイムが得意とする「タッチダウンパス」に近い戦術だ。

効果的だった香川の「縦のポジション移動」

 乾と原口は、CBとSBの間に生じるハーフスペースに積極的に侵入。香川と大迫がいることでCBがカバーに入れないので、強制的にSBが彼らを見ようと中央に絞ってくる。そうなれば、SBのオーバーラップしてくるスペースを抑える選手がいなくなる。

 サディオ・マネとイスマイラ・サールの両翼は縦への守備では強いが、背後へのボールに対しては後手に回ることも少なくない。前線でのプレッシングが機能不全に追い込まれ、自分の裏へとSBが飛び込んでくる。特に左サイドでの主導権争いは試合における重要なポイントとなっており、得点もそこから生まれた。

 乾が生み出したスペースを一気にオーバーラップした長友は、瞬間的に2人のプレーヤーを相手にすることで、乾のマークを軽減することに成功。サイドアタッカーのポジショニングで相手の受け渡しを失敗させることで、日本は同点弾を演出した。

 この試合で見られた好パフォーマンスの要因は、「できること」の明確化にあった。3バックの中央としての長谷部の慣れ親しんだ位置からのビルドアップ、クラブでも中央に近い位置でプレーする乾のワイドからの解放といった「クラブでの役割をベースとした戦術調整」は無駄な思考を削ぎ落すことに繋がり、結果としてシンプルで効果的な攻撃スタイルを生み出した。

 日本が「やりたいサッカー」というよりも、「今の手札でできるサッカー」を徹底したことが結果に繋がったと言える。追い込まれたことで、日本代表は個々がバラバラに頑張るのではなく、全員が「今できること」を組み合わせたチームとしての機能性を取り戻した。それが個々の戦術的な判断に依存してしまう日本の悪癖を軽減することとなり、属人的なビルドアップではない「組織的なビルドアップ」が可能となったのだ。これはセネガルにとっても予想外の展開であり、攻守の入れ替わりが激しいトランジションゲームであれば見えてこない彼らの弱点をさらすことにも繋がった。


ポーランド戦、「属人的ビルドアップ」再び

 ポーランドは内紛の報道もあったように、明らかにチームとしての勢いを失っていた。グループステージ突破を手にかけた日本は、スターティングメンバーの大半となる6人を入れ替える。しかし岡崎慎司と武藤嘉紀の2トップに酒井高徳を中盤の位置に置くスタイルは、明確なゲームプランを示すことに失敗。ビルドアップでは山口蛍が関与できず、パスコースを消された際「相手の死角で動き直す」能力が不足していることが顕在化した。

 結果、DFラインは柴崎岳を探し続けることになり、「柴崎がボールに触らないと攻撃が始まらない」という属人的なビルドアップに後戻り。まるで(西野監督就任直後の)親善試合へと戻ってしまったかのようなゲームとなった。

 長谷部の代役としてプレーさせるのなら、山口を「DFラインに組み込む」という手もあった。3バックの中央で不安なら、例えばDFラインをスライドさせることで右CBの位置に置くパターンも考えられる。近い位置にボールスキルに優れた酒井宏樹を置くことで、中距離のパスを得意としない山口をサポートすることも可能だ。

 山口はビルドアップへの関与を得意としていない。しかし彼をビルドアップに組み込まないという選択は、攻撃の幅を劇的に狭める。本来は最も休ませなければならない柴崎を酷使し、チームの攻撃を託すことは温存策と矛盾しており、疑問の残る采配だった。

 さらに、前線とアタッカーの組み合わせも中途半端。攻撃において各選手が対応するゾーンが明確化されなかったことで、コンビネーションも不発に終わる。左サイドに起用された宇佐美貴史は守備での切り替えに難があり、トップレベルで使うことは難しいという事実を明らかにしてしまった。

 2トップという陣形を考慮すれば、宇佐美には守備でも重要なタスクが課せられなければならない。だが、指揮官がそれを伝えられていたのかは疑問だ。逆サイドに酒井高徳を配置することでバランスを取ろうとしたのであれば、致命的な失策だった。

 ポーランドの右サイドに起用されたラファウ・クルザワは、柴崎と山口のポジション取りの悪さを利用して積極的にインサイドに侵入する。本来、彼をマークしなければならない酒井高はサイドMFという慣れないポジションで「相手SBがボールを持った時、背後の選手へのパスコースをどう消すのか」という部分に苦しんでおり、何度となく悪いタイミングで首を振ってしまう。結果、相手に自由を与えてしまった。

日本戦でW杯初出場を果たしたクルザワ

 バイタルエリアへの斜めの侵入を許しても、山口と柴崎がキッチリと「ゾーンを抑えていれば」致命傷にはならない。しかし、山口と柴崎はどちらも積極的にボールを奪いに飛び込むタイプ。二者間でのコミュニケーションも不十分であり、結果的に何度となく動きが被ってしまい、スペースを使われた。2人の意識は、まるで後ろにアンカーが控えている3センターのインサイドMFのようだった。「底の選手がカバーしてくれるだろう」というようなあいまいな判断が目立ち、試合中に修正することは難しかった。

 ポーランドのトランジション局面が比較的少ないゆったりしたペースを打破できず、相手に付き合ってしまったのもコロンビア戦と同様の問題だった。自分たちでリズムを作るのではなく、相手に依存していることは大きな問題だ。その背景には確固たるプレー原則の不在が、原因として存在する。

 ロベルト・レバンドフスキがカウンターで外した場面も肝を冷やすことになったが、試合の入りを考慮すれば序盤に畳みかけることも不可能ではなかった。最終的に追い詰められてしまった原因は、分析されなければならない。最終的には「談合サッカー」という一世一代の賭けに勝利することになったが、そこに至るプロセス自体に疑問を呈すべきだろう。日本はW杯という厳しい舞台で、自ら死地に追い込まれてしまった。


圧倒的なパフォーマンスを発揮する2人の「主軸」

 ロシアW杯の日本におけるビルドアップを支えたのは、鹿島からスペインに活躍の場を移した柴崎だった。自分の背後、死角を把握する能力が圧倒的に高いMFは、「相手のベクトル」の逆を取るようなパスを得意とする。距離感をつかむこともうまいので、背後から寄せてくる選手を華麗に外すプレーも少なくない。

 キックのタイミングを読まれにくい縦パスと、短い助走からの精度の高いロングキックは別格。大会前のフレンドリーマッチから、「覚醒」という言葉がふさわしいような好調を保っている。守備での距離感、空中戦の処理に難があるのも事実だが、彼を外すことは攻撃面でのデメリットが大きく、不可能に近い。

 今大会で散見されたのは、ブスケッツのような中央ではなく、モドリッチのように「横の移動」によってSBが上がったスペースを使うパターン。SBへのボールが狙われれば、それをオトリにSBを高い位置に押し上げ、彼がサイドでボールを受ける。セネガル戦では、柴崎と香川が両SBの上がったスペースを占有。DFラインとのビルドアップを円滑化しながら、「サイドを2枚で守る」相手が封鎖することができないゾーンを攻略した。

 前線に君臨するのは、ブレーメンへの移籍が決まった大迫。初戦ではダビンソン・サンチェス、2戦目はクリバリという世界屈指のCBに競り負けないことで起点としての存在感を示した。足腰が強く、粘り強い寄せによって自らのスペースを生み出す。柔らかいターンやフィジカルコンタクトを避ける大きめのタッチも絶品で、ポストプレーでの駆け引きは日本人としては別格だ。相手を背負った状態からの引き出しが多く、柴崎とのホットラインは攻撃の起点となった。

「主軸」柴崎と大迫

 2人のトッププレーヤーに加え、右SBの酒井宏を筆頭とした「高いインテンシティの中でも、正確にボールを扱える選手」が存在することによって、チームは香川や本田圭佑のような「特別なプレーヤー」に時間的な余裕を与えることに成功。単純にテクニシャンを並べるのではなく、ヨーロッパでの激しいプレッシャーに慣れた選手たちが増えてきたことで、チームが落ち着く時間を生み出した。

 日本代表はグループステージを通して、直接的にプレッシャーに対峙するだけではなく「後方に人数を増やしつつ、裏を狙って牽制するようなビルドアップ」という対応策を披露。勢いに飲み込まれることなく、冷静にゲームを運ぶ力を発揮した。平均年齢が高いことにも起因する落ち着きはチームにとっての武器で、厳しいグループを勝ち抜いた中での光明だろう。

 一方、課題となるのは各ポジションで中心となる選手への過剰な依存だ。長谷部や柴崎にトラブルがあれば、チームは組織的なビルドアップが難しくなる。前線に大迫がいない状態では、縦でボールを収めることが難しい。守備では酒井宏、吉田を欠く展開も避けなければならない。主軸への依存の原因となっているのは、確固たるプレー原則が存在しないことだ。

 単純に指揮官の責任ではなく日本の育成に起因する問題だと思われるが、試合の中での適応力にはトップクラスと大きな差が存在する。仮に日本がコロンビアの立場だったなら、開始直後に中盤の要を失うイレギュラーな状態で、冷静に組織として対応することは難しかったのではないか。世界のトップクラスは、日本の成長を超えるスピードで飛躍的に進歩している。個々の選手には、柔軟な対応力を求められている。


手負いの獣が垣間見せた「本性」。ベルギー戦から学ぶべきこと。

 プレミアリーグで活躍する怪物がそろうベルギーは、前線に君臨するロメル・ルカクへのボールを中心とした組み立てで日本を押し下げ、エリア内でのフィジカルバトルを多用した。さらに2列目が積極的にミドルシュートを狙うことで、日本のゴールを何度となく脅かした。吉田と昌子の身体を寄せた粘り強い守備によって失点は防いだが、いくつかの点で「戦術的」にグループステージとは異なった試合になったのは間違いない。

 ベルギーが採用した2シャドーは、守備面で重要な役割を担っていた。グループステージで日本のビルドアップの中核となった柴崎の「両SBがオーバーラップすることで、空いたサイドのスペースに寄りながらボールを受ける」動きが封じられたのだ。

 同時に長谷部が落ちる動きも、前線に3枚を残すベルギーの圧力によって封じられ、DFラインが出しどころを探す時間が増加。アクセル・ウィツェルがショートカウンターからミドルシュートを撃った場面に繋がった前半のボールロストも、ルカクとドリース・メルテンスによってCBがプレッシャーを浴び、柴崎にはエデン・アザールがマンツーマンでついたため昌子が苦し紛れに長谷部へのパスを狙ったところをウィツェルに奪われたものだ。

香川と競り合うウィツェル

 前線からのプレッシャーは、右CBのトビー・アルデルワイレルトによって何度となく無効化された。乾が寄せようとすれば縦パスでウイングバックを使われ、乾がプレッシャーを強めない局面ではドリブルでボールを運ばれた。ベルギーの3バックは大迫と香川の2枚に対し、数的優位を保ちながら余裕を持ったビルドアップを継続。香川が前に出ようとすればケビン・デ・ブルイネに自由を与えることになり、最も危険な状況になりやすい。

 日本が意識的に反撃の手段として使っていたのは、高い位置に進出する右ウイングバックのトーマス・ムニエの裏だった。アルデルワイレルトがスライドし切れないタイミングで、乾と長友の2枚がサイドを攻略。このスペースは逆サイドからのフィードでも有効なスペースとなり、何度となく好機を生み出した。

 先制点は、献身的な乾の守備から生まれた。ボールを預けて走り込んでくるムニエを的確に追った乾は、ボールを奪いながら身体を入れ替える。乾は、柴崎の足を止めないようスペースに的確な速度でパスを供給する。柴崎はパスを受ける前に、しっかり首を振って原口の状態を確認。ボールを受けた柴崎は、一瞬タイミングを外しながらスルーパス。前で奪いたいフェルトンゲンは駆け引きに騙され、裏に抜けたボールに触ることができなかった。原口が決めたゴールは、ネガティブトランジション(攻→守の切り替え)時に中盤の戻りが遅いベルギーの弱点を見事に攻略したものだった。日本は立て続けに香川と乾の連係でデ・ブルイネの守備貢献が甘いところを狙い、ウィツェルを回避。最後は乾が、名手GKティボ・クルトワでも届かないミドルシュートを叩き込んだ。

 しかし「2点のリードを奪われる」という予想外の展開に対しても、冷静な対処で試合を引き戻したのがベルギーの智将ロベルト・マルティネスだ。マルアン・フェライーニとナセル・シャドリを投入すると、フェライーニを右サイドに配置。長友と昌子の間に入り込みながら起点として機能したフェライーニによって、大外のスペースが手薄となっていく。

 1失点目の起点となったCKは、フェライーニがキープしようとするボールを弾き出したことによって生じた。2失点目は、アウトサイドを使って引っかけるように相手を抜き去るアザール得意のターンに大迫が外され、ラインコントロールをミスしたことでフリーになったフェライーニに頭で押し込まれてしまった。アザールを大迫が追い込んだ状況で中央のDFは完全に「クロスは封じた」と思い込んでしまっている。トップレベルの選手と対峙するには、甘過ぎる判断と言えるだろう。

 ハードワークを続けた乾は完全にガス欠になっており、シャドリのヘディングを川島が何とか防いだ場面ではフェルトンゲンのクロスをまったくブロックできず。日本が動くとすれば、中央での高さ勝負を封じる植田の投入に加え、乾のポジションに走れる選手を補充することだったのではないか。

 3失点目はGKクルトワがCKをキャッチし、完璧に連動したカウンターからのもの。ベルギーは最後の最後にトップレベルの個がエゴを捨てた美しいカウンターを披露し、試合を決めた。日本は、カウンターに持ち込まれた時点で難しい局面になってしまっていた。最大の問題は、意思統一があいまいだったこと。延長に持ち込むのであれば、難しいコースを狙う必要はない。得点を狙うのであれば、枚数を費やしても構わなかった。中途半端な状態でCKに入ってしまったことで、大きな代償を支払うことになってしまったのだ。

 主力11人がそろった日本代表は「組織的なフットボール」を披露し、世界を驚かせた。しかし、誰か一人でも欠けるとチームバランスが保てなくなる属人的なゲームモデルだった。今大会のポーランド戦では幸運に助けられたが、長丁場のW杯で上を目指すには「属人的なフットボール」では限界がある。日本人選手は協調性に優れるがゆえに、今回のように短期間でもW杯で戦えるチームを作り上げることが可能だ。一方でベルギーやコロンビアのように「長期間積み上げられた組織」を相手にすると欠陥が暴露される。プレー原則が存在しないことで、レギュラーと控えの間にある大きな差を埋めることができず、主軸が封じられると選択肢が限られてしまう。これは、改善しなければならない課題だろう。

 一方で、吉田と昌子はデュエルと呼ばれるような肉弾戦でも十分に日本人選手が劣っていないことを示した。乾や原口が決めたゴールも、「日本人は細かいパス回しからの崩しに特徴がある」というようなステレオタイプではなく、相手が整う前に迅速に崩す形だった。

 ベスト8という高い壁を乗り越えることを目指して、この大会が適切な形で分析されることを望みたい。世界は近いようで遠く、だからこそフットボールは面白いのだから。

Photos: Getty Images

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Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。